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第29話 おれと同じ


グロいの注意!!

この話入れて後2話で、6人目完結となります。

 彼女の笑みと、彼女の言葉が、熱くて痛くて力の入らない体と頭と、心に響いていた。

 周りから声が聞こえる。

 彼は笑っていたから、おれも笑わなきゃなぁ……。


「カズヤぁぁぁぁっ!!!!」


 エンブは頬にかかった血と、辺りに広がる血を見て顔色を変えた。

 痛くない痛くない痛くないぃぃぃぃっ!!!!

 なんでこんな事したんだよ、なんでなんでなんでなんでぇぇっ!!

 怒り?悲しみ?違うんだ、この狂ったようにあふれる言葉の訳は。

 ――安心している……。

 死ななくて、安心しているんだ。

 でも、でも、でもっ!なんでこうなってしまったのかが納得できない。

 意味が分からない。


 エンブは死んだと思った。

 けれど束縛者の向けた刃が貫いたのは、和也の体だった。

 幸い心臓ではないけれど、右肩辺りに深々と、刃は突き刺さっていた。そこから血は限りなくあふれだし、体中を赤く染めながら伝ってゆき、足元で水溜まりを作る。

 和也に意識なんてなかった。

 けれども何かをぼんやりと、無意識に考えていたりした。

 『無理をするなよ』

 力を振り絞って、彼女が力強く言った一言。

 どうやらその約束は破ってしまったらしい。

 でも、止めることは出来たのかな、コウリン。


 これは約束を、守ったでいいのかな……?


 痛みが走った。


「あああああああああぁぁぁあああああぁぁぁぁあああぁあぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっ!!!!」


 叫んだって、血は止まることを許さない。

 和也は泣き、そして叫び続けた。今まで慣れないながらにも戦ってきた。でも、こんな痛みはもう二度と体験することはないかもしれないと思う。苦痛で顔を歪ませる。しかし痛いから、このまま歪ませていくと顔が壊れてしまうんじゃなんて考えた。

 とにかく死にそうだ。

 意識がぐらぐらして、真っ暗になりそうだ。

 ふと、和也は自分の《相棒》を探す。

 思った通り、ジュンガは顔を真っ青にしながらも、怒りで肩を震わせながら怒っていた。

 狼の顔、眼。

 怖かったけど、ここまで思ってくれていると思うと、また違う意味で泣きそうになる。

 束縛者は相手が違っても、特に気にしていないように和也を見つめていた。


 あぁ、これで終わんのかな、おれ。


「させねぇ、殺させねぇよ!!!!」


 体に力が入りこんできた。

 死ぬ前にこの感覚を味わうことが出来て、和也は本当に嬉しくなる。けれど彼は嬉しくなさそうだった。

 ジュンガは、頭の中で怒鳴りつけた。

『んでこんなことすんだよ!!まだ殺させねぇ、少なくとも俺がここにいる間は!!』

 ふと和也は体が軽くなった気がした。きっと獣の体質であるタフさや丈夫さが、和也の体を支えているのだろう。ジュンガも怪我を負っているはずなのに、ここまで行動できるのもきっと、このおかげだろう。

 和也の頬には2本の印が付いている。

 まだ生きてる。

 そう思うと、なんだかこの世界が酷く輝いているように感じた。

『束縛者、てめぇをガチで許さねぇ。本気でかかってこいよ、てめぇの息の根を止めてやる』

 和也をよくもこんな目にしたな。

 最初は殺さないようにって思ったが、もうそんな甘い考えは捨てた。

 絶対殺す――――!!!!


 和也の体から、ジュンガの殺気が溢れ出ている時、エンブはのろのろとランブの処へと歩み寄った。眼に光はなくて、泣いて虚ろな感じだった。

「どうしよう、ランブ。俺は本当にダメな奴だ。結局和也もお前も傷つけて……。俺は、昔の関係に戻るか、せめて両親のことは全て思い出して、笑ってほしかっただけなんだけどな。なんでこんなことになったんだろう。どうして、俺は……っ!!」

 こんなんだったら、死んだ方が良かったんじゃないのか。

 眼を閉じるランブをじっと見つめ、エンブはもう動けなかった。


 和也は驚異のスピードで走り始めると、獣のように爪を太くして束縛者へと襲いかかった。振り下ろした爪は束縛者の腕にかすり、血を流す。けれども彼にとっては何のダメージにならずに、あっという間に吹っ飛ばされた。

 圧倒的な力の差。

 彼はこの場にいる全員を殺そうとしていた。

 とりあえず今、一番殺せそうなのは…、気絶している2人と、負傷している2人。何食わぬ顔で立っているものは一番の強敵だ。

 正直言って、誰でもいいのだ。

 殺れる人から順に殺していけば、それで。

 だから束縛者は、相手を代えた。

 まずはあの双子。壊れ切っている彼らならもう抵抗は出来ないだろうから。

 和也が起き上がりきる前に、束縛者は双子の方へと走ってゆく。「待て」という前に彼は刃先をランブに向けていた。

「――――ッ!?」

 エンブは力の入らない体をランブの方へと動かした。

 ランブは未だに少し流れた血で顔を汚しながらも、死んでいるかのようにぐったりとして、眠っている。

 

