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第30話 きみも同じ


六人目、完結です。

 

 少年はいた。

 両親は非常に仲が悪く、しかも息子の彼はかなり荒れていた。不良というわけじゃない。しかしその眼つきの悪さや不愛想な性格のために、他校の不良などから勝負を仕掛けられていた。彼は強い。今日も勝負に勝って、血だらけで帰ってきた。殺してはいないけれど、半殺しまではなってかもしれない。…あまり気にしていないから分からないが。

 そんな事情があり、とうとう両親も爆発したみたいだった。現在、母親の方が一方的に意見を言っているようだ。

 それをドアの前でじっと聞きながら待つ。


 ――あ、ドアが開いた。


 母親と少年の眼があった。

「母さん」

 彼の声を聞いた途端、母親の方が小刻みに震え始めた。何か言いたそうに口を動かす。

「――――っっ!!」

 母親の眼が大きく見開かれ、恐怖と怒りに染まった。

 まるで、彼のことを――――。


「バケモノッ!!!!」


 血で汚れた俺の体。

 傷だらけな俺の体。

 表情のない俺の、顔。

 そんな俺だったら、自分でもバケモノだと思うよね。


 少年はふいに口元が緩んだ。よく分からない感情がぐるぐると回り始めて泣きそうになる。…悲しいわけじゃないし、寂しいわけじゃない。本当に言葉に表せれなくて、笑いながら涙が溢れて止まらない。

 これで独りだ。

 少年は独りになった途端、自由になったと思った。

 何をしてもいいと思った。

 でも自分が独りになるのに、少し不快感を抱く。

 どうせ独りになるのなら、どんどん人を消していけばいい。そうすればもっと早く独りになることが出来る。

 自分も、誰かも。

 服のポケットには、いつもケンカで使うナイフが入っていた。少年はポケットの中でナイフを握り締めると、ケンカでいつもやるようにナイフを振り上げた。

 母親の腕に、ナイフが切りつけられた。


「ぎゃあああああぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあああぁぁぁぁぁぁああああああぁっっ!!」


 まだまだ世界にはたくさんの人がいて。

 そのたくさんの人は、最終的には独りになってしまう。

 独りに怯えながら暮らすよりも、死んで自由になった方がいいのかもしれない。

 母親は腕だけだったので死にはしなかった。けれど、これから父親とも離婚して、1人で暮らしていくのだろう。そして結局自殺か何かをして終わるのだろう。

 少年は家を出た。

 明るい日差しに眼を細めながらも、ソレは確かに見えた。

 目の前にあるのは本。自分も知らない本だ。白と黒の羽根が描かれている本、少年はそんな不思議な雰囲気を醸し出す本に心を惹かれた。

 家の庭の日陰で、本を読み進めた。日が落ちたら、これもケンカの時に使ったライターで火をつけて灯りを作る。そして全部読み終わったとき、彼は不思議な気持ちでいた。

 命を張って何かを守るのは、死に対して恐怖を抱いていないからなのか。

 死、つまり独りが怖くないのか。

 誰からも愛されている登場人物に、少年は意味の分からない感情を抱いた。


 聞きたい。

 一体どうすればいいのか。


 そして少年は鎖に縛られた。

 本の世界で束縛者になっても、答えは何も見つからなかった。

 ある時、ぷつんと何かが切れた気がした。その瞬間に人をたくさん殺すようになった。自分には暗殺能力が優れているようで、どんなに強い者でもあっという間に殺せた。

 心の中は空っぽで、何も感じなくなった。

 唯一感じているのは、聞きたいということだけ。


 そして少年は、今日も答えを求め続けながら人を殺していく。

 してはいけないことをすることで、その答えが分かるきっかけが生み出されると思ったから。


 ――――ああ、分かった。

 なぜ自分が束縛者に対して、悲しみを抱いたのか。

 …きっと自分に似ていると思ったからだ。

 誰からも愛されず、泣き続けて泣くことも出来なくなった。独りになってしまおうと思っても、その独りが怖くてなれない。

 自分はそんなときに助け船が出た。笑いながら手を伸ばしてくれた彼に、自分は救われた。

 けれど彼に出会わなければ、自分は束縛者と同じ道を歩んでいたのかもしれない。

 自分は責めれる立場ではないのだ。


 だったら!


