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4.ペティ


 「私も連れて行ってください!」


 ギルドにて依頼を受けているテオの後ろから、透き通るような声がかかる。


 テオが振り向き声の主を確認する。

 長く伸ばした金髪と、清楚さを覗かせる整った顔。小柄な体を包む聖衣。


 ついこの間、スライムに襲われた村にて助けた少女だった。

 緊張しているのか顔に硬い表情を浮かべ、両手で杖を固く握りしめている。


 「連れて行けというのは依頼にということか?」


 「そうです」


 「……復讐ならお勧めしないよ。モンスターはこの世から消えてくれない」


 「復讐なんかじゃないです。……ただ私みたいな人を増やしたくないだけです」


 少女はテオの目を見てはっきりと言い切る。


 ──まぁ一回くらいなら。


 幸いテオが今回受けている依頼はビッグラットの討伐依頼。駆け出し冒険者でも十分に受けれるものだ。少女一人くらい守りながら戦うこともたやすい。


 「ハルさん、冒険者登録お願いします」


 「もう準備してるわ。ほらこっちおいで」


 カウンター越しに話を聞いていたハルは既に冒険者登録に必要な書類を手にしていた。

 今は少女に向かって微笑み、手招きをしている。






 「文字の読み書きはできる?」


 「はい、大丈夫です」


 じゃあこれに記入してね。と言われ書類と羽根ペンがカウンターに置かれる。


 差し出された書類には冒険者登録証と書かれていた。記入する項目は名前、性別、年齢、使用武器に使える魔法の系統。それだけだった。


 少女はペンをインク壺に浸し書類に記入する。書かれていく字は丁寧で読みやすいものだった。

 すべて記入し終え受付嬢に書類を返す。


 「えーと、名前はペティで年齢は十五。武器は杖で魔法は回復系統ね」


 書類を声に出しながら確認する。それと同時に球体の機械を操作している。


 操作が終わったのか紫色の金属板を二枚機械にセットする。

 ハルが機械に手をかざすと球体は淡い光を放つ。ジジジッと金属板に何かが刻まれていく。どうやら魔力で動くものらしい。


 「はい、これが認識票ね。身分証にもなるから無くさないでね」


 さきほど機械にセットしていた金属板に紐を通して手渡される。


 「知ってると思うけど一応説明しておくわね。ペティちゃんは今日冒険者になったからランク7で色は紫ね。ランクは例外を除いて一から七まで。色は順番に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。依頼をこなした数や普段の素行、討伐したモンスターの脅威度によってランクは上がっていくから頑張ってね」


 片目を閉じ茶目っ気溢れる表情でハルは言う。


 「頑張ります!」


 ペティの真面目で元気の良い声にハルはくすりと声を漏らす。


 「依頼はあっちの壁に毎日張り出されるから、自分の実力にあったものを選んでね」


 ハルが指差す先を見る。そこには壁一面を埋めるように設置されたコルクボードがあった。依頼はすべて受けられているのか特に何も張られていなかった。


 「テオ君がいるから大丈夫だと思うけど気をつけてね」


 先程までとは違って言い含めるような口調でそう言われる。

 何とも言えない表情。心配されているのだろうか。


 「ハルさん、メンバー追加の手続き」


 片手剣と盾を携えた男──テオがハルに話しかける。


 「あー、ほんとはダメだけどテオ君だしいいよ。私がやっとくから行ってきなさい。遅くなると日帰りできなくなるよ」


 「ありがとうございます。……じゃあいこうか」


 テオはハルに頭を下げ、そのままギルド出口に向かっていく。

 置いて行かれまいとペティはテオを小走りに追っていく。


 「おうテオ! 今日は何を狩るんだ?」


 ギルドには飲食店が併設されている。

 冒険者には喧嘩っ早い人も多くいる。外の飲食店で問題を起こされるよりも、ギルドの目が届く所で暴れてもらった方が都合が良いのだろう。


そこで朝から酒を飲んでいた男がテオに声をかける。


 「今日はビッグラットだ。東の村で数が増えてるらしい」


 「ほーん。まぁいいや。今度ドラゴンの依頼あったら手伝ってくれよ!」


 「あぁ、余った依頼がなかったらな」


 「わかってるって! 掃除屋の邪魔はしねぇよ」


 どうやら男とテオは知り合いらしい。

 世間話をしているうちに男が注文していたのか料理を女給が運んでくる。


 優しそうな大きな瞳に人好きするだろう温和な表情。セミロングの黒髪。そしてなにより大きく育った胸に目を引かれる。


 ペティの視線に気づいたのか、彼女はふわりと笑みを浮かべる。

 胸を見ていたのがばれ、ペティは顔を赤らめる。


 女給はテオに気がつくと顔の横で手を振る。顔にはさっきとはまた違った笑顔。どうやらこちらも知り合いらしい。


 テオはぶっきらぼうに手をひらひらと振りギルドから出て行こうとする。


 再び置いて行かれまいとテオの後ろを追っていると


 「いってらっしゃい」


 女給の小さな声がペティの耳には届いた。


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