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第41話 『ジュンガ』


 あ。

 ここはジュンガの心の中?

 和也は気が付くと、暗闇の中にいた。まるで先ほどまでいたあの太陽のない外のような、真っ暗闇の中に、独り、ぽつんと。

 ジュンガって、こんな寂しい心なのか?

 普段はあんなに明るくて、みんなのムードメーカーで、おれを助けてくれる、暖かい奴のはずなんだが。こんな心で、一体今までどう笑っていたんだよ。おれだったら、怖くて寂しくて、泣いてしまいそうなのに。

 ゆっくり、和也は歩き始めた。

 本当に何もない。暗くて、自分の足が浮いているのか、付いているのかもよく分からず、ちょっと和也は酔いかけてきた。


 ふと。

 小さな光が見えた。


 この光が、まさかジュンガの心を支えるモノ…?

 さすがにこれだけじゃ、心がぶっ壊れてしまうのでは。

 和也はよく分からなくなって、とにかくその光の元へと駆け寄る。

 そこにいたのは。


 幼いころのジュンガだった。


 ぐったりと倒れている。

 普段あんなに活発な彼が、肩で息をしながら、顔を赤らめながら。ぐったりとして、今すぐどうにかなってしまいそうな…。痛々しい姿だった。

 彼へと手を伸ばしたが、彼に触ることは出来ない。実際に彼は存在しているわけじゃないし、和也もそうだ。なんだか和也はもどかしくなった。

「……ジュンガ…?」

 声をかけたら、なぜか声だけは聞こえたようだった。

 …彼の言った一言は、和也の考えを180℃回転させてしまうような一言だった。


「じゅんが…?おれは、木戸真。きどまこと、だよ…」


「え」

 それはつまり、本の世界の人物ではないってことだ。

 人間。狼の化身なんかではない。

 和也と同じ、本の世界へと引き込まれた人間だったのだ。


「くらいな…。さむいな…。おれってよわいんだなぁ、このまましんじゃうのかな。……しんじゃえばいいのに」

 木戸真、という人物が呟く。和也は動揺して言葉の意味を理解できない。

 しんじゃえばいい?

 あのジュンガが、そんなことを言うはずがない。

「あのほんのように、つよくなれたらいいのになぁ」

 真の視線が別の方に向けられる。…いつの間にかそこには例の本がある。

 人間を縛る、魔力を持った本。

 強い思いで。


「はしりたいなぁ。だれかのちからのみなもとになれたらいいのに」


 その時和也は理解した。

 だから彼は、この本の中で『ジュンガ』となり、『狼の化身』となり、『強く』なったんだ。

 あれは真ではない。

 嘘で塗り替えられた、嘘の人間(ジュンガ)

 ようやく分かった。

 ジュンガという人間の、すべてが。


「お前の方が、弱いじゃんか、ジュンガ」

 おれのことばっか気にしてるんじゃなくてさぁ、自分を見ればいいのに。バカだなぁ、ジュンガは。どんなけ仲間思いなんだよ。

 バカ。

 やっぱりお前は、初めて会った時と同じだ。

 弱いよ、強くて弱いよ。

 仲間を助けるということで、強くなってると思いこんでるかもしれないけど。

 自分を見なきゃ。


 パリンと、音がした。


「嘘だああああああああああああああああああああぁぁぁっっ!!!!!!!!」


 叫び声で、和也は我に返った。どうやら元の世界に戻ってきたようで、傍にはコウリンが眠っていて、目の前には。

「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ…っ!!!!」

 狂うジュンガがいる。

 和也はジュンガの肩を握ると揺さぶりながら声をかけた。

「ジュンガ!!目ぇ覚ませよ、おれの方見ろよ、自分を見ろよっ!!」

「――カ、ズヤ」

 焦点の合わない眼で、ジュンガは和也を見ながら呟く。…しかし、今の彼に和也はちゃんと見えていないのだろうが。

「オレ、オレ…っ、強いかなぁ?」

「え…!?」

「オレ、強い?なぁ、カズヤ、強い?オレって強い…??」

「ちょ…っ、ジュンガ!!!!」

 和也の叫びも空しく、ジュンガは口元を歪ませながら暴れだす。なぜ暴れるのか、そんなことジュンガさえもわからないだろう。もう、今の彼に意思なんてものはない。

「ジュンガッ!!!!」

 和也は暴れるのを抑えるために、ジュンガを床に押し付けた。体中のすべての力を、ジュンガの腕へと集中させ、暴れないように抑え込む。ジュンガは叫び声なのか、唸り声なのか、それとも泣き声なのか、よく分からないような声を上げながら和也の手から向けだそうとする。

