第45話 お城の中
プラスチックは、割れませんよね(汗
着くのには時間がかからなかった。
リンカから貰ったビンは、ちゃんと服のポッケの中にしまってある。割れないのかと心配になったけれど、リンカはプラスチックだから!と言ったのでまぁ、いいかみたいな考えである。実際プラスチックはなかなか割れない。それにバックなどは邪魔くさいので手軽である。ポケット万歳。
ここから町は少し遠いが、一日もかからないとリンカの両親から教えてもらった。野宿なしなら全く問題がない。
そうして森を歩き続けていると。
着いたのだった。
「あっけなくね?」
「こんなものじゃないのか?」
「いや、もっとモンスターとか…って、もう、そういう奴を操る者たちはいないんだった。でも、やっぱり何かあってもいいんじゃないのかなぁぁぁなんて。ほら、テレビみたいに炎がぐあーー、っとかさぁ」
「お前は死にたいのか」
でも、やっぱ楽じゃね?とか思いながら首をかしげる和也に、コウリンはなんだか不安を覚える。いいのか、こいつは今何を求めているんだ。
「でもさぁ、やっぱり町の人たちは不安がってここら辺にいないよね?」
「じゃぁ、俺たちを誘ってるってわけだよな」
双子が辺りを見渡しながら言う。にしても城は大きい。さすがは、国を治める王がいただけのことはある。
「中は危ないかもね」
涼が見上げながら呟く。
「まぁ、でも――――――」
それでも、年上の彼は口元をゆるめた。
「もしもの時はたった一回だけ、俺が使える力で次元を超える力があるから。それで城から脱出すればいいから、安心して暴れちゃってよ」
やっぱり彼の言葉には、何が裏がありそうな気がする。
「オレとリョウの力を最大限に使ってやっと一回なので、今まで皆さんにはお伝えしてなかったんですけど……」
ライガは申し訳なさそうに言う。確かにそれを聞いてしまうと、どうしてもその力に頼ってしまいそうなので、むしろその心づかいに感謝だ。
「っしゃぁ!気合入れて正面突破で突っ込むぞ!!こういうのは変な風に動くと逆に危ないしな!」
ジュンガがオー、と拳を突き上げて叫ぶ。
おんなじ化身なのに、どうしてこう頭の出来が……。
城の中は、悲惨だった。
城の中にいた者はみんな死んだ、それは本当のようだ。実際に、城のあちらこちらに壊れた物が散乱していたり、血がべったりとついている。最近のモノだ。
それなのに、死体は全くない。
全て―――――――――。
「何か入り組んでねぇか?」
「城の王が、不審な人物が来たときに迷わせるためにやったそうだ。道をしっかりと把握しているのは、城の関係者ぐらいだ」
面倒くさそうな顔でジュンガがうへぇと呻く。それを見て、丁寧に説明しながらもレントがくすっと笑う。
「とりあえず、進んで行けばなんとかなるだろう」
コウリンが言い切る。どうやらその方法しかないようだ。
そして、その考えを後悔することとなる。
もうどのくらい、この城を彷徨っただろうか。
自分たちがどこにいるかもわからない、そんなところで和也たちはぐったりと休んでいた。平気なのはレントと涼ぐらいだ。
城にはお約束のトラップが掛けられていた。
それも、よくある“王道”トラップ。
大きなボールのような形をした岩が、ゴロゴロと音を立てて転がってきた。廊下の幅ギリギリの大きさだ。逃げ来るために走って走って、最終的にちょっとした隙間に入り込んだ。
天井から大量の矢が降り注いできた。これも走って避けるのだがちょっと無理がある。なので双子の風で吹き飛ばしたり、コウリンの炎で焼き落としたり。
ほかにも多くのトラップが、背後から迫ってきた。
はっきり言って、死にかけた。
「おれはやっぱり“王道”展開が大っ嫌いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
ああ、超久しぶりじゃね?こんな風に叫んだの。
叫んだ途端、ちょっと和也は泣きそうになった。あんなに死にかけたのに、今ものすごく疲れているのに、なんだかやっぱり、幸せな気がする。多少は宿でほのぼのしてるよりも、スリルがあった方が楽しいのかもしれない。…こんな風にきついのは嫌だが。
嬉しい。今みんな、訳も分からず嬉しいとか思ってんのかな。…ないか。
でも、でも、このままでいたい。
このままでいさせてよ、誰か。
「……、俺たちは、誘われていないか?」
