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第44話 国の支配者


新展開。

別名・超ぐたぐた展開。

 ――――凄く不便だ。


 和也はしっかりと固定された左腕を見ながら、苦虫を噛んだような表情をして呟いた。

 前回の戦いでボロボロになった和也は、今度は体中に走る痛みと戦いながら、一日一日を過ごしていた。残り2人となった《10人の束縛者》の情報はなかなか掴めず、レントは今日も街へと出かけている。

 今度の戦いはますます厳しくなるだろう。和也は今すぐにでも強くなりたいのだが、まずは怪我を治すことが最優先だ。しかしそれには、最低でも1ヶ月ほどはかかってしまう。この世界の医療でも、だ。

 リンカが和也の様子を気にしながら、両親のお手伝いをしている。なんだかんだで、やすらぎの宿にもお客はちらほらと来るのだ。


「カズヤ。すっごくお前、暇そうだな?」

 コウリンが薄く笑みを浮かべながら話しかけてくる。…心配そうな表情ではなく、ものすごく腹黒い笑みだ。怪我人に向ける顔ではない。

「まぁな。なんだろ。ここ最近いろんなことが立て続けに起こってきたから、いざ平和になるとねぇ…」

「そうかそうか。カズヤはもう“王道”展開じゃないと物足りないのかぁ~」

「いや、そういうわけじゃないけど」

 そう言えば、最近そういうツッコミを入れてなかったなぁ、なんて。


 どんっっ!!!!


「カズヤ、コウリン、テレビを見ろ!」

 勢いよくやってきたのはジュンガだ。あれから生き生きとしてきた彼は、笑みがますます絶えない。やっぱりノー天気なムードメーカーだと、カズヤは改めて思った。

 そんな彼が、血相を変えてきたのだ。

 コウリンがテレビの電源を入れた。そこにはこの世界にもあるニュースが放送されている。テロップで『緊急!!』と書かれており、映っているのは騒がしい街の様子だった。

 現場にいるアナウンサーの人が、焦った様子で台本通りのことを読んでいた。



 『緊急です!!我々の国の王がいる城が、何者かに乗っ取られたようです!!どうやら城の中にいた人々は全員殺害されたようで、中からは一人も出てきません。何か強い者がいるようで、不審に思った人が近づいたところ、一瞬で殺害され、死体は何一つ残っていないようです。我々は……』



 ――――よく分からなかったが。

 国の王は殺されてしまったようで、城は乗っ取られたようで、一瞬で人を消し殺してしまう力を持つ者がいる…、ってことらしい。

「これはどう考えても束縛者の仕業だろう」

 コウリンが眉間にしわを寄せて呟き、それを聞いてジュンガが頷く。

「カズヤ達、やっぱり見ていたか」

 後ろから声がかかる。振り返るとそこにはレントと涼が立っていた。

「外はかなりの大混乱だ。相手は相当の力を持った束縛者のようだし、今外に出るのは厳しいかもしれないな」

 涼が無表情で呟く。事態はとても深刻なようだ。


 テレビは今もなお、騒ぎ続けていた……時だ。



『な、なんでしょうかあれは!!火です!火が襲ってきっ…ぁ、ぎゃああああああああああああああああああああああぁぁぁぁああぁああああああああぁぁぁああああああああああっっっっ!!!!!!!!…………―――――――――――――』



 テレビが一瞬で静かになった。

 最後に映ったものは、迫りくる炎と、恐怖に歪む人々の顔。


「…………」

 和也たちは黙り込んだ。

 それはあまりにも急で、あっけなく終わった、地獄の悲劇。

 国を乗っ取った束縛者に、心は一切ないらしい。

「行くのか、カズヤ…。お前、まだ怪我が……」

 ジュンガが心配そうに見てくる。なんとなく、最近彼が心配性になったような、子供っぽくなったのは気のせいだろうか?

 でも和也は、そんなジュンガのことを気にしつつ、うん、と頷いた。

 このままほおって、1ヶ月もしたら、たぶんこの国は終わってしまう。


「だいぶスケールがでかくなったな。ついに国全体を左右するようになったかぁ」

 “王道”展開どうこうよりも、主人公っぽいことになってきたような気もする。今まで町の人たちに感謝されるようなことはしていないし、とにかく目立ったことはしていなかった気もする。ちょっと、いや、かなりドキドキしてくる…。

 おまけに相手はまた強くなってきている。あんな一瞬で人を殺してしまうなんて。

 それも、レントとは違って目の前にいなくても、自分の力じゃなくて魔力の力で。


「…………カズヤ、さん。あそこにもしかして、行くん…ですか?」

 恐る恐る、和也に声が掛けられた。

 そこにはリンカが心配そうな表情で立っている。彼女は、自分たちがどのようなことをしているのかを知らない。リンカの傍には双子もいる。もちろん2人は行く気のようだ。

「行くよ、おれはやらなきゃいけないことがあるんだ」

「……止めませんよ、カズヤさん。でも、でも、せめてこれだけは持っていってください」

 そう言って、彼女は瓶を出した。中に入っているのは、どうやら薬のようだ。

 

 初めてここに来たときに怪我を負った。

 その時に自分を助けてくれた、彼女の手作りの薬。


「――……っ、ありがとう。…リンカ……っ」


 彼女の優しさには、やっぱりいつも心を救われる。

「くよくよしてないで!行くのならがつーんとかましちゃってきてよ!!」

 リンカはにこりと笑うと、ガッツポーズをした。でも、声が震えてしまう。

 自分がくよくよしちゃ、意味ないのに。


「だめだよ、ちゃんと無事に帰ってこないと。みんな、ここのお客様なんだから」


 そんな彼女の手を、和也はギュッと握ると。

 もう一度、ありがとうと言った。



 ――――そして、彼らは宿を出た。

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