 和也は間に合わないのが悔しくで、血を流しながらも泣き叫んだ。


「ランブうううううぅぅぅぅぅぅぅぅ―――――――ッッッ!!!!!!!!」


 もうダメだ。

 エンブはランブの体に覆いかぶさった。

 グ……チュ。

 刺さった、エンブの体に刃が。


 生温かい感触を感じて、ランブは違和感を感じ眼を覚ました。

 視界は真っ赤。

 目の前でエンブが刃を受け止めていた、体で。

 彼は絶叫した。

 そしてすべてが鮮明になった。


 自分がどんな人だったのか。

 両親がどんな人だったのか。

 『兄』がどんな人だったのか。

 何もかもが、全部、辛いことも楽しいことも全部。

 なぜ自分が雪が嫌いなのか。…それは両親が殺されたから。

 なぜエンブはそれで怒ったのか。…それは自分が忘れていることを気付かせるため。

 なぜエンブが刺されているのか。…それは自分を守るため。

 今までエンブは、自分のために必死だったということを思い出した。

 なのに自分は、今までずっと目をそらし続け、結局今の状況になってしまった。――全部自分のせいで、こんなどうしようもない結果に。


「エンブ、にぃ、ちゃん…?」


 パタリと倒れた彼から、返事は返ってこない。

 刺さったところは心臓から遠いから、命は大丈夫なはずだ。きっととっさに覆いかぶさったから、狙いがずれたのだろう。

 けれどランブは体の震えを止められない。どこか遠くに行ってしまいそうで怖くなる。

「兄ちゃん?兄ちゃん、兄ちゃん、兄ちゃん…!!」

 勢いよく流れだした涙を止めれずに、ランブは必死で『兄ちゃん』と呼んだ。彼が最も望んでいた呼び名。頼ってもらえなくなったと思い、彼が悩んでいた原因の一つ。ランブは今でも彼を頼っている。頼りすぎてこんなことになったのだが。

「起きて、眼を開けてよ。おれ、全部思い出したんだ。今までのこと、全部、全部!だからさぁ、謝りたいんだよ…、謝らせてよ、ずっとずっと悩ませていたこと、心配かけさせていたこと。そして言わせてよ!!」

 エンブの体を触ると、あっという間に手が赤く染まった。

 それが辛くて、悲しくて、さらに涙が溢れてきた。


「ありがとうって、ありがとう、エンブ兄ちゃんって…っ、言わせてよぉぉぉっっ!!!!」


 ふつふつと和也に、妙な気持ちが湧きあがってきた。

 怒り?憎しみ?多分こんなのは抱いちゃいけない感情だろう。

 悲しみ。

 彼に対して、悲しみを抱いた。

 だから自分は殺すことはできないだろう。彼がもし、罪滅ぼしのために殺せ、と言ってきたとしてもだ。

『冗談だろ!?』

 ジュンガが心を読んだのか反論してきた。普通はそうだ。自分でも、こんなに甘くちゃいけないんだろうと思う。…でもどうにもできない。

「だって悲しいんだ!自分でもよく分からないけど、怒りとかそういう感情よりもこっちの方が、すごく強く感じて…、ダメなんだよ、どうしてなんだよおれ……」

 もう泣きそうだ。結局自分は、主人公としてどういう行動をとればいいのだろう。仲間のためにどういう行動をとればいいのだろう。今そんなことを考えると、その選択のすべてが駄目な気がするのだ。

 選択肢は一つしかない。

 殺して、もう2度と仲間を傷付けないようにする。

 けれど彼は生かさなければいけない気がした。

 なぜこんなことをしたのか、せめてそれを聞くまでは。


 束縛者の過去はよく見る。

 今回も見ることは出来るはずだ。

 …今まで過去を見るきっかけは、束縛者の技を受けるか、束縛者の心の叫びを聞くか、実際に触れるかの三つだ。きっと彼は叫ばないだろうし、技は先ほど受けた。じゃぁ後は……。

 実際に触れる。

 和也は一気にダッシュした。走っている間にジュンガの怒鳴り声が聞こえたが、今回ばかりは本当に言うことを聞けない。悪い、なんて心で呟きながら、和也はしっかりと束縛者の眼を見つめながら、拳を握った。

 束縛者は一瞬、和也の澄んだ眼に後ずさりをした。

 彼は血だらけになっても、まだこんな眼が出来る。

 怖い。ありえない。

 何を考えているのか分からないが、束縛者もかまえた。


 かなり近ずくと、和也はフッと拳を突き出した。束縛者もカウンターを仕掛けようとして拳を突き出す。

 この時を待っていた。

 和也はニッと笑うと、わざと拳を束縛者にぶっつけた。真っ正面。和也も束縛者も痛みで唸り声を上げる。が、和也は痛みに耐えながらも束縛者の眼をもう一度見た。


 彼の眼は、一瞬だけ綺麗な色をしていた。


 そして、和也は彼の過去を見たのだ。

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