「……え?」
突如レントが呟いたのを聞いて、みんな眼を丸くする。エンブが眉をひそめて、どういうことだと言う。レントは頷くと話し始めた。
「今までのトラップって、実は全て背後から襲ったものだったんだ。“王道”的って言ったら、落とし穴みたいなものがあってもおかしくない、だろ?なのに、そのようなものは何もなかった」
そう言えば、そうだった。
黙り込む一同。唯一、涼とライガだけが普通に聞いている。……もしかして、ずっと気づいていたのかもしれない。
「背後から、まるで急かされるように迫った来る。辺りに道がたくさんあっても、恐怖心で別の道なんて選んでられない。いいように、束縛者に俺達は動かされて、誘われていた」
暗い城内。
目の前にある道しか、進めはしない。
「トラップで死ねばその程度のモノ。束縛者には余裕がある。俺らを殺す、余裕が」
一瞬で、この一つしかない命を消す自信が。
本の中だが、現実に戻ってもそれは影響される。それは人間関係、怪我。起こったもの全てが。
もちろん、――――死も。
ここで死ねば、現実世界でも死んだ存在となる。
ここで死ねば、二度と現実世界には戻れない。
――――――死ねない。
「……行こうか」
和也は俯いて、小さな声で呟いた。
自分には、こんな大きなことを決める資格はない。
そして…………。
大きな扉が立ちふさがった。
「『王の間』って、そのまんますぎない?」
ランブが怪しがりなから呟く。扉を触るとずっしりとした。重そう。
「カズヤ、開けるぞ」
「ああ」
片方をジュンガが、片方を和也が。扉があまりにも重たかったので、呻き声をあげながらもぐっと力を込めると、音を立ててぎぎぎぎ…と開いた。
開けた瞬間、ゴォッと風が巻き起こった。
その中には、1人の男がいた。
「よく来たな。…まぁ、当たり前だろうが。俺が九人目、シンだ」
黒い髪の長い、シンが立っていた。
とたんに和也の背筋にぞわぞわと寒気が走った。
瞬時に感じた。
ニ ゲ ナ ケ レ バ。
コウリンが和也の手を取った。
「逃げよう、カズヤ。今の自分たちでは太刀打ちできない」
「コウリン!!」
「オレもそう思う。行くぞカズヤ」
「ジュンガ!!」
確かにその通りだ。2人も和也と同じように感じたのだろう、あの寒気を。
けれどいいのか、ここで見逃しても。
「逃げるなら逃げればいい。いつでもお前らを殺す機会はあるのだから」
シンは冷たい目で和也たちを見た。…本気だ。殺すつもりだ。
「カズヤ、行こう。殺されるよりも、一度帰って作戦を立てた方がいい!!」
エンブが和也を急かす。エンブはランブを抱えていた。昔のトラウマで、やはり殺気が怖いのだろう。乗り越えても、その傷跡はやはり残ってしまう。ランブはがたがたと震えている。…こんな自分じゃダメだと、眼は言っているのだが。
「逃げるなら早く!」
いつの間にか涼がライガと合体していた。涼の足元には、ブラックホールのようなどす黒い渦がある。ここから移動できるのだろう。
「早くしないと限界が来る!!そうしたらもう終わりだ!すぐに決めろ!!!!」
涼が語尾を強くして怒鳴る。そんな彼の姿にも恐怖を覚え、和也は頷くと涼の元へ行く。シンはそんな彼らを無表情で見ているだけで、危害は加えないようだった。
渦の中に双子が、コウリンが、ジュンガが入る。そうして涼が入ろうとして、和也も準備をしている時。
レントの様子がおかしい。
「レント……?」
涼が入る。和也は早くと叫ぶとレントの腕を掴んだ。
「…………カズヤ」
「何?早くここから出ないと、それからでもいいだろう?」
和也はレントの腕を引いた。が、彼は動かなかった。
「レント!!」
和也は怒鳴りながらレントの顔を見た。
「カズヤ。俺はお前のためにこの命を使うよ」
「――――え………?」
強い力で、手を振り払われた。
「だから、バイバイ」
どん。
体が押された。
渦に、体が吸い込まれていく。
え。
え、え、え?
レントは?
レントは……?
渦が閉じて、彼の姿が見えなくなっていく。
あ、え。
や、や、やだ。
まさかこれで、おわ、かれ……?
や、やだやだやだ、やだやだやだやだ。
嫌だ。
「レントオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッッッ!!!!!!!!」
暗闇になった。
彼は束縛者と二人っきりになった。