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第27話 あいつは束縛者


非常にグロイため注意!!

 眼を開けば、血で汚れながらも輝いている刃は、目の前で止まっていた。

 そして感情のない表情で、少年が見つめている。

 あの時写真で見た。

 頬に印がある。

 彼らを壊したもの――――。


 六人目の束縛者。


「殺されたい?…あんた」

 ぼそりと呟くように言って、少年は和也から離れる。…一瞬で。ただ呆然とその場にいた和也は、ジュンガの叫び声で我に返った。

「そこから離れろ、カズヤ!!」

 ジュンガは叫ぶと同時に束縛者の方へと走っていく。和也の止めようとはなって声さえも聴かずに、腕の痛みも忘れて。

 許さない。

 和也を殺そぉだと…?

 そんなこと、させてたまるか。

 お前のせいで和也は思い出したくないことを思い出したんだ。

 罪のない双子や、見知らぬ人までもが傷付いた。

 ずっと思ってたんだよ。

 許さないって……!!!!


「カズヤ!!」


 突然の声に、その場にいた全員の動きが止まった。

 名を呼ばれた和也が声にした方を見ると、そこにはずっと心配していた2人であり、今、束縛者と最も会わせたくない2人がいた。

 双子。エンブとランブが。

 ランブは顔を青くして彼らの姿を見ていた。

 両親を殺した、ずっと敵を討ちたかった者がそこにいる。


 ソウダ、ヤット殺セルンダ……。


 でもおかしい。

 殺したいって思っても、体が動かなくて、歯をがちがちと鳴らしながら震えている。あんなに待ち望んでいたのに、エンブはもう今すぐ向かって行きそうな感じなのに。

 動け、動け身体。

 動け動け動け動け動けっ!!

 こんなのヤだ。結局何もできないで終わるのは。これまでどんな苦しみを味わってきたのかを全部あいつに味あわせて…、見せつけたい。

 なのに、なのになのになのになのになのにっっ!!!!


 許すな。


 そう思うと同時に、真っ赤な世界が一瞬映る。

 こんなの見たことないのに、匂いまでもしそうなほどリアルで。

 分からないことだらけ。あの時は気が付いたら両親が殺されていて、あいつがいて……?あれ、自分は殺されたところを見た?見てない?

 わかんなくても、いっか。

 あいつを殺せば全部終わるんだから。


 思うと同時に体がやっと動いた。

 エンブが呼びとめる時間もなく、あっという間にランブは束縛者の方へと突っ込んでいった。和也が一瞬見たランブの表情は歪んでいて、瞳に光なんてなかった。

「言っちゃだめだ!!ランブっっ!!!!」

 真っ青になったエンブが叫んだとき、ランブは笑った気がした。


 ――――――――もう分かんない、だからエンブ、おれはこうするしかないんだ……。

 

 よく考えると、昔は自分がどんな性格だったのか、両親はどんな人だったのか、エンブはどんな人だったのかが曖昧になっていた。昔と変わらずに自分はいるのか。変わっているのか。そんなの分からないし、分かりたくないなと思う。

 真っ赤なアレに全部流されちゃったのかな。

 そんなんだったら、この衝撃で何もかも全部、消えちゃえばいいのにね。

 中途半端じゃなくて、全部。

 おれの中の全部。


 ドカンッ!!

 ズサァァァァッ。


「ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ!!!!」


 ランブは頭を掴まれたかと思うと、束縛者によって地面へと顔から叩きつけられた。聞くのも辛いような、悲惨な悲鳴が響きわたる。地面で顔を押えながらランブはのたうち回り…笑った。顔を上げた彼の顔。頬から大量の血を流し、額には石で傷つけたのか、ぱっくりと切れている傷と赤黒いあざが出来ていた。…それなのに、彼は笑っていた。

 ゆっくりと、彼は震える声で言葉を紡ぐ。

「だめだって。どうして。なんで忘れられないの?何で思い出せないの?ねぇエンブ。おれって一体どんな子だったのさ、両親はどんな人だったのさ、エンブは、どんな人だったのさ……」

「ラ、ンブ…………?」

 彼の傷と表情と、喋っていることに、エンブは震えながらランブを見た。

 どうしよう、俺がむちゃくちゃだったから。

 ランブが完全に壊れ、かけている。


 もともとランブのすべてを曖昧にしてしまったのは、両親が殺されるとこと全て見てしまって…、それがショックだったから。

 倒れゆく両親と、生臭い鉄の匂いに、リアルな死体の山。

 この三拍子を見て、しかもそれは全部両親のモノと知って、普通はショックを受けておかしくなるのが当たり前だ。けれどランブは完全に壊れないで済んだ。それだけで幸せだ。

 けれど、彼のこれまでのすべてが、曖昧になっていた。

 本人が気付かないうちに、彼は大事な感情をたくさん忘れ、大事な記憶も一緒に忘れた。

 自分のためじゃなくて、誰かのために自分を叱ること。

 悲しいことじゃなくて、嬉しいことに涙すること。

 そして、誰かのためにじゃなくて自分のために――――。

 一番求めているものは、きっとどんな方法を使っても戻らないだろう。それだけランブに与えられたショックは大きいもので、治らないものだから。

 だから、だから殺すんだ。

 両親のため、そう言ってきたけれど。

 本当は返してほしいから。返せないのなら死ねばいい。

 償えばいい。


 ―――そう。


「人殺しには死刑を」


 ゴウッ、とエンブの周りに強い風が生まれた。以前にも味わった、初めて彼らに会ったときに感じた……。一歩動けば体中が切られてしまいそうな、そんな風。

 和也はこの急展開に追いつくことが出来ていない。

 気がつけばジュンガが血を流していて、怒り狂ったランブが重症を追い、そして今エンブが完全に本気でいる。自分が昔のことを思い出して苦しんでいたら、あっという間に何もできずに…、こんなことになってしまっていた。

 主人公なのに。

 以前自分は何もできないと思った。そんなことない、そうみんなは言ってくれていて。だからその言葉を信じて、その言葉が本当になるように強くなろうと考えていた。けれど何にも進展はない。主人公の見どころである、成長というものがない。

 だめじゃないか。それは……。


「殺してやる。そして返してもらおうか…?」

 エンブは薄く笑うと、束縛者の方をキッと睨んだ。

 束縛者は、頬に付いた血をうっとうしそうに拭いながらエンブを見る。

 …こいつは何にも感じちゃいねぇ。

 そう思うと、エンブはますます腹ただしくなった。

 あんなにランブは悩んで…、押さえていたモノを爆発させて壊れかけてしまった。

 なのにっ!!!!

 エンブは「死ねよ」と小さく呟くと、辺りに吹く風をさらに強くした。

 そして、あの時のように…。

 初めて束縛者に突っ込んでいったあの時のように、彼は叫んだ。


「貴様あああああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」


 あのときよりも憎しみに満ちた声が。

 運命を変える戦いのゴングとなった。

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