第51話 主人公として
力で勝つって、今までなかったことない?
いっつも過去を見て、なんかそういうフラグが立って、非力ながらにもおれが相談に乗ってあげる~みたいな流れだったことない?ねぇ、ジュンガ。
そしたら鎖から解放されてさぁ。
え…、なるほど。
よくよく考えたら、おれらの目標って束縛者解放じゃんか。倒すとか関係ないんだった。
さすがジュンガ。
ってことは。
「この展開は、意外と鬼畜設定ってことですか」
『オレは、この束縛者に勝てる気がしません!!』
実は自分たちの実力で勝ったことって、一度もなかったりする。
「五行の力、全てが合わさればどんな力よりも強くなる」
「え…」
いきなりシンがつぶやいた。
「このくらい避けられなければ、主役である意味がない」
その瞬間、シンの周りに強い力が渦を巻いているような、そんな錯覚。
もしかしてこれが、五行の力…?
「泣き言ばかり言ってないで、さっさとかかってこいよ!!」
ど、んッッ!!!!
わけの分からない力が、わけのわからない光となって、和也たちに襲いかかってきた。
「ジュンガ!!」
『飛ぶぞ、カズヤ!』
ぎりぎりで、和也は空中へと飛び上がる。久々に飛び上がって少し体は強張ったけれど。
もう、嫌な予感しかしない。
それは和也たちだけではないようだった。
「なんかもう駄目な気がする」
「おれこれ以上人が死ぬのは嫌だよ…っ」
「大丈夫だ。眼はちゃんと塞いでやるから」
『やめろぉぉ、お前ら仲間だったろぉっ!!』
冷たい仲間たちにジュンガはツッコミを入れる。
それでも分かっている、本当は期待している、ちゃんと見守っていてくれているんだって言うことか、分かっているからこそつっこめるのだ。もちろんそう思っているからそんな非道なことが言えるわけだが。
そんなとき和也は、ちょっとだけ違うことを考えていた。
さっきの技でレントは死んだのだろうか…?
あれを防ぎながら、レントは片腕を切り落として…死んだのだろうか?
そう思うと、なぜだろうか。
良く分からない感情が、ふつふつと湧いてきてしまう。
これは抱いてはいけない感情なのだ。自分立ちはこれをしに来たのではない。
9人目を解放するために、決して……。
敵討ちじゃ、ないのに。
「ジュンガ、おれはやっぱりレントが死んだことに対して、納得がいかないみたいなんだ」
『…は?』
「だから、おれ、またどこかで…、違う。もしかしたら今すぐにでも…」
『…まさか』
「暴れてしまうかもしれない」
刹那。
『やめろカズヤ!!』
ジュンガが言う前から、和也は動いていたかもしれない。
和也は急に、普通の人間だった手を獣のような手にして、シンの方へと駆けていく。
そのままシンの刃と、長く鋭い爪を、交えた。
「っ!!」
「敵討ちじゃないんだ、でも、良く分からないけど、抑えられない…っ!!!!」
カンッ、という音が響き渡ると、シンの刀が吹っ飛んだ。シン本体は踏ん張って何とか倒れずにいた、という感じだ。
『カズヤ!お前感情に呑まれてるんじゃ…!』
「しらねぇよ!!」
弱い、自分。
感情に呑まれるとか、おれどれだけ戦ってきたんだよ…今まで。
どれだけ主人公としてやってきてたんだよ。
結局これじゃ。
おれは、この本の物語をめちゃめちゃにしに来た、悪役じゃないか。
「…おれは、何しに来たんだろう」
『何って、この物語を完成させるために来たんだろう?』
「おれが来たことによって、誰かが幸せになるようなことはあっただろうか」
『少なくともオレは見失っていた本当の自分と向き合えて、幸せだぞ?』
フッと、息が詰まる。
「本当に?」
『何でここでオレが嘘つかないといけないんだよ!!』
頭の中で響くジュンガの声に、和也は苦笑気味になる。
「だってお世辞」
『本当だってば、おれどんなけ信用してもらってないんだよ』
そう言いながらも。
ジュンガも笑いながら言っている。
ああ。
ちょっとだけ目が覚めたかもしれない。
「薄々思ってたけど、おれってネガティブだね」
『今さら過ぎて突っ込む気にもなれん』
もしかして今は、幸せな時間かも、なんて思いそうになった時。
少し離れた所から、クスリと笑う声が聞こえた。
「そうか。だから、かぁ」
「…シン…?」
急にシンが笑って言うものだから、和也とジュンガ、もちろんそのほかの人までポゲェッとなる。唯一涼はにやついていたが。
恐る恐る、和也はシンに話しかける。
「あ、えっと?どう言うことで…」
するとシンは、一見クールなようなその外見から離れた、温かい笑みを浮かべて話してくれた。
「主人公だなぁって」
「????」
話が分からない。
「知ってるよ俺。これまでの束縛者をどう倒してきたのかを。その倒し方さえも元祖の方とは違うからねぇ」
「はぁ」
「だから、最初から力でねじ伏せようとさせたわけじゃないんだ」
ん?
