3.報酬
そこには農村があるはずだった。
しかし革鎧を着込み、剣を携えた男の目に写るのは、水色の液状生物と倒れ込んだ一人の少女。
──……やはり遅かったか。
男が依頼内容を確認したとき最初に感じたのは「手遅れ」だった。
スライムはすぐに増える。早いうちに全滅させなければ手がつけられなくなる。
現に今、手がつけられなくなった結果が男の目の前に広がっている。
「……仕方ない」
そう呟いた男は腰に下げたポーチから小ビンを取り出す。
取り出した小瓶をスライムの集団に放り投げる。
ビンは放物線を描き地面へ衝突する。パリンと音が鳴り、その瞬間周りに冷気が吹き荒れる。
冷気に当てられたスライムたちの動きが鈍る。
一匹ずつ、一撃で核を破壊しながら少女へと近づく。
跳びかかってきたスライムを左手に持った盾でたたき落とす。他と同じように一撃で核を破壊する。
辺りのスライムを倒し尽くすと男は少女に声をかける。
「大丈夫か?」
「はい、これが今回の報酬」
受付嬢はそう言うと、カウンターに貨幣の入った布袋をどさっと置く。
彼女の声は、報酬でどんちゃん騒ぎしている冒険者たちの声の中でもよく通った。
「……ありがとう、ハルさん」
浮かない顔で布袋を受け取った男を見て、茶髪を肩口で切りそろえた受付嬢──ハルははぁとため息をつく。
「あんまり気にしちゃだめよ、テオ君。そんな顔してるとまたアルチェちゃんに心配されるわよ?」
「……わかってます」
再びハルは大きくため息をつく。普段は快活さを覗かせる瞳は伏せられ、肘をつく。頬に手のひらを当てるその姿は妙に様になっていた。
「こんなこと言っちゃあれだけど、一人助かっただけでも十分な成果よ。……本来ならあの依頼は誰にも受けられる事はなかったんだから。スライムの数は多い。その割に報酬は少ない。だからランクの低い冒険者には任せられないし、高ランクの冒険者は割に合わない。あの娘が助かったのはテオ君のおかげよ」
「……また明日来ます」
ハルにそう伝えると、テオはギルドから出て行く。
ギルドの外に出ると、ぴょうっと乾いた風が出迎えてくる。
テオは冒険者たちの騒ぐ声を背に帰路につく。