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第31話 お客様


いつもよりは和やかになっていると思います。

温かい気持ちで読んでいってください。

 あの怒涛の戦いから、一週間が過ぎた。

 和也もジュンガも、コウリンの傷もだいぶ治っていたのだが、双子の傷はやっと治りかけてきたぐらいだった。まだランブは額の深い傷の痛みが酷いらしいし、エンブの傷はもっと酷く、まだ立って行動するのもあまり出来ない状態。もちろん和也たちの傷だって、まだ痛いのだが。

 その分、宿の方の手伝いや、束縛者についての情報収集はレントが人一倍行っていた。涼はいつもふら〜っと出掛けては、なんだかんだで情報を得てくれる。和也たちの助けはこの二人だった。

 レントと双子は、あれから一回も喋ったことがない。ランブがたまにエンブの部屋から出るときに眼が合うぐらいで、あとは何も起きない。和也がランブに話を聞くと、ランブは彼のことを何とも思ってはいないのだが、エンブは未だに彼のことを許していないようだった。本人たちも、仲良くできるなんて思っていないので、特になんとも思っていないのだが、多少レントは気まずい様子でいた。

 どうにかしたいのだが、和也は頭を抱えることしか出来ない。


 そんなとき、レントと涼が新たな情報を得た。


「どうやら『10人の束縛者』らしき人物がいるらしい」

 レントが深刻な表情で言う様子を見て、和也たち3人も真剣な表情になる。ピリッとした空気に唯一影響を受けていないのが涼だけだ。

「とある少年に関わると、どうやら関わった者は悪夢にうなされるとか……。それも過去にかかわる悪夢で、うなされた者は、自殺とか、…とにかく自分で壊れていってしまうとか……」

 また壊れていく、か……。

 和也は先日のことを思い出すと、胸がこう、きゅうっと苦しくなる。これは狂ってゆく自分や仲間を見てしまったからで、多分一生トラウマになるだろう。

 夢を見ただけでそんなことになってしまうのは、個人的にはかなりヤバいんじゃないかと思う。あんな風になる人が増えてきたらかなり世界は大変なことになるような。

「探せばいるな。どうする和也、探しに行くのか?」

 コウリンが和也の方を見ながら聞く。和也は頷こうとしたのだが、それをレントが止めた。

「和也たちは駄目だ。ここは俺が行って何とかする」

「でも、束縛者を解放できるのは、おれしかいないんじゃないのか……?」

「じゃぁここまで、束縛者を連れてくる」

「ちょっと待てよ、レント!!」

 一歩も譲らないレントにジュンガも口を開く。それでもレントは意見を曲げない。

 重苦しくなった時、その空気をぶち壊したのは涼だった。

「わざわざ探しに行かなくても、今まではそこらへんの森とかでいたんだろう?束縛者は無意識のうちに、主人公のところに集まってくるのさ。…解放してもらいたくて」

 和也が涼の顔を見ると、妙な違和感を感じた。

 彼は笑っていた。けれど、彼は今までのような嘘臭い笑みじゃなく、嘘臭いよりもたちの悪い、感情のこもっていない笑みだった。眼が冷たく、口元は歪んでいるのか、いないのか、分からないような微妙なもの。和也はそんな表情に恐怖を感じた。

 そんな和也の変化に気づいたのか、涼は一瞬で嘘臭い笑みへと変わった。

「なんてね、“王道”なんでしょ?」

 その時、はじめて聞く「いらっしゃいませ」というリンカの声が聞こえてきた。


「あの、ちょっと怪我をしてしまって…。しばらくここに泊めてくれないでしょうか…?お金はあるんです!…だから…」

「OKですよ!うち、お客は少ない方なんで」

 リンカが接客スマイルではなく、本物のスマイルでお客と話していた。お客の右肩は血が滲んでおり、どうやら酷い怪我をしているようだ。和也と同じぐらいの少年のようで、頬には大きなガーゼが貼り付けられていた。…よくよく見ると、その2か所以外にも怪我はあるようだ。

