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回復の巫女と最強の勇者  作者: 水崎雪奈
第一章 五年の月日と儀式
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第4話 大事なこと~前編~

 紅茶のクッキーをほおばり、次に木の実のケーキを食べさせてもらう。

 少し味は薄いが、その分木の実の味がしっかりとしていていくらでも食べれそうな感じだな。これは後で料理長に言ってもらって毎日のように出してもらおっと。


「エル」

「どうかしましたか?」

「これおいしい!」


 エルにそう言うと、すごくうれしそうな笑みを浮かべてうなずいてくれた。

 

「では、料理長に伝えておきますね。…そうだ。こちらはいかがですか?カレーと同じで、転移者が教えてくれた“プリン”です。卵とミルクを使ってて、おいしいんですよ」


 そう言いながら、差し出されたのは小さい器に入った黄色っぽい何か。材料的には、すっごく甘そうなんだけど…。上にかかってる黒っぽいソースはどういうものなのだろうか。

 少し警戒しつつ、スプーンに一口すくってもらって食べてみる。少し苦いけど、甘さと良い感じにマッチしてて普通においしい。なんでこんなにおいしいのが、別世界にあるんだろ。この世界にはないのに。


「これもおいしいけど、なんでこんなにおいしいの?」

「初めて食べる味だから。と言うのはもちろんですが、加工の仕方とかひと手間加えて作っているのが影響しているのではないかと」


 詳しく知らないのか、エルは短く答える。分からないなら、料理長か転移者に直接聞くしかない。

 どこで生活しているのかは知らないが、料理のことを抜きにしても会ってみたくなった。


「夕飯まで後一時間ぐらいですね。お嬢様、おやつをそろそろ…」

「ん?」


 夢中になって、お菓子をつまんでいたらエルに止められる。と言うか、もう食べ終わるごろなんですけど。

 

「もしかして、全部食べましたか?」

「エルもつまみ食いしてたよ?」

「そうですけど…。明日は、少し運動量増やしますね」


 どうやら食べ過ぎたらしい。ていうか、こんなにおいしいって感じるとはな…。生まれ変わると味覚に変化があるのか?おいしいから良いんだけど。

 エルに淹れてもらった紅茶を飲んで、おやつタイム終了。夕飯まで何してよっかな。

 

「――お嬢様。本でも読みませんか?いくつか持ってきてもらっているんですが」


 本、か。歴史とか魔法関連の本があれば読みたいけど、まだ子供だから絵本とかの類かな。


「どんな本?」

「そうですね。歴史関連のお勉強に最適なものから、かわいらしい絵本など。どれでも興味あるものを言ってくれれば、お読みいたしますよ」


 エルはそう言って、にこっと笑う。それにつられて笑みを浮かべて、俺は並べられた本から魔法道具に関する本を取り出した。結構新しめの本だから、最近書かれたものだろう。どこまで発展したのかが気になるから、魔導書の比較的新しいやつでも良いんだけど…まぁこれで良いだろう。


「それじゃあ、これ読んで」

「かしこまりました。こちらにどうぞ」


 エルに手招きされて、座布団の上に座るエルの膝の上に座る。…ややこしいな。

 エルの膝の上で本を開いて読んでもらう。五歳児とは言え、ずっと寝ていた身のせいか少し眠くなりながら、頑張って聞いた。


「今では、本当に便利な魔法道具…魔道具がそれなりに手ごろな値段で手に入りやすくなりましたからね。それに関する調査書とかも出回っているので、扱いやすく危険性も低いのでほとんどの一般人が使用していると聞きました」


 魔法道具を“魔道具”と呼ぶのは、その研究・制作に関わった人たちだけだった気がするが。

 まぁ、そうして生活が豊かになるのは良い事だと思う。俺がやっていた研究が誰に引き継がれたのか気になるところではあるが、それでもここまで発展させた魔法使いがいたんだな。


「魔法道具ってどんなのがあるの?」

「ゴミを吸い取ってくれるものや、料理する際に火をつけるものなどですね。今、実用化を図ろうとしている道具もあります。…えっと、確か最後の方のページに研究途中の成果が書いてあった気が…」


 そう言って、ページをめくっていく。結構スピードはゆっくりだから、何となくどのページに何の道具の説明があるのか把握できた。俺が研究していた道具は載ってなかったけど。


