第6話 『超危険人物』(1)
2人の少年はよく似ていた。
1人は茶色の髪、1人は黒色の髪。それ以外は大体よく似ていたのだ。
しかし、似ていないところもあった。
雰囲気が、ちょっと違ったのだ……。
「え、イヌミミって言ったよね…?」
和也は眼を丸くした。ジュンガは今、自分の中にいるから見えないはずだ…、なのにイヌミミという理由がわからなかった。
と、その時、嫌な予感がした。
恐る恐る、和也は自分の頭へと手を動かす。
ソレは、あった。
「ぎゃあぁぁぁぁっっっ!!イヌミミィィィッ!?」
ジュンガではないのに、和也の頭にはジュンガと同じ黒い耳が付いていたのだ。
…女性向け、決定。
落ち込む和也に対して、ジュンガは腹がよじれるほど笑っていた。
その時、またしても疑問が浮かんだ。…それは2人の少年についてのことだった。
そっくりなようでそっくりではない……。
まるで、それは…――。
「探してた双子じゃん、一番“王道”的出会いじゃん!!」
『あー、っはは…。腹いてー、息できねぇー…っっ』
特に理由もなく叫ぶ和也に対して、ジュンガは呼吸ができないほど笑っていた。
「双子って、俺らのこと?」
茶色の髪の少年が訊いてきた。和也は気持ちを切り替えて、双子の方を笑ってみる。…もちろん、引きつっていたが。
「2人を探していたんだ。…あ、村人たちとは関係ないから、ちょっと訊きたいことがあるだけなんだ」
和也の言葉を聞いて、双子は顔を見合わせる。その動き方までもがシンクロしていて、和也は双子のすごさを改めて感じる。
そして、双子はハモリながら一言言った。
「《10人の束縛者》だと思ったから?」
和也は「え…」と呟く。
双子は和也の反応を特に気にせずに話を進めた。
「俺ら、違うぜ?…印ないし」
茶色の髪の少年が言うと、後に続くように黒色の髪の少年が言う。
「というか、おれらも探してる」
「探してる……」
おれらの他にも、そんな人がいるなんて……。
皆、束縛者のことなんて知らない人の方が多いのに。
『だったらさ!!』
「!?」
ジュンガが突然声を上げる…と、和也の体がほんのり光り、ジュンガが和也の体から出てきた。とたんに和也についていた耳や、二本の印も消える。
「一緒に探さねーか?人数が多い方が楽だし」
「ちょっと待て、コウリンがいないのにそんな勝手なこと…!」
「大丈夫、許してくれるって」
「いやだ」
最後の『いやだ』で、沈黙が流れた。
言ったのは双子だ。もちろんハモりながら。
「お前らみたいなドジ踏む奴らと、居たくない」
「ハモって言うなぁ!!」
もちろんジュンガが怒鳴り声をあげる。単純だから。双子に向かって野生モード全開で吠えまくる。もちろん、双子は特に気にしていない。
――双子って生意気キャラが多いよね……。
まぁ、そっちの方が人気があるんだけど。
和也がそんなことを考えていたのは、誰にも内緒だ。
そんなとき、聞き覚えのある女の声が聞こえた。
「カズヤ、ジュンガ!!」
和也が声のした方を見ると、そこにはコウリンが走ってきていた。
……まさか。
コウリンがここへ来る理由はただ一つ。
「村人が、森の中へと……!!」
村人たちが、動き出したことを知らせるとき―――。
和也は双子の方を見た。
『超危険人物』と言われ続け、嬉しい奴なんているわけがない。慣れたつもりでも、やっぱり辛いはずだ。
双子は笑ってもいなかったし、泣いてもいなかった。
……無表情だった。
「平気だよね、ランブ」
「大丈夫だよ、エンブ。…というかさ、あいつらが俺らを……」
「捕らえられるわけがないよな」
無表情のまま簡単な会話をして、双子、エンブとランブは…――。
叫んだ。
「うわああああああああぁぁぁっっ!!」
森じゅうに響き渡る大声。それを聞いて、数10名の声と足音がこちらに近ずいてくる。
「な、んで……?」
呆然としながら、コウリンは双子を見つめながら言う。双子は薄く笑みを浮かべながら、そこにいる3人に向かって言った。
「面白いから」
低いトーンで、二つの声がハモった。
そして、周りには数10名の村人たちが和也たちを囲んだ。
「今日は逃げれないぞ、くそガキどもが」
「何もしてない人を襲って、そこにいる人たちにも危害を加えようとしていたんだろう」
双子を睨みつけて村人たちは次々に言う。まるで今までの不満をぶつけるように…。その不満は言葉には出てないが、双子とは関係のないことまでも含んでいるようで、和也は胸が痛くなった。
これじゃぁ、まるで八つ当たりだ。
「彼らは何もしていない!むしろ助けてくれた」
和也は一歩前に出て村人たちに訴えた。しかし村人たちは認めようとしない。
何も見てないくせに…っ!
和也は歯ぎしりをする。また一歩前へ出ようとすると、茶色の髪、つまりエンブが和也を止めた。
「あんたは手を出さないで。俺らが全てやる」
「…っ」
『全てやる』。その言葉に和也は重みを感じた。
彼らはすべてを自分たちで抱えようとしている。それがどれほど苦しくて、辛いかを、和也はよく知っていた。
だから……。
楽になってほしいけれど……。
エンブは右手を村人たちの方へと向けた。
腹黒く、しかし別の感情も含んでいるように見える笑みを浮かべ、エンブは呟いた。
「全て吹き飛べばいいのに」
とたんに右手から風が巻き起こる。まるでエンブの感情を表すかのように強く吹く風に、村人たちは踏ん張ることもできずに一気に吹き飛んで行く。カズヤも一瞬気を抜いて吹き飛びそうになったが、ジュンガがしっかりと支えてくれた。
支えてもらったとき、和也は双子をじっと見てながら考えていた。
ああ、ちゃんと自分の力で戦っている。
おれは自分で抱え込んで、戦おうとしても、結局誰かに迷惑をかけてしまうんだから……。
彼らの方が、力も心も強いんだ……。
風が巻き起こっている時、風に乗って声が聞こえてきた。
「くっふふふっ…、みんな騙されやがって。あの双子もいい気味だ」
「!?」
……なんだ、どういうことだ…!?
和也が考えると同時に、風がやんだ。