「リンカー、客が来ないのにどうして食べていけるんだー?」

「お父さんもお母さんも、別のところでも働いてるんだ!今はモンスターが出るからお客は少ないけど、ちょっと前までは大繁盛だったし、結構いろんな人に慕われているから平気だよっ♪」

 ジュンガとリンカが笑顔で話しているのを見て、お客もにこにこと笑う。何というか、すごく穏やかな少年のようだった。和也もそんな彼と話をしようと思い、3人の方へと歩んでいく。

 それをコウリンは穏やかな表情で見つめる。

 和也もジュンガも、あれから和やかにやれているようでよかった

 …………あの時の夢のこと、話していたらこんな上手くいかなかったかな。

 確かに双子は重傷を負ったけれど、あんなバラバラな、悲惨な状態で死ぬことはなかった。それは和也が双子を守ったからで――――。

 あの夢を見て、こんな風になるのも、……“王道”のせいなんだろうか。


「それは違うよ」


 コウリンは体を強張らして声のした方を見た。声の主は涼であり、涼はそんなコウリンの反応をニコニコしながら見ていた。

「なぜあの時、あんな夢を視たのか。ああいう夢っていうのは、“王道”だと普通は主人公が視るだろう。わざわざ脇役が視る必要なんてないんじゃないのか?…まぁ、君はヒロインだと思うけど」

「……何が言いたい」

 眉をひそめてコウリンは言う。そんな姿を見ても、涼は顔色を変えずにいる。何を考えているのかが分からないから、コウリンもジュンガも双子も、最近仲間になったレントでさえ、涼のことを警戒していた。そんな感情を抱いていないのは和也だけだ。

 涼は笑う。嘘臭い笑みで。


「なんでわざわざ君が視た(・・・・・・・・)のかなってこと。もしかして君は、ここから先(・・・・・)どうなっていくかを、知っているの…………?」

 そういうと、涼はすたすたとその場から去っていった。

 コウリンは意味が分からなかった。けれど笑い話に出来ないような、そんな恐怖が襲いかかってくる。この言葉がもしかしたら、すごく大切なことを言っているかもしれない。

 彼女はしばらく、そこで立ち尽くした。


 お客様である彼の名はハルマという。一緒にいるだけで、なんだか彼の笑みに癒されそうな感じがする。そんな彼は双子の部屋にあいさつをしに行き、ドアの前にいた。

 ノックをすると、「はい」とランブの声が聞こえてきた。

 ゆっくりハルマがドアを開けると、そこにはベットに横になったままのエンブと、ベットの近くのいすに座るランブの姿があった。ランブの額には包帯が何重に巻かれ、頬にはハルマと同じようにガーゼが貼られていた。エンブは眠っているようで、顔色が悪かった。きっと体にはランブと同じように、包帯が何重に巻かれているのだろう。

「あ…、すみません。邪魔をしてしまって……。今日からしばらく止まることになりました、ハルマです」

「気にしなくていいよ。おれはランブ。眠っているのは、俺の双子の兄の、エンブ兄ちゃん(・・・・)

 自分で言っていることが恥ずかしくなって、ランブは少しそっぽを向いて苦笑いする。よく考えたら、まだ彼が目覚めているところで「兄ちゃん」と言ったことはない。目覚めてもそんな話す暇はないし、いつの間にかエンブは眠ってしまっている。

 早く彼に謝って、お礼を言って、死ぬほど昔のことを話して。

 安心させて、そしてお兄ちゃんって言ってあげたい。

「どうしたんですか?ランブさん」

「あ……!」

 気付けば頬が緩んでいたらしく、ランブの顔をハルマが覗き込んでいた。

「大丈夫!ちょっと考えていたら、ね!」

 強引に納得させようと語尾に力を入れる。そんな彼のことを考え、納得したハルマはクスリと笑った。

 一瞬、彼の温かい笑みが消える。


「ランブさん、今は幸せですか?」


 彼の質問に、ランブは笑顔で頷いて答えた。


「すごく幸せ。凄く優しい両親の間に生まれて、ここにいる人らに会えて、こんなに人思いの彼と兄弟になれて」

「――そうですか」


 彼は一瞬無表情になったが、すぐにあの笑みへと戻った。

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