「このページですね。髪の毛を乾かせる風属性の魔法道具。これが実用化されれば、安全なんですけどね。風属性は安全だと言われる一方で、少し出力を間違えるだけで人を殺せる魔法ですから」

「…これ、仕組みがしっかりしてない。これじゃあ、魔石を消費したところで風魔法は出ないはず」


 どうしたって、魔石部分から出力するところまで動線が引いてない。…“風”だからって、これでうまくいくはずがない…。


「お嬢様、見て分かるんですか?」

「ん?あれ、何か言った?」

「言ってましたよ。ちゃんと聞いてました」


 やべ。気になって考えてはいたけど、口に出ちゃったか…。誤魔化す。ってのは無理だよな…。


「まぁ…詮索はしませんけど。旦那様には黙っておきますね」

「言ってないんだけど」

「そういうことにしておきます」


 くすっと笑ってエルは俺の頭をなでなでする。誰にも言わないなら、特に問題はない…かな。

 魔法を使える人の方が珍しい中で、魔法道具の構造が理解できて作れる人はほんの一握りしかいない。これがバレて転生者であることがバレれば、すぐに誰か分かるだろう。


「エル、続き」

「あ、はい。分かりました。次は…これですね」

「――魔法陣?」


 ページをめくった先にあった“魔法陣”の絵。実際に使用できるかは知らないけど、結構ギミックが精密に組まれてるところに興味がある。

 

「魔力を込めることにより、魔法を使える絵みたいなものですね。私も見習いの時はずっと魔法陣とにらめっこしてました」

「それじゃ、この魔法陣使えるの?」


 ちょっと興味を持ってそう聞いてみると、エルは黙ったまま静かに首を横に振った。


「ちゃんと作られていないので、使うのは危険です。それと、多分ですがこの魔法陣は使用できませんね」

「そうなんだ。んー。ねえ、エル。魔法って誰でも使えるものなの?」


 エルの言い方に少し違和感を覚え、エルになんとなく聞いてみる。魔力を持つ人間は全体の半分ぐらいだって聞いたような気がするんだよな。

 そんな風に考えてた俺は、エルの言葉に耳を疑った。


「魔法と言いますか、魔法陣を通しての魔法なら大体の人が使えますよ。魔法使いより劣ってしまいますが、魔力さえ持っていれば大丈夫です」


 大体の人?それじゃあ、十年前より増えたのか?

 魔力は遺伝ではない。だが、何故魔力を持つ人と持たない人が出るのか。そこが疑問視されてきてはいた…。はずなんだけどなぁ…。


「ですが、使う人は冒険者と呼ばれる人たちと私のようなメイドだけだったりします。魔法道具の方が使い勝手が良いので」


 エルはそう付け足して、ページをめくる。ふーん。昔も今も変わらず、魔法道具の需要は高いんだな。なんか安心する。


「魔法道具って、みんな使うんだね」

「はい。便利になって、生活が豊かに…快適になりましたから。使わない手はないんですよ」

「そうなんだ」


 それだけ言って、俺は心の中で(うれしい、ありがとう)とつぶやいた。

 同業者にも聞いて欲しい言葉だな。…研究室から出ないやつら多かったし、普通からかけ離れて生活してて何も知らないやつもいたから。大きくなったら、顔を出しておきたいな。“レイ”として。


「まだもう少し時間がありますが、何をしましょうか」

「歩く練習したい。早く自分で動けるようになりたいから」


 俺はそう言って、エルを見上げる。まだ、こういった動作でさえ悲鳴をあげたいぐらい痛い。

 仕方ない事ではあるんだけど、だからと言ってこのままでいいわけではないからな。早く普通の生活を送れるようにならないと。


「分かりました。頑張りましょう」


 エルに手を持ってもらって立ち上がる。そのまま部屋の中を少しずつ歩いた。一歩一歩痛みに耐えながら。


「大丈夫ですか?」

「う、うん。もう少し…」

「――お嬢様、無理はしないでくださいね」


 つらそうな表情をエルに気付かれ、心配される。これは自分がやりたくて…いや、やらなきゃいけないからやる。それだけのことだから、心配はしてほしくない。なんなら、応援してほしいぐらいだ。

