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第46話 最期の。

「いいのか、行かなくて」

 静寂が辺りを包む。シンの放った最後の情けの言葉を聞いて、レントはクスリと笑った。

 そして頷いた。

「いい。これから俺の決めたことだから」

 俺の犯した罪を、償うために。

 俺の大切な人たちを、少しでも楽にしてあげるために。


 この命は、そのためにあるのだから。


「…俺は、殺すぞ」

「……もちろん、俺もそのつもりだ」

 レントは刀を抜いた。血で汚れた、愛用の刀だ。

 初めてこの世界に来たときに、自分の手元にあったものだ。きっとこの本が、自分に必要だから持たせてくれた。…その刀を、自分はしばらくの間、間違った使い方で扱っていたようだ。


 ああ。もっと早く気付けば。

 この刀を、いい意味で汚せたのかもしれないのに。

 この汚れは罪のない者たちのものだった。

 拭いて、汚れをとってはいけない。

 罪のない者たちの、大切な血だったのだから。

 もっと早く、和也たちに出会いたかった。

 もっと、話したかった。

 もっと、聞きたかった。


 もっと、――――――。


「はあああああぁぁっぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁあぁぁっぁぁぁっぁっっ!!!!」

 奇声に近い大声で、レントは無我夢中で突っ込んでいく。しっかりと刀を握り締める。もう頭の中は、相手を倒すことと、ひとときの温かい時間のことしか浮かばない。

 踏み込んで、刀をシンの頭へと振り下ろした、とたんにレントは吹っ飛ばされた。

「――――!?」

 ガンっ、と壁に体を打ちつけられ息が出来ない。視界が歪んで回っている。一瞬すぎて、なんで飛ばされたのかもわからない。でも、腹部に何かが当たった。…ナニかが。

 力を込めて起き上がったレントが見たのは、(ツル)

 シンの体の周りで揺らめく蔓だった。


「俺の力は、五行全てだ。どの力も自由に扱える。暗殺の力にも全てを合わせれば対応出来る」


 レントは眼を見開いた。

 コウリンでさえ、二つに力を扱うだけで精一杯、いや、コウリンは炎が主な力であり、水を使うのは得意ではなく、1つだけでも負担がかかる。それなのに、この束縛者は。

「なめるなよ、今までどんな奴らも殺してきたんだ。お前だって、殺れるに決まってんだろう」


 ウソ。


 今までいろんな奴を殺した。

 でも、この男は全く違う。

 束縛者として、人として、一般人とは比べ物にならない。


 始めから分かっていた。

 ここで俺は、死ぬんだと。

 もうカズヤと会うことはないんだと。

 もうみんなと笑うことはないんだと。

 もう何もできないんだと。


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!」


 レントは刀を振り回した。風を切る音が空しく響き、銀色の風は標的には当たらない、掠りもしなかった。無表情で全ての攻撃を避けるシンに、やっぱり、とレントは顔を歪めた。やっぱり駄目だと。

 それでも、攻撃はやめなかった。止めれなかった。

 自分の罪を償うには、これだけじゃ駄目なんだ。

 何かをして、死ななければ。

 和也は死ぬなと言ったけれど、やっぱり死なないと罪は償ったことにはならないよ。

 同じ苦しみを味合わないと。


「ッグはぁぁっっっ!!」

 鈍い音とともに、レントが呻き声をあげて崩れた。シンの一瞬の一撃で、レントは数メートル離れた壁へと激突したから。これにはレントも反応出来なかったようで、崩れたまま動くことが出来ない。体中が、おかしい。

 こんな思いをしながら、罪のない人は俺に殺されたのかな…?

 いろんな痛みを一気に感じて、なんだか泣き出したい。泣いて、もう消えちゃいたい。


「…………そろそろ、決着をつける」


 言い放った途端、レントの体に強大な力の渦が起きた。五行全ての力が。

 相対する二つの力では、その力は爆発して意味がない。

 しかし。

 全てがそろえば、バランスが整い。

 最悪最凶の力となる。


 シンはそっと、片手をレントの方へと向ける。

「最初に言ったから、文句はないな」

 レントは痛みで動けなかった。


 刹那。


 渦はレントの体を一瞬で包みこんだ。

 彼の呻き声など聞こえない。そんな余裕は彼にはなかったからだ。

 今、彼は刀を構えて体を守っていた。渦はギリギリのところでレントの体に当たらずにいる。

「………っ」

 カタカタと刀が震える。折れてしまう、このままでは。

 何も出来ない、せめて何かしたかった。

 このまま死んで逝くのは、意味がない。

 ……意味が、ないんだ。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!?!?!?」


 奇声を上げた。

 レントは渦を生身の体で出て、シンめがけて一直線に向かっていく。これにはシンも予想していなかったようで、反応が一瞬遅れた。

 その一瞬で。

 ザッシュッッ…。

 レントはシンの腕を斬り落とした。

 音を立てて、腕は落ち、血は地面に降り注いだ。


 ……やった。


 どぉぉぉぉぉおぉおっぉっぉぉおぉおっ。


 痛みを堪えながら、シンはまた先ほどの渦を放った。

 もちろん、今度は何もできない。

 刀なんて。


 すぐ折れた。


 それでも、それでもレントは嬉しかった。

 嬉しい、すごく嬉しい。

 やったよ、俺は、これで罪を償えるんだ。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 俺は同じ苦しみを、味わえたのでしょうか。


「カ、ズヤ」


 ありがとう。

 ありがとう。

 俺はもう大丈夫です。

 俺の気持ちを、初めて理解してくれた人。

 もう大丈夫です。

 ごめんなさい。

 最期まで心配をかけたから、ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ありがとう。

 ありがとう。

 ありがとう。


 もっと、笑っていたかった。


 ありがとう。


 ――――――。



 どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉおぉんんんんんっっっ!!!!!!!!


 城は爆破した。

 シンはそれを素早く察知して、城が爆破する前に逃げだした。

 城は崩れ落ちた。

 城の大半の物が消滅した。


 暗殺者だった彼は、笑って―――――――。

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