表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵と錦鯉  作者: 長村
邪龍呪殺事件
27/35

邪神、撤退する。

 それが『悲鳴』だと認識するのに、数秒を要した。

 泉の中央に立つ少女が、頭を掻きむしり身悶えている。


「──────ないで、見ないで、見るな、見るな、見るなミルナミルナミルナァァァアアアアアアアアアアアアアア!!」


 意味の無い悲鳴が、明確な懇願に変わる。何もかもを否定する、全てを突き放すような慟哭。発狂しながらも、ハッキリとした主張。

突然の出来事に、唖然とする。

「走れ!」

 判断に迷って動けずにいた俺の腕を、クロが強く引いた。反射的に、来た道を逆走する。直前まで立っていた場所が、爆ぜた。少女自身は追ってこないが、目に見えない“何か”が凶器として向けられている。


 明確な殺意に、俺はがむしゃらに走った。





 注連縄を越えたところで、悲鳴も懇願も聞こえなくなった。同時に、見えない追撃もなくなる。息を整えながら振り返るが、暗い洞窟はシンと静まり返っていた。たった今の出来事が、幻だったかのように。

「あの場から動く気は無いようだ。」

 全く乱れていない声で、クロが淡々と言う。カズラさんも少し息を乱しているが、俺ほど消耗していないように見える。命の危機に晒された人間としては、二人の人外の冷静さが少し羨ましい。

「はぁ…………原因は“彼女”で、間違いないのか?」

「うん。今ので確定できた。」

 洞窟を見渡しながら、クロはキッパリと断言する。隣でカズラさんもウンウン頷いているので、本当に間違いないのだろう。しかし俺の中では、今見た“少女”の姿が違和感として残っていた。

「あの女の子が、龍神?なのか?」

 イメージと違ったせいだろうか、つい確認してしまう。勝手に絵で見た龍の姿や、仙人のような老人の姿を思い描いていた。これは、俺が人間のせいなのだろうけど。

「どうでしょう。神様だから、見た目は好き勝手できそうですが……ちょっと腑に落ちませんね。」

 ところが、カズラさんが同意してくれた。驚いて彼女を見ると、顎に手を当てて考える仕草をしている。

「龍神の雌雄まで伝説に残っているわけじゃないから、直感ですけど……。」

「うん。本人ではないよ。」

「「えっ」」

 またしても、クロが短く断言した。

「今の“攻撃”を見た限りでは神通力を受け継いだ子孫と推測できる。生まれは人間の気配がした。可能性として挙げられるのは“先祖返り”かな。」

「あの一瞬で、よくそこまでわかったな。」

「“解析”“解明”も僕の怪異としての性質だからね。」

「こういう時のクロノさんって、本当にチート~…………。」

 感心する俺の隣で、カズラさんが若干引き気味にぼやく。付き合いは長いみたいだが、ついていけないところもあるらしい。いや、俺も全然ついていけてないが。アッサリと本質を見抜いてしまうのは、どこか恐ろしくもある。同時に、クロほど頼りになる存在もない。

「えぇっと…………龍神の子孫が、先祖返りで持って生まれた力によって、呪いを振りまいている?」

「現状はそうだね。」

「わからないのは、何で最近になって突然?ってところか。」

「うん。行方不明事件の原因はわかった。でも何がキッカケかがわからない。」

 数秒の沈黙、落ち着いて先程の少女の言葉を思い出す。悲鳴、懇願、慟哭…………その全てを。

「────見ないで、って……言ってたよな。」

「はい。とにかく誰にも近付いて欲しくない、ってカンジでした。」

「誰にも近付いて欲しくなくて、山に入る人間を殺している?」

「極端だが根底の理由ではある可能性が高い。」

「何を調べるべきか、決まったな。」


 洞窟に掘られたもう一つの道、並ぶ襖。

 今度こそ情報を得るべく、俺達は二回目の調査に乗り出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