 そんなこんなで、30分近く練習して俺はエルに抱いてもらって休憩に入った。結構しんどい。


「お疲れ様でした。飲み物でも飲みますか?」

「…うん、飲む」


 小さく返事して、紅茶を飲ませてもらう。あー、体の節々が悲鳴上げてるんじゃないってぐらい体が痛い。

 後、体力無いからへとへと。動けるようになったら体力作りだな。…問題しかないんだけど。


「夕飯…そろそろですかね。食堂へ向かいましょう、お嬢様。歩きます?」

「やだ。抱いててほしい」

「分かりました。それでは行きましょう」


 抱きなおして、食堂へ向かう。エルが。俺はもう今日はずっとエルに頼る。じゃないと倒れる気がする。

 ていうか、今日の夕飯はどうなるんだろ。皆で囲むのか場所を分けるのか。…何か揉めていたっぽいし、もしかしたらカイトたちと一緒に食べれないのかも?それは寂しいなぁ。


「あ、旦那様」

「…エルか。マリア、お前に大事な話があるんだ」

「お嬢様、旦那様と一緒に。私はついていけないので」


 食堂の前ぐらいでカイトと出会う。エルの腕からカイトの腕の中に移動して、食堂に入った。

 イアとルアの父親で前王のじいさんと、ルア。それからカイトと俺の4人だけか。イアはいないのか。


「お義父様」

「ふむ。…この子があやつが産んだ、マリアだったかの」

「はい。そうです」


 じいさんと顔を見合わせる。少し気まずいが、どこか気付いた様子で。

 ていうか、あやつって言っただろじいさん。イアが嫌われる悪女だってのは満場一致だけど、そこまで嫌そうに言わなくてもいいだろうに。


「わしが、マリアのおじいさんじゃぞ」

「じいじ。…ねぇ、パパ。喉乾いた」


 少し挨拶的なものをして、俺はカイトの方を向いてそう言う。後、いいにおいがしてくるからご飯にしようよ。俺、お腹空いた。


「そうだな」


 カイトはそう言って俺を椅子に座らせて、飲み物を取ってくれた。ん?これなんだろう。


「ジュースだ。すごくおいしいぞ」

「…うん、おいしい」

「あー、りんごジュース…。カイト、私にも頂戴」


 飲んでたら、横からルアが手を出してきた。これ、りんごジュースなんだ。すごくおいしい。

 んで、一体この集まりは何なんだよ。家族水入らずで食事したいって言うなら、イアがいないのおかしいし。大事な話があるって言ってたよな。


「とりあえず、夕飯にしようかの」

「そうですね」


 じいさんのひと言で食事が運ばれてきた。あ、肉がある。しかも野菜が充実しているし。まさに俺とルア好み。…ルアが頼んだのかな、この献立。


「それじゃあ、いただきます」

「いただきまーす」


 食前の挨拶をして、みんなでご飯を食べる。私はルアの横でルアに食べさせてもらう。ん、おいしい。肉の味付け完璧だな。


「…マリアちゃんってカイトに聞いた通りの好みなんだね。本当、レイにそっくり」

「確かにな。昨日の夕飯も、レイと同じものを真っ先に食べていた」


 食いつくように食べていたら、ルアにそう言われる。まぁ、前世の記憶があればみんなこんなもんだろ。俺としては、バレないように気をつけなきゃって言うのはあるんだけど。やっぱり好きなもの食べたいよなぁ。


「あ、ねえ。マリアちゃんってクッキー好き?」

「クッキー?さっき、エルがくれたおいしいやつ?あれ、大好き」

「なるほど…」


 甘い物はきらいだったから、ルアが首傾げちゃってる。俺だってばれないだろうな…あ、このスープおいしい。あっさりしてて、肉に合う感じ。んー、肉貰おう。


「そうだ。マリアちゃんに一つ選んでほしいものがあるの」

「んー?」


 肉を口に入れたまま、俺は首をかしげる。選んでほしいものってなんだ?

 じいさん、カイトと顔を合わせて、じいさんが口を開いた。…わざわざじいさんが?


「小さいおぬしには少し難しいんじゃがな。…ルアと、イア。おぬしはどっちに母になってほしいかの?」

「――えっ?」

少し短くなりました。

次は結構鍵になる部分だと思うので、気合入れて作ります。

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