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探偵と錦鯉  作者: 長村
OL行方不明事件
10/35

一人と一冊、甥の話。

 情けない話、記憶を辿ったが何もわからなかった。

クロが何を言いたいのかは、なんとなくわかる。捜査の過程で、もう手掛かりは出きっているということ。推理小説の常套句、読み返して考えれば読者にも犯人が分かるはず……みたいな話だ。しかし俺にひらめき力は無かったらしく、何も思いつくことができない。

頭を抱えて唸るだけの俺を見かねたように、クロはとメモを差し出してきた。本人としては、ただ純粋に、円滑に物事を進めようとしているだけなのだろうけど。

「明日ここに来ると良い。」

「え?」

ここではない別の喫茶店、駅にある有名店が書かれてあった。何もわかっていない俺に対し、クロは何の説明もせずコーヒーを啜る。

 以上で話は終わり、この日はお開きとなった。



 翌日。

 メモの店でクロと一緒に俺を待っていたのは、行方不明者の甥っ子──淳平君だった。

「あれ、刑事さん……?」

彼とは捜査で一度会っており、顔を覚えていてくれたらしい。驚いた顔で視線を泳がせる淳平君に、クロが淡々と告げる。

「行方不明事件のことで改めて話を聞きたいそうなんだ。同席させても構わないかい?」

「は、はい。」

「えっ」

 そういうことになっているらしかった。

間違ってもいないので、クロの話に合わせる。淳平君は戸惑いながらも、俺の同席を許可してくれた。丸いテーブルに向かい合い、クロは静かに行方不明事件の概要を浚う。

「猫のヤヨイくんがいなくなったのは夕方の話だったね?」

「はい。僕が学校から帰ったときには、もう姿が見えなくて……。すぐに家の周りを探したんですけど、見つかりませんでした。」

「すぐに『走海』さんに連絡したんだよね。」

 走る海と書いて『はすみ』さん、行方不明者の名前だ。誕生月が12月だったから、師走から取った当て字なのだろう。淳平君はクロの確認に対し、深く頷きながら「そうです」と答えた。

「叔母の仕事も終わっているぐらいだったので……すぐに家に来て、一緒に探してくれました。」

「日没まで見つからなかったので君は先に帰った。」

「…………はい。叔母さんが、気を使ってくれて……危ないから、家にいろって。」

「それが最後の会話だということだね。」

「………………はい。」

「シュウ。ここまでが先日に聞いたことのお浚いだ。」

「お、おう。」

 確認するように、クロがこちらに視線を向けた。慌てて頷き、情報が共有されていることをアピールする。俺の反応を見て、クロはまた淳平君に向き直った。

「ヤヨイくんは子猫のころ走海さんに拾われたキジトラ。世話も走海さんが行っていたが一人暮らしを始める段階で君へ引き継いだ。」

「はい。」

 走海さんは就職と同時に一人暮らしを始めたので、実家には両親・姉夫婦・甥が5人で住んでいる。ここまでは警察で調べた情報と同じだ、何の違和感も無い。クロが言っていた「きっとわかるよ」の意味は、まだわからない。

「最も懐かれているのは走海さん。その次に君。他の家族にはあまり近付かない。」

「……はい。」

 淳平君の反応が、少しだけ変わった。肩が縮こまり、指先が落ち着かない。目がわずかに泳いで、何かを迷っているように見える。何を言うべきか、口籠っている。俺が気付いているのなら、クロも気付いているはずだ。なるほど、彼にはまだ話していない何かがある。クロが俺をこの場に呼んだ理由は、ハッキリした。

 何も見ていないかのように、クロは話を続ける。

「ヤヨイくん探しは君と走海さんだけでやっていた。」

「はい。近所の人にも、見てないか聞いて回ったりしましたけど、基本的には。」

「両親と祖父母は家にいた。」

「………………はい、そう、です。」

「淳平君。」

 ぴしゃり、冷や水を浴びせるようにクロが名前を呼ぶ。語気の強さから、淳平君は大きく肩を震わせた。こちらにも水滴が飛んできたような心地に、俺まで口を噤む。怯える淳平君を安心させるためか、クロは「大丈夫」と今度はゆっくり言った。

「今。ここに君の両親はいない。祖父母もいない。そして僕達には守秘義務がある。話したいことを話すといい。君が知っていることを話して欲しい。正直に。」

 口籠る淳平君に、クロは淡々と話を促す。彼の両親、行方不明者の姉夫婦には聞かせられない話?俺はクロの顔を見るが、彼はジッと淳平君から目を逸らさない。表情も変わらなくて、何を考えているのか読み取れない。まあ、いつものことなんだけど。

 クロの態度に緊張しながらも、淳平君は意を決したように頷いた。

「叔母は……もしかしたら、自分から望んで姿を消したんじゃないかって……思うんです。」

「なぜ?」

「…………母の比較対象であり続けることに、嫌気がさしたんだと。」

 淳平君は、自分の目線で見てきたことを語り始めた。


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