第48話 傷
和也たちは宿に帰らなかった。
こんな状態で帰ったら、彼女と彼女の家族が心配する。やっと自我を取り戻した和也は、そう言いながら城の近くにある村で泊まりたいと言い張った。もちろん、みんなも心配かけたくないという気持ちなので、誰もその意見に反対はしなかった。
それに、彼の言うとおりにして。
少しでも心を落ち着かせてあげたい。
まだ、彼の死んだこの場所に留まりたいのかもしれない。
目が真っ赤に腫れた。
もともと怪我をした方の手には血が。
もう片方の手には割れた瓶の破片が。
強く握っていて、血が流れている。
ちゃんと痛みは感じているのだが、痛みを感じていないと、どうにかなってしまいそうだった。わけのわからない感情でぐちゃぐちゃになってしまいそうで。
だから、誰とも話せなかった。
こんな自分でごめんなさい、ぐらいしか今の自分は話せない。
言葉がない。
それは彼の《相棒》も同じだった。
ジュンガも、今さっき肩の震えが止まったばかりだ。
思ってはいけないのに。
錯乱した和也を見て。
怖い、と。
和也が怖かった。
自分の《相棒》ではない気がして、悲鳴を上げて後ずさりをするしかできなかった。
ここでそっと手を差し伸ばして、「大丈夫だから」と声を掛けてあげなきゃいけないのに。
できなかった。
罪悪感でいっぱいで、彼の眼も見ることができない。
今、戦おうとしても無理だ。
合体なんてできない。
ごめんな。
和也もレントも。
オレがこんな弱い奴で、ごめんな。
やっぱり『木戸真』という人間でなくなっても
本質は『木戸真』だった。
弱いオレでごめんね。
怖がりでごめんね。
和也は部屋にこもりきりになった。
ノックをしても反応がないと、コウリンはため息をついて肩を落とす。
結局、自分は何をしただろうか。
いつでも戦っているのは自分ではない誰か。
「弱いなぁ、私も」
呟いたら、泣きそうになったので、眉間に力を入れてぐっと堪える。
だめ。
今泣いたら、もうお終いだ。
レントに申し訳ない。
鎖から解き放たれた彼。
自分の本当の道を見つけ、迷いなく進んで行った彼。
最後に腕だけを切り落として、自分の全ては残さず消えた彼。
レント、レント。
「お前の強さは何だ?」
和也という存在?
私たちという存在?
仲間という存在?
お前は言ったな。
もう和也は自分が役立たずとか、無力だとか、最低だとか、そう言って落ち込んだりしないって。
和也は前を向けるって。
じゃぁ、これからも向けるか?
このままの和也じゃなくなるか?
私たちが助けたら、みんなまた笑えるのか…?
「お前の存在は……」
短い間だったのに。
お前の存在は、とてもとても大きい。
大切な存在だったんだ。
更新メチャクチャ遅れてごめんなさい。
彼らの物語、また書いていきますので
どうぞこれからもよろしくお願いします><