第49話 わかったよ
あけましておめでとうです。
今年もこの小説をよろしくお願いします。
疲れた。
泣き疲れた、なんて初めてのことだろう。しかもその前にいろんなことがありすぎて、泣き疲れただけではないかもしれない。
そう思いながら、和也は部屋の天井を見つめた。
わかってる。
早くこの思いを乗り越えて、9人目を倒さなければならないことを。
けれどなんだろう。
体に力が入らない。
大切な人が、自分から離れていくことはよくあったけれど、この世のどこにも存在しなくなるのは、生まれて初めてだ。もう2度と会うことはできない。笑いあえない。
そう考えてしまい、体に力が入らない。
これは一体なんだろう。悲しいけれどまだ、現実に起こったように感じられない。
「レント。おれって主人公なんだよな」
答えはないが、主人公であるのは分かっている。自分でも。
それでも聞いてしまうのは、きっと物語の中だからもしかして…、と思ってしまうから。
しかし物語でも現実になってしまう。
死ねば、死んだことになる。
何で物語のくせに、こうなんだよ。
自分が感じたものは、ずっと心に残るから現実となる。
だから負った傷の、全部。
今までは構わないと思った。
だけど今は、それがいやだ。
うつろな目で和也は、冷たい床に横たわっていた。
「ジュンガ」
コウリンの声で、ジュンガは目が覚めた。
いつの間に眠っていたのだろうか。なんだか眼が痛い。
そっか、オレ泣いていたんだ。
眼のあたりを触りながら、ジュンガは笑う。けれど実際には笑った、気がしただけであり、全く笑っていなかった。本人は気付いてはいないが、それは酷く淋しい表情で、虚ろな目で、それ以外のものは何一つなかった。
彼の頭についている耳が、垂れ下っているように見えた。
「ジュンガ」
もう一度コウリンが声をかける。今度はジュンガの肩を握って。
「わかってるよ、コウリンがいるってのは」
ジュンガは言う。
そういう意味じゃない。
「そうじゃなくて」
ジュンガの体を揺らす。ジュンガは眼を丸くするだけで何も分かっていない。
相当傷ついている。
「あの時の和也を怖いと思ったのは、私も同じだ。私だって、和也の肩を支える事が出来なかったんだ。だから」
「コウリンはいいんだよ!!!!」
びくっとコウリンの動きが止まった。
「コウリンはいいんだ!!他の奴もいいんだ!!でもオレは、和也の《相棒》なんだよ。どんな時でも和也を支えてあげなきゃいけないし、和也はオレが苦しんでいたときに助けてくれた。オレが和也を傷つけても……!!だからオレはちゃんとしなきゃと思っていたのに。思って、いたのに……っ!!!!」
怖い?
オレが暴走したあのときも、和也はそう思ったはずなのに。
それなのにオレが思っちゃ駄目じゃんか。
「ごめんなさい…、俺はどう足掻いたって変われないんだ。オレのままなんだ……」
嫌だよこんなの。
もう和也のもとに帰られない。
薄汚れた地面の上に、ジュンガは座り込む。
体を震わす。
それにコウリンはどうすることもできない。
「何してんのさ」
「っ!?」
二つのハモった声に、コウリンとジュンガは顔を上げた。
そこには双子がいた。
かつてレントを憎み、殺そうとした2人が。
「どいつもこいつも。そんな、死んじゃったモノをどうすることもできないし、抱いた感情を抱かなかったことにはできないじゃんか」
エンブが2人に目を合わせないようにして言う。
「ここからどうするかは和也が決める。それを支えんのがお前らの役目じゃねぇんじゃなかったの?」
さらにエンブが言葉を放つ。そんな彼の後ろでランブが俯いて立っていた。
もう泣いてしまいそうな表情で。
