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探偵と錦鯉  作者: 長村
邪龍呪殺事件
26/35

邪神、出会う。

 懐中電灯を複数持ってくるべきだったと思いはじめてすぐ、その後悔は無駄となる。足元を照らしながら下りていった先に、蠟燭の火が灯っていたのだ。見回せば洞窟の壁に、等間隔に燭台が設置してある。懐中電灯を消しても、調査に問題ないぐらい。地面は板が張られた廊下となっており、想像より歩きやすい環境だ。

「さっきまで人がいた、みたいな状態ですね。」

「あぁ……。」

 明かりが灯されていることに加え、埃っぽさもない。ほぼ毎日手入れされていることが、少し見回しただけで理解できる。

「神主一家が行っていたと断定していいね。」

「信仰対象の居住区ですから、間違いないでしょう。」

「道が分かれてるな。」

 階段から正面に行くと、また注連縄で塞がれている。右に分かれた通路の先には襖が並び、いくつか部屋があるようだ。ここに住む神がコトの原因だとすれば、間違いなく注連縄の先に本命がいる。

「どうする?本命の前に、部屋の方を調べるか?」

「僕はソレを勧めるよ。また無駄足になるとしても事前情報の獲得が優先という判断は変わらない。」

「む……私としては、いっぺん敵のツラを拝んでおきたいですけど。」

 口が悪い、ずっと言ってるけど口が悪いぞカズラさん。というか、本当に神様が“敵”か否かまだわからないというのに。

「ここまで来たら、もう疑う余地は無いですって。」

 俺の考えは、言うまでも無いようだった。

「キッカケが何であれ、あの向こうに“原因”がいます。」

 カズラさんは断言し、注連縄の向こう側を睨んで「ベロリ」と舌なめずりをする。その仕草が、どうしてか背筋を凍えさせた。

「いい加減“お腹が空いて”イラつくんですよ…………」

 ゴクリ、唾を飲みこむ音が大きく聞こえる。妙齢の女性が口を薄く開いて深く呼吸する姿は、通常なら『煽情的』に見えるのだろう。しかし俺にとっては、たまらなく『恐ろしい』モノでしかなかった。これが“ヌシ”の貫禄というやつ、なのだろうか。

「本当に神が“悪いもの”になっているか否か確認するのも一理あるね。」

 カズラさんの気持ちを汲んだのだろう、クロも彼女に賛同する姿勢を見せた。そうなれば、俺が駄々を捏ねる訳にもいかない。

「助かります……じゃあ、行きましょう。」

 もう我慢できないとばかりに、カズラさんは早足で注連縄へ歩み寄る。また引き千切る気かとヒヤヒヤしたが、今度は普通に潜って進んだ。平和的な通り方にホッとしつつ、俺も後に続く。その後を、クロが一歩引いた距離でついてくる。

 躊躇いなく突き進むカズラさんについて行った先、確かに『泉』はあった。

「おぉ…………」

 今まで旅行や観光に縁が無かった俺は、初めて地底湖というものを生で見た。何故か泉周辺の灯りだけ消えていて見えにくいが、薄明りでも自然の荘厳さを感じる。


 それだけの存在感を持つものの中心に、誰かが居た。


「……女の子?」

 暗闇の中にも関わらず、確かに人の形が見える。目を凝らせば、それは人間の少女だ。長い黒髪に着物姿、いかにもホラー映画に出てきそうなシルエット。素人でもわかるほど、ただならぬ気配を纏っている。

 ゆらり、影がうごめいた。

 少女と目が合う。

 目が、合った。


「ィ────ィイヤァァ―――アアアアアアアア!!」


 状況を理解する隙も無く、高音が耳をつんざいた。



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