表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/56

第8話 東の町で起きたこと

 皆さん、こんにちは。

 突然、物語の主人公になり、なんか戦ったりとか色々と大変な目にあうことになった少年、和也です。

 そんなおれ率いる一行は、無事に東の町に着きました。町人の家に求めてもらい、とりあえず野宿は避けることができました。

 ……避けることはできましたが――。

 あの双子がいます。

「ランブを助けてくれた恩人だ。お礼に協力してやってもいいぜ?」

 …的な感じで仲間に入り、おれ入れて3人だった一行は、5人になったのです。

 いや〜、心強い、心強い!


「ま、仲良くいこーぜ!」

 ジュンガは笑いながら、エンブの肩にポン、と手をのせた。…とたんにエンブの表情が鋭くなる。

 そして、ジュンガの顔の真横を、風が勢い良く吹いた。そのあまりの勢いに、頬が少し切れるかと思ったほどだ。

「その耳、風でブチ切られたい?」

 満面の笑み。

「何だよ、触っただけじゃねーか!!」

 その笑みにムカついたのか、声を張り上げてエンブを怒鳴りつける。しかし、エンブは特に気にしてないような表情をしており、ランブが少し笑いをこらえた様子でジュンガに話した。

「触っていいのはカズヤだけなんだって、エンブは」

「そー言うこと♪」

「んだとー!あの力はオレの力もあったんだけど!?エコひいきーーーっ!!」

「漫才をするな、漫才を!」

 和也の一言で、3人は少しだけ静まった。


 心強いけれど、先行き不安なのは自分だけ…、ではないよね?


「そう言えば、あの双子は風を扱うのか……」

 コウリンが双子をじっと見つめながら、呟くように言う。そのつぶやきを聞いた和也は眼を丸くしてコウリンの近くに寄る。

「風が…、どうかしたのか?」

 和也の質問に、コウリンは眉間にしわをよせ、何かを考えるような様子で和也の質問に答えた。

「普段は穏やかでも、気まぐれで突然激しくなる……。まさに双子そのものなんだよ、風は」

「…あ……」

 双子、そのもの……。

 双子も、ちゃんとした力を持っている……。


「みんな力を持っているんだよなぁ…。無力なのはおれだけ、かぁ」

 和也のつぶやきに反応したのは、一番近くにいたコウリンだった。コウリンは真剣な表情で和也を見つめるので、和也は複雑な気持ちになり目をそむけた。

「…どうしてだ?」

「え……?」

 突然のコウリンの一言に和也は驚き、まぬけな声を出してしまった。

「あの時双子を助けたのは、お前なんだよ。ジュンガがお前のために力を貸すことを決めたのも、お前なんだよ」

「お、れ…?」

 そうだ、お前は人を――――――――。

「それがお前の――」

「失礼しまーす!」

 ガチャリと部屋のドアが開き、和也たちより少し年下ぐらいの少女が入ってきた。和也たちが止まっている町人の家の一人娘だ。少女はトレイを持っており、そこにはお茶の入ったコップが人数分のっていた。

 少女が来た途端、コウリンの顔が真っ赤になったのは言うまでもない。

「お茶、ここに置いておきますね」

 ニコリと笑い、少女はそばにあった机にトレイを置いた。

 和也は笑って、素直に礼を言った。


 その時、彼女がどんな顔をしていたかも知らずに――――。


 彼女が去っていってから、和也はコウリンの方を見つめた。

「おれの…、何?」

とたんにコウリンの顔が真っ赤になる。口をパクパクさせながら、コウリンはそっぽを向く。

「バカ……、し、知るかっ!」

「え!?何怒ってんの!!」

 彼女もある意味ツンデレである。そんな分かりやすい態度をとられているのに、気付かない和也はただの天然である。

 決してわざとなんかじゃない。

 そんな二人の様子を、半分呆れ顔でジュンガは見ていた。しかしその表情は、どう見ても構ってくれなくて寂しそうに見える。

「カズヤが構ってくれないから寂しいんだ」

「…………殺すぞ」

 あえてからかった双子の方を見ずに、ジュンガはドスの利いた声で呟くように言う。そんな彼を、双子は「こわ〜い」と言いながら、からかうが…無視する。

「…オレはただ」

 ギャーギャー騒ぐあの二人が、じれったくってしょうがないだけなんだけど……。

 そう思いながら、ジュンガはふと和也の方を見た。和也は、先ほど少女が持ってきてくれたお茶を飲もうとしていた。


 その時。


 ――――どくん。


 いやな予感がした。

 飲んではいけない。飲んではいけない。飲んではいけない。

 …頭の中に、その言葉だけが流れる。


 ――――飲んではいけない……!!


「カズヤッ!!!!」

「…え!?」

 その途端、驚いた和也の手から、お茶をまき散らしながらコップが落ちた。


 ――――がしゃんっ。


「ったく!!いきなり声を上げるから……」


 ため息まじりに和也はしゃがみ、コップの後処理をしようとこぼれたお茶に手を伸ばした。

 お茶に触れた瞬間、触れた指に痛みが走った。

 じゅ、と音がなる。

「!?」

 和也はビクンと体をこわばらせると、すぐに手を引っ込めて、指を見た。指は、まるで火傷をしたような状態だった。しかし、別にお茶が熱いわけではない。


 お茶はお茶ではなかった。


 和也はすぐにジュンガの方を見た。ジュンガは難しい顔をして、割れたコップと謎の液体を見ていた。

「どうして、これが…!?」

 訊くと、ジュンガはニッと笑った。

「野生のカン」

 すると、急にドアを激しく叩く音が、部屋中に響いた。


 どんっ、どんっ…!!

「あいつら、気づきやがったぞ」

「仕方ない……!」

「完璧だったはずなのに…、どうしてっ!?」

「えぇい…、ドアにカギがかかって…っ!!」

 音とともに、男女問わず声が聞こえてきた。その中には、先ほどの少女の声や、その少女の親の声まで聞こえた。

 …………このままでは。

「攻め込むぞ!!」

 確実に殺られてしまう。


 ――――バタンっ!


 ドアが開いた時には、もう五人の姿はなかった。部屋の窓が開いており、今の雰囲気には似合わなすぎる、穏やかな風が吹いた。




 彼らはただ、がむしゃらに走っていた。

「急げ!」

 ジュンガの声で、全員の足が速まる。

 ジュンガは、(一応)狼の化身なので足はみんなよりも随分早かった。多少余裕を持って走りながら、後ろを見る。

 後ろには、ほかの四人が走っている。

 さらにその後ろから、声が風に乗って聞こえてくる。


 沢山の足音。

 沢山の声。

 すべてさっきの奴らのものだ。

「なんで…、速すぎだろっ!!」

「あいつらは、操られてるんだ。…この力を持っているものたちは……!」

 コウリンは難しい顔をする。

「操る力を持っているのは、《10人の束縛者》だけだ」

 和也は眼を見開いた。


 つまり、すべて束縛者のせいってことで……。


「んな“王道”な!」

「それ禁句」

「さらっと突っ込むな―――!!」

「あっ」

 会話の最後に双子が呟いた。2人してピタッと同時にとまって、同時に喋った。

「前から足音」

 だだだだだ…、と音が鳴り響く。

 前からも。

 後ろからも。

 つまり挟まれた状態。

「くそ…っ!出て来いよ、束縛者!!」

 ジュンガが走るのをやめて怒鳴る。辺りも見回しても、いるのは和也たちだけだったし、聴こえてくるのは足音と怒鳴り声だけ。

 ――だめだ…!

 もう、間に合わない……っ!


「ストップ。もうOKよ」


 女の声だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