最終話 『“王道”は禁句』
完結。
あれほど長いと思っていたり、うんざりしたり、いろんなことで悩んだ物語が。
もうこれで、主人公としての役目が本当に終わる。
「さて和也君、まずは俺を解放してもらおうかな?」
涼が言う。ライガもぺこりと頭を下げた。
「ジュンガー」
「もしかしてこれ、最後の仕事だったり?」
「《相棒》と一緒にってのは、最後かもね。和也はまだ仕事があるけど」
刻の言葉に、妙に気合を入れてジュンガは和也と合体する。
そうか、これでおれとジュンガは最後なのか。
そう思うと、和也はなんだかこのままでもいいような気がしてきた。あれだけ合体すると耳が生えて嫌だったのに。なんて考えると口元が緩んだ。
『カズヤ?』
「ごめん、行くよジュンガ」
涼の体に向けて、爪を振りおろした。
「ありがとう。やっぱり最初和也君のこと知った時も思ったけど、いい子だね、和也君。いろいろ迷わせるようなこと言ってごめんね」
「いいえ。それが役目ですからしょうがないです」
「そうだね~、俺の役目ももうおわりか~」
そう言って涼はにやにやする。そしてライガの頭を撫でた。
「お前もいろいろ不自由だったな、ライガ。化身だし」
「…ううん、大丈夫」
どうやらライガも、現実世界から来た者らしい。
「よし、和也。最後の仕事だ」
「何をするんだ?」
刻のところに駆け寄ると、刻はにやりと笑う。いつも通りのイケメンにしか許されないちょっとムカつく表情だ。
「この本の題名、それをつければ終わりだ。この本は魔力を失う。そして俺らは元の世界へと戻る。…こことはお別れだ。もちろん、次元の違う場所からきている者たちとも」
「…わか、れ」
双子はもともとここの世界の者だし、コウリンとジュンガは…多分違う世界の者。
結局今まで過ごしてきた仲間とは離れてしまう。
「そっか、やっぱり別れるんだ…」
ふとランブは呟く。
「おれら、カズヤのことすっごく好きだから…、おれらのこと助けてくれた命の恩人だから、離れたくなかった」
そう言って笑うランブの頭に、ぽんとエンブは手を置く。
「…ありがとうカズヤ。ほんと、オレらがこうして笑っていられるのも、カズヤのおかげだよ」
そう言ってエンブも笑う。
最初はこんな風に笑ってくれるとは思ってもみなかったのに…、いつの間にか、こんなに自然と、普通の双子として過ごせるようになったなんて。
「うん、うん。おれからもありがとう。2人に助けられたこともたくさんあるし、本当ありがとう」
ありがとうといた瞬間、ああ本当に、お別れなんだと思うと頭の奥がつん、とする。
「コウリン、ジュンガ。その…」
「カズヤ」
コウリンが、和也の言葉をさえぎる。
「和也、私の本当の名前…」
そう言いながら、コウリンは和也の手をとると指で文字をなぞる。
清・華。
「せい、か?」
「そう。清華…、中原清華。私の名前、少し前に思い出したんだ。だから…、離れても、この名前だけど覚えてて、欲しい、から…」
そう言いながらコウリンは俯く。手をとっていたコウリンの手を和也は握り、頷いた。
それを見て、タイミングを見計らってジュンガは2人に飛びつく。
「なぁに、次元が違うとか言ってるけど、現実世界にいるんだからきっと会えるさ!それがどんな形でかは知らないけどさ♪」
「相変わらずお前は、そういうノー天気な…」
和也がうんざりした様子で言うと、ジュンガはうん、と急に静かな声で言う。
「オレ、木戸真に戻っても、ちゃんとするから。引き籠ってないで、ちゃんと外に出て学校に行く。親に迷惑もかけない。ちゃんと友達作る。あと、すぐ暗くならないようにちゃんと、ちゃんと―――――っ!?」
ぽつりぽつりと言いだすジュンガの頬を和也はつまんで引っ張る。
「いだだだだだだだだ!!なになになに??」
「大丈夫だから」
騒ぐジュンガの動きが止まる。
「もう大丈夫だから、現実世界に行った時、普通に過ごしてたし。ちゃんと自然にやれるから。…な」
相変わらず頬は引っ張ったまま、和也は笑う。
「やっぱりリアルツンデレェェって痛い痛い痛い!!ごめんなさいごめんなさい言わないからぁぁぁぁ」
「まぁこのくらい騒げるなら大丈夫だな」
やっとジュンガから手を離すと、ジュンガの頬は妙に赤くなっている。
「和也、そろそろいい?」
「ああ」
刻が呼ぶと、和也は彼の元へと行く。
「思いついた言葉を、言って」
刻はそう言って、和也から離れた。
これで、この本ともお別れ。
散々この本に苦労させられたのだから、最後くらいいい題名をつけてやろうじゃないか。
そう。
この本にぴったりの。
「まぁ、これはべたかなぁ…?」
自分の思いついた言葉に、和也は苦笑する。
まぁいいか。
それも“王道”ってことで。
「『 』」
その瞬間、風が勢いよく吹いた。
なぁコウリン、やっぱりおれはこの言葉を言っちゃうわ。
……あー、やっぱり駄目だよなぁ。
はいはい。分かってますって。
“王道”は禁句、だもんな。
しゅーーーりょ―――う!!
…と言いたいところなんですが
最終話とか言いつつ、実はちょっとした裏話があるので
もう少し付き合ったいただけたら幸いです。
でも、これが最終話です。
やっぱり“王道”はいいなぁ。終わり方に苦労しないから(笑)