「こっから和也は、あいつを殺すかもしれない。あいつを開放するかもしれない。でも和也はその選択さえもできない状態なんだ。じゃぁそれを何とかすりゃいいじゃんか。何を困ってんだよ。怖いなら怖い。で、なんだよ。結局やることは一緒だろ」
ジュンガが体を震わす。
そして、その瞬間立ち上がると、まるで狼のように動いてどこかえ行ってしまった。
「…エンブ」
「いいんじゃないの?別に。どうするかなんて勝手だし。あんたも行きたい所へ行ったら?」
やっぱりエンブは眼を合わせぬようにして、ぽつりと言った。
「ありがとう」
そう言い残して、コウリンはどこかへ去って行った。
「……………」
「エンブ…っ」
2人きりになった途端、ランブはエンブの背中へとしがみ付いた。肩を震わせて、涙を流す。
それと同時に、エンブも唇を噛む。
俺らはこれが精一杯なんだ。
「何で、罪を背負ったって思ってたんだよ」
もう良かったのに。両親を殺したことはやっぱり憎いけど、それでもランブを助けてくれたことで、もういいのに。なんでそんなことしたんだ。
それじゃぁ一緒じゃないか。
俺らの周りから多くの人が消えるのは、もう嫌なのに。
「死ぬ必要なかったのに!!!!!!」
どんどんどん!!
ドアを叩く鈍い音が、和也のいる部屋に響いた。
音と共に、聞き覚えのある声が聞こえる。
「和也、和也!!」
…ジュンガ……。
ふっと、和也はまた泣きそうになる。
「和也!お前の大切な時に、オレは何一つ出来なくてごめんな…っ。お前に抱いちゃいけない感情を抱いてごめんな…、こんな《相棒》でごめんな…っ!!」
泣いているのか、声が震えている。
そんなことないのに、謝る必要なんかないのに。
謝るのはおれのほうなのに。
「ごめんな、弱虫なオレでごめんな……っっ!!!!」
「違う!!!!」
ドアの向こうで、息を飲む気配がした。
「おれ、自分のことでいっぱいいっぱいだった。ジュンガ達のこと、考えられなかった。おれのほうが弱いんだ。謝るのはおれのほうだ。こんな主人公で、ごめんな…」
「違う、オレのほうが謝らなきゃいけないんだ!!」
「違う、おれなんだ!!」
「違う、オレ!!」
「違う!!」
っていつもの癖で変なことになってるし…。
…いつも……?
ジュンガのおかげで、おれ…。
「ジュンガ!!」
「ぎゃんっ」
和也がドアを一気に開けた途端、顔をドアにぶつけたジュンガの短い悲鳴が上がる。
「悪ぃ、ジュンガ。でもお前のおかげで、おれはわかったよ!」
笑って言う和也に、ジュンガは眼を丸くする。
…そして彼も笑った。
「わかったか」
「わかったよ」
2人は笑い合う。
少し離れたところで、コウリンも微笑んでいた。
ちゃんと笑えるようになってて良かった。
もう和也は落ち込まない。
そうだな。
和也はちゃんと強くなっているから、どれだけ自分が無力だと思っても、それで自分の存在を憎むことはない。
回りには大切な人がいて、支えてくれるし。
自分の意思をちゃんと持てるようになったから。
「物語が変わったことによって、死ぬ運命のモノが生きている。けれど、生きる運命のモノが死ぬことはない」
それはいいことなんだろうかね?
もう結末は、誰も分からなくなっている。
この作品を生み出した人間さえも。
そろそろ縛られる時間だなぁ。
そして、彼らに真実を伝えるのも。
さて、そろそろ本当にクラマックスに近いですね。
最後のセリフを言った人は誰?
そしてまだなにも明かされていないこの本の正体。
本のもともとのお話。
自称魔女であるコウリンの謎。
…等々いろいろあるんですが
最後の最後に一気に開かされている予定です。
多分もう全部分かっちゃってるような人もいるんでしょうか。
この人があーいう人で、とか。
とにかく続きもぜひよろしくです。