 自分がやっていかなければならないんだ。

 彼のように、自分が手を差し伸べてあげる。それが鎖を解き放つ方法なんだろう。

 和也は体の痛みをジンジンと感じながらも、心の方はフッと軽くなった気がした。最近よく思うのだ。体がどんなに傷ついていても、心の方が無傷ならばどんなことをしたって平気なんだと。

 和也は体の中にいる《相棒》に声をかけた。

「いけるよな?ジュンガ」

『いけるよな、って…。お前はいつの間に命令口調になったんだよ、カズヤ』

 顔は見えなくても、彼は優しく笑っているように感じた。やっぱりいつも、自分に向けられているこんな優しい彼の姿を見ると、どうも泣きそうになるほど、心が温かくなる。

 これも愛されていなかった昔と、無意識に比べてるからなのかもしれない。

 和也はかまえた。

 今からは戦わない。

 けれどこの、《相棒》の力を借りなければ出来ないこと。


 和也は走った。


 束縛者は、先ほどからの和也の行動で混乱していた。あんなに傷ついても、諦めていないような眼をしていた。カウンターを狙って拳をわざとぶつけた。そして今、笑いながら走ってきている。…油断はしていないようだが。

 訳が分からない。

 あいつは一体何がしたいのか。

 和也は相変わらず猛スピードで走ってきている。束縛者は刀を力強く握りしめると、カズヤの方へと振り上げ、走ってゆく。

 ――衝突する形になる。

 刀が届く距離になった時、束縛者は眼に見えるか見えないかの速さで刀を振り上げた。そして和也の体へと当たった、と思った。

 スレスレで和也は飛び上がった。

 本人もかなりビビったようで、若干顔色が悪くなっていた。けれど和也はそのまま爪を太く長くして、束縛者の体へと向けて突き出す。

 カウンター!?

 先ほどまで自分が使っていた技なのに、まさか自分がされるなんて思っていなかった。


 油断した。


 束縛者は、これで死ぬと思った。


「殺すわけないじゃん!!」

 目の前には和也が笑顔で立っていた。そんな今の状況に、束縛者は初めて動揺を見せた。

 爪を出して突き出したのは動きを止めるだけで、殺すつもりなんてさらさらない。やり方は少々荒っぽいのだが、これでやっと束縛者と近づくことが出来た。

 和也は笑う。

 正直なんて声をかければいいのか分からないけれど、あの時。

 自分に向けていってくれた彼の言葉を、そのまま使おうと思う。


「なぁ、おれと友達になろうぜ!!」


「……?」

 当たり前の反応をされた。束縛者はいきなり、先ほどまで戦っていた血だらけの少年に、「友達になろう」なんて言われているのだから。…しかも笑顔で。

 そしてその違和感は和也も感じた。

 あの時は小さかったから友達になろうなら分かるけどでもこの言葉しか浮かばなかったんだし自分はあの時嬉しかったしでもあの時は人を信じられなくて色々あったけどでもでもやっぱり嬉しかったわけでだから束縛者も嬉しいかと思ってでもでもでもでも……っ!!!!

『落ち着いてくださいよ、カズヤさん。句読点がついてませんよ』

 ジュンガに言われて我に返る。

 和也はもう一度言いなおす。

「おれもさ、昔はずっと独りだったんだ。だから自分がされたように、おれもやろうと思ったんだけど…。いや〜、歳のせいで色々と失敗しちゃってね……」

『待て待て。またお前空回りしてね?』

 かろうじてジュンガがストッパーをするが、カズヤの脳内はかなりパ二くっているようだった。

「だからね、あんたとも和解したいって……」

「――――…っ」

 束縛者の瞳が揺れた。ここまで自分のことを思ってくれる奴なんて、初めてかもしれない。そう思うと彼に対してうまく言えない感情が生まれた。

 彼が固まっていると、和也は汚れた彼の手を握った。

「お前に罪は…、あるかもしれないけれど、現実世界では人を殺してないんだろ?ここの世界で人を殺したのなら、その分何かで償えばそれでいいんだよ。償い方なんて、死ぬこと以外ならいっぱいある。…だから、お前は独りじゃないんだよ。おれ、もうお前の味方だからな!」

