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8.泥


 ペティが祈りを捧げたあと、五匹のビッグラットを狩った。


 すべて最初の一匹と同様にテオが一撃で仕留めた。


 気配を消して近寄り、首に一撃。すぐに周囲を警戒し、安全と分かれば解体する。そしてペティが祈りを捧げる。


 それの繰り返しだった。


 剣に詳しくないペティだが、寸分違わず同じ軌跡をたどる剣筋が普通ではないことは分かった。橙色の冒険者であるテオの実力の高さがうかがえた。


 「今度はペティにやってもらうよ。解体まで含めてね」


 次の標的を探している最中にそう言われた。


 六匹のビックラットを仕留めたのにペティは未だに祈りを捧げただけだった。

 聖職者で魔法の使い手なので後方に控えているのはあたりまえではあるのだが、その魔法すら使っていない。


 このままでは足を引っ張った上にただ飯食らいになってしまう。


 そう考えていたペティにとってはありがたい提案だった。


 「やり方は見てたね? 近づいて一撃くらわせるんだ。キミの力でもスマッシュを頭に決めれば十分だ」


 「……わかりました」


 「危なくなったら俺がカバーするから安心して。──ちょうど見つかったね」


 テオの視線の先には新たな灰色の巨大な鼠が一匹。

 口をもごもごと動かしている。近くにはキノコがいくつか生えている。どうやら食事中のようだ。


 ペティがテオを見るとこくりと頷く。


 どうやらいっていいらしい。


 テオの見よう見まねでビッグラットに近づいていく。音を出さないように地面に落ちた枝や枯れ葉に注意する。


 呼吸が浅くなっているのか息が苦しい。意識して深く息を吸う。心臓の音がうるさい。震える両の手をごまかすように杖をギュッと握りしめる。


 ──いこう。


 後ろには橙色の冒険者がついている。なんとかなる。


 覚悟を決め、茂みから思い切って飛び出すペティ。


 ビッグラットの目の前でスキルを発動するべく杖を振り上げる。


 「ピギュー!」


 こちらに気づいたビッグラットが頭を上げ威嚇する。

 それに構わずスキルを発動する。


 「『スマッシュ』……!」


 神に与えられた魔法とは別の力、スキル。

 スキルに従って握りしめた杖がビッグラットの頭めがけて振り下ろされる。


 「ピギャッ!?」


 ぐにゃりと肉を叩き潰す感覚。

 ペティが振るった杖はビッグラットの鼻先に命中した。鼻はつぶれ、醜さが幾分か増した気がする。


 しかし命中した場所が悪かったのか、まだ生きている。

 ペティは急いで追撃しようと体を動かす。


 「『スマッ』──ッ!」


 スキルを発動しきる前に右足に衝撃が走る。

 尻尾だ。しなやかな鞭のような尻尾で足を打たれたのだ。


 ペティに今すぐうづくまり患部を押さえたい衝動が走るが、なんとかそれをこらえる。

 そんなことをしていれば噛みつかれ、もっとひどいことになる。


 ──痛いけど、今はがまんっ!


 痛みに耐えていると、ビッグラットが離れていく。

 逃げたわけではなかった。ビッグラットの頭が下がるのが目に入る。前足に力が入っているのが見て取れる。


 馬車でテオが言っていた突進がくる。


 直感的にそう思った。


 足は痛む。でも動けないわけじゃない。


 勢いよく飛び込んでくるビックラット。それを転がるように横に避ける。


 ──帰ったらお洗濯しなきゃ。


 妙に冷静な頭が転がったせいで汚れた聖衣を見てそんなことを考える。


 思考を切り替え、ビッグラットを見ると木のそばで倒れていた。

 どうやら木に突っ込み気絶してしまったようだ。


 近寄って確認するとヒューヒューと音が聞こえる。まだ息はあるらしい。


 今度こそと落ち着いてスキルを発動すべく深呼吸。

 大きく息を吸って、吐ききる。もう一度息を吸い、杖を振り上げる。


 「『スマッシュ』……!」


 ぐちゃっと再び肉を叩き潰す感覚。それと何か固いものを潰す感触が一緒に手に返ってくる。おそらく頭蓋も叩き割ったのだろう。

 様子をみると既に息はしていなかった。ちゃんと倒したのだろう。


 ……いや、ちゃんと殺したのだろう。


 スライムは無機質で、表情の見えない生物だった。

 そしてなによりあのときは他のことを気にする余裕など無かった。


 しかし、今はどうだ。

 目の前には自分の手で殺めた生物だったもの。


 手に残る感覚を聖衣で拭おうとする。

 しかし泥に汚れた聖衣では不快感が増すだけだった。


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