シンの話したことは、ある意味衝撃的だった。
人を傷つけないような倒し方。だからこんな物語が生まれた。作り変えられた。
そこで9人目としての役目である、物語を変えないためのストッパーとして立ち塞がったわけだが。
最初出会ったときに、本当は戦う予定だった…のだが、城から出て行こう見たいな展開になったためにレントと一騎打ちになる。その展開を、「ちょっと待った!!」を止めてしまうことは9人目のタブーである。
だからレントと戦い、彼が命を捨てる覚悟があったから…殺す展開になった。
その後は、あのように「殺すしかなかった」とか、「運命だった」と言う。
そして戦う。…で、彼が主人公だという行動を見せれば終わり、という流れである。
なんだか騙したような感じだが。
「9人目は不自由な立場だよ。ストッパーであるから自由なことはできないし、あくまで流れに乗らなきゃいけないからね」
「てかキャラ違いません?」
「全部フリなの!演技!!だから不自由だっていったじゃん」
そう言いながら笑うシン。クールな外見とは正反対だ。
「じゃぁ涼先輩も知ってたんですか!?」
「まぁね」
ああ、何だったんだ。
とたんに和也一行は脱力。
「結局おれらには力で誰かと戦うってことはできないタイプなんですね。ちょっとだけ情けない」
「まぁ、元祖の主人公と和也の力は同レベルだけれど、考え方がやっぱり違うんだよ。和也は人の体の方を、心配しているから」
「前の主人公は、向かってくる奴は殺さなきゃ…って考えだから」
シンと涼が言う。それを聞いて納得をするはするが、ちょっと新たな疑問が浮かぶ。
「そんな非道な物語で、他の束縛者感動したんですよね?非道だけど、いい話だったんですか?」
それを聞いたシンは、首を振る。
「バッドエンドだよ。それもかなり酷い。でもね、次元の流れは違うから、束縛者が読んだ物語はそれではないんだ」
「…え?」
眼を丸くする和也に、シンはまた温かい笑みを浮かべて笑った。
「彼らが読んだのは、この物語かもしれない。もっとも、まだ完結していない物語だから、これとは限らないけれどね。和也が死んだら、この物語は主人公不在で意味のないものとなってしまうから」
「主人公がいなくても、物語は進むのでは?」
「この本を書いた作者はこう願っている。“誰もが最後に笑っている、ハッピーエンド”を。だから主人公がいなくなったら強制終了。レントの場合は、最期は幸せだと心から願っていたしね」
なるほど、ようやく辻褄が合うような合わないような。
「まぁ束縛者は物語を覚えていないし、他の者もそうだけどね~」
なんて言いながらへらっと笑う。もしかしてシンは、涼と同類なのかもしれない。
「さて、そろそろ開放してもらおうかな。役目も終わったし」
「ああ、それは任せてください」
ジュンガ、と和也は声をかけながら、爪をシンの方へと向ける。
「もうすぐ終わるけど、元祖がバッド展開だから、最後までとんでもない展開になるかもしれないけど…、でも主人公はこんな子だから、ちゃんと“王道”的ハッピーエンドで完結されてくれると信じてるよ」
そう言ってシンは笑った。つられて和也も笑う。
「はい、しっかり完結して見せます」
そう言ってシンに向かって爪を振り上げ、鎖を切った。
「10人目とはすぐだよ。すぐ。頑張ってね」
「それって…」
シンは最後まで意味深なことを言って、スゥッと消えていった。
「あの人、人を騙すのが上手いわね」
眉をひそめ、引きつった笑みを浮かべながらコウリンは言う。彼女も結構この展開に驚いているようだ。
「でも言っていることは納得したわ。カズヤはやっぱり主人公だってことも判明したしね」
にやりと腹黒い笑みを浮かべながら、コウリンは和也の眼を見る。
ああ、彼女はやっぱりこういう子なんだ。
「さて和也君、さっそくだけど」
いきなり涼が和也に話しかける。
「はい?」
「俺については何もつっこまないの?」
「…はい?」
「高校生活とここを行き来して、さらに前に物語がどういうものかさえも知っている。なんでだと思う?」
涼の横で、ライガは無表情のまま立っている。
「確かに、最初は驚いたんですけど、…何故かって聞かれたら分からないです…けど…」
とたんに風が吹いた。強い風にその場にいた者が眼を閉じる。
タイミングの良い風が止み、眼を開け涼を見る。
誰もが動きを止めた。
涼の頬には、あの印が付いていたのだ。
「俺が、まぁ正式には俺とライガかもしれないけど…。君らの思っている通り、束縛者だよ」
10人目は、こんな近くだった。
さてさてさて。
そろそろ完結かと思いきや、後5話ほどあったりなかったり(笑)
春休み中に終わるのでしょうか…。
案外この51話はきつかったです。駄文がさらに駄文になった気が…。
最終話までは一気に謎解明です。
正直言って戦わないかも?
後、普通にみんな10人目が彼だって分かりましたよね…、まぁ“王道”ってことで許して!!