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探偵と錦鯉  作者: 長村
邪龍呪殺事件
22/35

邪神、追及する。

 細長い石段の先にある境内は、意外にも小ぢんまりとしていた。とてもじゃないが、全国を騒がす事件の元凶とは思えないほどに。しかし人気の観光地には間違いなく、寂れた印象は全くない。毎日きちんと手入れがされているのが、パッと見回しただけでわかった。

 しかし、誰もいない。

 参拝客もいなければ、社務所すら当然のように無人。平日であることを考慮しても、人の気配が“無さ過ぎ”る。

「シュウ。可能な限り僕から離れないで。人間が生きられる空気じゃない。」

 言いながら、俺を庇うようにクロが体を寄せてきた。既に『加護』とやらを貰っているものの、ただの人間が危険なことに変わりないらしい。呼ばれて同行してきたが、まともな戦力にはなれないだろう。

「どこから調べる?真っ先に本殿に乗り込むのか?」

「前情報を何も得ていないのは危険だ。社務所の中なら日報ぐらいあるかもしれない。」

「ここでお祓いをしてもらった誰かがキッカケ、って可能性もありそうですしね。」

「手っ取り早く『本殿が荒らされた』なんて記録でもあれば、わかりやすいのにな。」

 口に出してはみたが、だったらこうなる前に被害届が出されているのでは、とも思った。結局“あちら側”に関しては素人、専門家に任せて大人しくしていよう。そう己に言い聞かせて、俺は二人の後に続いた。

 だが当然、社務所の出入り口には鍵が掛かっている。逆を言えば、勤務中に職員が死んだ可能性が低いとも言えるが。

「他に入れそうな場所は……」

「お任せください。緊急事態ですから、手っ取り早くぶっ壊しちゃいます。」

「えっ」

 聞き返すより早く、鈍い金属音と共にドアが開いた。何も見えなかったが、恐らくカズラさんの“手足”がやったのだろう。あのスライム状の生物が、どうやって鍵を壊したのかは知る由もない。

「古い建物ですから、老朽化でみんな納得しますよ…………たぶん。」

「えぇぇ……」

 会った時から思っていたが、ちょくちょく荒っぽいなこの子。人間の頃からなのか、ヌシに必要な精神性だったのかは分からない。まぁ状況が状況なので、クロも注意することなく黙っている。なら、必要以上に突っ込むべきでは無いだろう。

 社務所の中は受付から通路を挟んで、休憩所、事務所、更衣室が並んでいる。それほど大きな建物ではないため、それぞれの部屋も狭そうだ。

「固まって動くと逆に不効率だね。シュウ────」

「じゃあ千谷さんのことは私が見ておきますから、クロノさんは事務所のほうを調べてみてください。」

「えっ?」

「────。」

 カズラさんが、クロの言葉を遮るように提案しだした。驚いて彼女を見る俺と同じく、クロも目を見開く。っていうか、さっきから俺は「え」しか言ってなくないか。

「文書関係はクロノさんが読んだ方が早いでしょうし、その間に私たちで他の手がかりを探しておきます。役割分担としては、そっちのほうが効率的ですよね?」

 こちらの反応を意に介さず、カズラさんは話を進める。立て板に水の様に話す彼女の、意図が分からない。クロは少しの間、黙ってカズラさんを見つめていた。

「────いいよ。」

「ちょ、」

「適材適所だよシュウ。彼女から離れないようにね。」

「……わ、わかった。」

 クロまで賛成してしまえば、一人で文句を言うのも憚られる。俺はカズラさんと一緒に、休憩室を調べることになった。


「…………………。」


 ……いや、意図は分からなくとも、察しはつく。

 厳密な理由は読めなくても、何をしたいのかはわかる。

「……クロがいないところで、俺に何を聞きたい?」

「察しが良くて助かります。」

「惰性とはいえ、警察官やってるんでな…………」

 たぶん、クロもわかっていてカズラさんの意を汲んだのだろう。わかった上で、必要だと判断したのだ。アイツがそう判断したなら、俺にとっても彼女にとっても必要な事のはず。それが、クロノ・B・A・アーミテージという存在。

 カズラさんは「単刀直入に」と、わかり易い前置きをして言った。

「クロノさんのこと、どれぐらい本気なんですか?」

「……本気?」

「お二人の関係については、クロノさんから直接聞いてます。でも、貴方からの言葉も聞いてみたくて。」

 彼女が俺を見る目が、徐々に強いものになっていく。

「私は“こう”なったばかりの頃、クロノさんに助けてもらいました。」

 真剣に、俺の一挙一動を逃すまいとするように。

「だから、先にクロノさんと知り合って仲良くなったのは私なのにな~、みたいな…………あ、いや、この言い方だと誤解を招きますね。別に、恋敵とかじゃないです。クロノさんのことは恩人として特別に思っていますが、恋というより『頼りになる年長者』への好意、みたいな?例えるなら、親の再婚相手に対する不信感?ってかんじで。」

 カズラさん自身も言葉に迷いながら、しかし必死さを増しながら喋り進める。

「ですが、それでも、むしろ、だからこそ…………急に『恋人』の立場に座った貴方に、思うところがあります。」



「恋人に至る経緯を、簡単にですが聞きました。」


「経緯を聞いて、思ったんです。」


「あなた、助けられた“恩”を“恋”と取り違えてません?」


「助けてくれたなら、誰でもよかったんじゃないですか?」


「本当に、クロノさん“だから”好きになったんですか?」


「教えてください。」


「千谷さんは、クロノさんのこと『本気』なんですか?」



 ああ、これは。

 答えを間違えたら死ぬやつだ、と。

 誰にでも理解できる、単純明快な窮地に立った。



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