第8話 東の町で起きたこと
皆さん、こんにちは。
突然、物語の主人公になり、なんか戦ったりとか色々と大変な目にあうことになった少年、和也です。
そんなおれ率いる一行は、無事に東の町に着きました。町人の家に求めてもらい、とりあえず野宿は避けることができました。
……避けることはできましたが――。
あの双子がいます。
「ランブを助けてくれた恩人だ。お礼に協力してやってもいいぜ?」
…的な感じで仲間に入り、おれ入れて3人だった一行は、5人になったのです。
いや〜、心強い、心強い!
「ま、仲良くいこーぜ!」
ジュンガは笑いながら、エンブの肩にポン、と手をのせた。…とたんにエンブの表情が鋭くなる。
そして、ジュンガの顔の真横を、風が勢い良く吹いた。そのあまりの勢いに、頬が少し切れるかと思ったほどだ。
「その耳、風でブチ切られたい?」
満面の笑み。
「何だよ、触っただけじゃねーか!!」
その笑みにムカついたのか、声を張り上げてエンブを怒鳴りつける。しかし、エンブは特に気にしてないような表情をしており、ランブが少し笑いをこらえた様子でジュンガに話した。
「触っていいのはカズヤだけなんだって、エンブは」
「そー言うこと♪」
「んだとー!あの力はオレの力もあったんだけど!?エコひいきーーーっ!!」
「漫才をするな、漫才を!」
和也の一言で、3人は少しだけ静まった。
心強いけれど、先行き不安なのは自分だけ…、ではないよね?
「そう言えば、あの双子は風を扱うのか……」
コウリンが双子をじっと見つめながら、呟くように言う。そのつぶやきを聞いた和也は眼を丸くしてコウリンの近くに寄る。
「風が…、どうかしたのか?」
和也の質問に、コウリンは眉間にしわをよせ、何かを考えるような様子で和也の質問に答えた。
「普段は穏やかでも、気まぐれで突然激しくなる……。まさに双子そのものなんだよ、風は」
「…あ……」
双子、そのもの……。
双子も、ちゃんとした力を持っている……。
「みんな力を持っているんだよなぁ…。無力なのはおれだけ、かぁ」
和也のつぶやきに反応したのは、一番近くにいたコウリンだった。コウリンは真剣な表情で和也を見つめるので、和也は複雑な気持ちになり目をそむけた。
「…どうしてだ?」
「え……?」
突然のコウリンの一言に和也は驚き、まぬけな声を出してしまった。
「あの時双子を助けたのは、お前なんだよ。ジュンガがお前のために力を貸すことを決めたのも、お前なんだよ」
「お、れ…?」
そうだ、お前は人を――――――――。
「それがお前の――」
「失礼しまーす!」
ガチャリと部屋のドアが開き、和也たちより少し年下ぐらいの少女が入ってきた。和也たちが止まっている町人の家の一人娘だ。少女はトレイを持っており、そこにはお茶の入ったコップが人数分のっていた。
少女が来た途端、コウリンの顔が真っ赤になったのは言うまでもない。
「お茶、ここに置いておきますね」
ニコリと笑い、少女はそばにあった机にトレイを置いた。
和也は笑って、素直に礼を言った。
その時、彼女がどんな顔をしていたかも知らずに――――。
彼女が去っていってから、和也はコウリンの方を見つめた。
「おれの…、何?」
とたんにコウリンの顔が真っ赤になる。口をパクパクさせながら、コウリンはそっぽを向く。
「バカ……、し、知るかっ!」
「え!?何怒ってんの!!」
彼女もある意味ツンデレである。そんな分かりやすい態度をとられているのに、気付かない和也はただの天然である。
決してわざとなんかじゃない。
そんな二人の様子を、半分呆れ顔でジュンガは見ていた。しかしその表情は、どう見ても構ってくれなくて寂しそうに見える。
「カズヤが構ってくれないから寂しいんだ」
「…………殺すぞ」
あえてからかった双子の方を見ずに、ジュンガはドスの利いた声で呟くように言う。そんな彼を、双子は「こわ〜い」と言いながら、からかうが…無視する。
「…オレはただ」
ギャーギャー騒ぐあの二人が、じれったくってしょうがないだけなんだけど……。
そう思いながら、ジュンガはふと和也の方を見た。和也は、先ほど少女が持ってきてくれたお茶を飲もうとしていた。
その時。
――――どくん。
いやな予感がした。
飲んではいけない。飲んではいけない。飲んではいけない。
…頭の中に、その言葉だけが流れる。
――――飲んではいけない……!!
「カズヤッ!!!!」
「…え!?」
その途端、驚いた和也の手から、お茶をまき散らしながらコップが落ちた。
――――がしゃんっ。
「ったく!!いきなり声を上げるから……」
ため息まじりに和也はしゃがみ、コップの後処理をしようとこぼれたお茶に手を伸ばした。
お茶に触れた瞬間、触れた指に痛みが走った。
じゅ、と音がなる。
「!?」
和也はビクンと体をこわばらせると、すぐに手を引っ込めて、指を見た。指は、まるで火傷をしたような状態だった。しかし、別にお茶が熱いわけではない。
お茶はお茶ではなかった。
和也はすぐにジュンガの方を見た。ジュンガは難しい顔をして、割れたコップと謎の液体を見ていた。
「どうして、これが…!?」
訊くと、ジュンガはニッと笑った。
「野生のカン」
すると、急にドアを激しく叩く音が、部屋中に響いた。
どんっ、どんっ…!!
「あいつら、気づきやがったぞ」
「仕方ない……!」
「完璧だったはずなのに…、どうしてっ!?」
「えぇい…、ドアにカギがかかって…っ!!」
音とともに、男女問わず声が聞こえてきた。その中には、先ほどの少女の声や、その少女の親の声まで聞こえた。
…………このままでは。
「攻め込むぞ!!」
確実に殺られてしまう。
――――バタンっ!
ドアが開いた時には、もう五人の姿はなかった。部屋の窓が開いており、今の雰囲気には似合わなすぎる、穏やかな風が吹いた。
彼らはただ、がむしゃらに走っていた。
「急げ!」
ジュンガの声で、全員の足が速まる。
ジュンガは、(一応)狼の化身なので足はみんなよりも随分早かった。多少余裕を持って走りながら、後ろを見る。
後ろには、ほかの四人が走っている。
さらにその後ろから、声が風に乗って聞こえてくる。
沢山の足音。
沢山の声。
すべてさっきの奴らのものだ。
「なんで…、速すぎだろっ!!」
「あいつらは、操られてるんだ。…この力を持っているものたちは……!」
コウリンは難しい顔をする。
「操る力を持っているのは、《10人の束縛者》だけだ」
和也は眼を見開いた。
つまり、すべて束縛者のせいってことで……。
「んな“王道”な!」
「それ禁句」
「さらっと突っ込むな―――!!」
「あっ」
会話の最後に双子が呟いた。2人してピタッと同時にとまって、同時に喋った。
「前から足音」
だだだだだ…、と音が鳴り響く。
前からも。
後ろからも。
つまり挟まれた状態。
「くそ…っ!出て来いよ、束縛者!!」
ジュンガが走るのをやめて怒鳴る。辺りも見回しても、いるのは和也たちだけだったし、聴こえてくるのは足音と怒鳴り声だけ。
――だめだ…!
もう、間に合わない……っ!
「ストップ。もうOKよ」
女の声だった。