 時間が止まった気がした。

 和也の肩に、束縛者が顔をうずめていた。泣いていないようだったけれど、肩は震えていたし、握っていた手はいつの間にか握られていた。…それも強く。どうやら味方と認めてくれたようで、和也は嬉しかった。

「俺は、道を見失っていたみたいだ。でも、道を正してくれたお前のために、俺はこれから先の人生を全部、お前に使おうと思う。そしてこの世界のために出来ることがあったら、全部やっていきたいと思う」

「おれの、ために人生を使う……?」

 嬉しいけれど、ちょいと恥ずかしくなる言葉だ。よくよく考えると、今のこの状況も恥ずかしい。

 安心と、恥ずかしさで、和也は急にめまいを感じて…、そのまま倒れた。



 眼を開けると、そこにはジュンガと束縛者がいた。

「双子や、コウリンは……?」

「大丈夫だ。お前の傷も、あいつらの傷も全部リンカの薬で治っちまうさ」

「…そっか」

 いつの間にか傷は手当てされていたし、辺りを見回せば『やすらぎの家』の自分の部屋だった。そんなに日は経っていないはずだが、懐かしく感じるのはそれだけ疲れているからだろう。あんなに戦えば、何日を外にいたと錯覚してしまう。

「ただ、ちょっとエンブの傷が酷いらしい。ほかの奴らよりも治るのが遅くなりそうだと」

「まぁ、あんなに思いっきりさ刺さっちゃうと、ね……」

 怪我を負った瞬間、彼は喋らなかった。ランブがあんなに叫んでも、彼は眼を開けることはなかった。多分、生きてることが奇跡と言ってもいいかもしれない。

「あの2人には、してはいけないことをしすぎた」

 彼は眼を閉じて呟いた。両親を殺し、弟の顔面に傷を負わせ、兄を瀕死状態にした。もしかしたら一生許されないかもしれない。…今も殺してやりたいと思っているかもしれない。

 そんな束縛者の姿を見て、和也は「やっぱり」と笑いながら呟いた。

「あんたの眼は、綺麗だ」

「……え?」

 彼は眼を丸くして、和也の方をじっと見た。

「汚れてないんだよ。やっぱり、本当に悪い人じゃない」

 そう言って和也が笑うと、彼もつられるように苦笑した。

 そんな彼の肩をぐっと持ち、ジュンガは束縛者を見る。

「俺、最初はマジでお前のことを殺そうと思った。俺もお前のように思ってんだ。和也のためにやることは全部やるし、傷つけたりするやつは消してやろうって。でも、もうお前はそんなことをする奴じゃないってわかったから、そんなことは思わない。…双子もそう思うさ」

「ジュンガ……」

 和也は彼の言葉を聞いて安心した。そして、それは他の人も思ってくれると思った。彼はもう道を外すことはないだろう。…もしそうなっても、自分が戻す。

 体に負った傷は、多少痛んだ方が気分が良かった。

 この痛みが、彼を救った証になる気がしたから。


「これからよろしくな、レント」


「なんで、名前を……」

「だって主人公だしな」

 2人でハモって言いながら、和也とジュンガは無邪気に笑った。


 俺は、この人達に会うことが出来て。

 ――――――良かった。


 そしてレントは、初めて笑顔になった。

 暖かい色に染まる彼の頬には、もう束縛の印はなかった。

はい、見事無事に終わりました。

28、29話で泣きながらキーボードを打っていたのはしょうがないんです。作者は涙もろいんです(泣)まさか自分の作品で感情移入するとは……。

次回からはまた、物語が進展していきます。

今回でたくさんの人が狂ったんですが、次回からは少しづつ謎も明かされて、さらにそのような展開になっていくと……。

でもここからが見どころなので、ぜひ見届けてください!!

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