「やだ、ヤダぁぁぁ、オレはっ、オレ、ツヨインダッ、よわくない、違う違う違う!!オレは化身で、強くて、強くて、よわくないんだぁぁぁぁっ!!!!!!」


 しゃき…っ。


 ジュンガの爪が伸びて、和也の頬を深くえぐった。鋭い痛みに和也は呻き声をあげる。そんな彼のことも分からずに、ジュンガは手をじたばたとさせる。爪は出っぱなしなので、和也の腹や腕、足などにザクザクと掠り、どんどんボロボロになっていく。

「やだぁ。カズヤ、カズヤ、カズヤ。どこにいんだよ、分かんねぇよ、お前がいないと、お前は分かるだろう、オレ、強いって、カズヤぁぁ」

「ここにいるよジュンガ。お前の手に付いてる血、それはおれのだから、ちゃんとここにいるよ、ジュンガ」

「オレはぁ、強くありたいんだ。昔から弱くて、弱いまんまじゃ嫌で、ここでこんなに強くなれたのに、夢が覚めちゃうよ、弱いオレになっちまうよ、そんなの嫌だ、認めたくない。俺は『ジュンガ』でありたい、強いままでいたいんだぁぁ」

 ぼろぼろと涙を流す。ジュンガは昔、独りで寂しい思いをしたのだろうか。

 体が弱くて、ろくに学校にも行けずに、独りで寂しく暗い所にいたのだろうか。だから現実世界に行って、高校に行けた時は、嬉しかったのだろうか。この世界で強くなって、人と触れ合って、嬉しかったのだろうか。

 しかし弱くなってしまえば、また彼は独りになってしまう。

 それが怖くて、認めれずに、泣き叫ぶことしか出来ないのだろうか。


「お前、強いから。体は実際には弱くても、本当は心は強くて、いつも寂しい思いをしても、辛くても、人のことばっか気にかけててさぁ、笑って、おれのこと助けててさぁ。…もう楽になっていいんだよ。自分のことだけで泣いて、笑って、そしたらさらに、お前は強くなれるんじゃねぇの?もう『ジュンガ』という人格じゃなくて、お前になれるんじゃないの?」


 嗚呼、何でおれは、こんな臭いセリフしか言えないのだろうか。


「『ジュンガ』じゃなくて、『木戸真』に戻れるんじゃねぇの?それがお前の本当の姿で、本当の名じゃんか」


 ジュンガ。…純牙。

 純粋な、牙。

 それはジュンガの心を表したものなのかもしれない。

 まだ汚れていない、実戦で使ったことないから、脆くてすぐに壊れてしまう。

 一時的な武器にしかならない。

 だから、昔から与えられた武器を使おうよ。


 真。

 真実。

 昔からの、名前。


「カズ、ヤ…っ」

「何?」

「オレは今からでも、……?」

「うん。大丈夫だ!」


 強くなれるよ。

 自分専用の、ちゃんとした武器をしっかり握りしめておけば。

 いざというときに、必ず。


 ジュンガは和也にしがみつくと、しばらくの間ずっと泣いていた。


 傍には、大切な人がいる。

終わり―――っ!!

無事にジュンガ終わったんですが、理解できたでしょうか?

名前だって、いい加減につけてるわけじゃないんですよ!ちゃんと意味があるんです。和也と紅燐と、あと刻にも。

とりあえず、彼はこれからも『ジュンガ』であり続けますよ。

物語が終わるまで。


さて次回は、太陽がなくなった事件についてやっていきます。

…どうせ束縛者なんですけどね。

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