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第25話 主人公は前へ行く


 部屋の外がざわついている。

 あぁ、また何か言い合いしてるんだな……。

 俺には止めることは、出来ない。


 ――あ、ドアが開いた。


 母さんと、俺の眼が合った。

「母さん」

 あれ、母さんの体が小刻みに震えてる……?

「――――っっ!!」

 母さんの眼が。

 大きく見開かれて、る…?

 まるで、俺のことを―――――――。


「バケモノッ!!!!」


 血で汚れた俺の体。

 傷だらけな俺の体。

 表情のない俺の、顔。

 そんな俺だったら、自分でもバケモノだと思うよね。


 これで独りだ。


 独りになるなら、消せばいいさ…………。


「ぎゃあああああぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあああぁぁぁぁぁぁああああああぁっっ!!」




 和也は虚ろな表情で廊下を歩いていた。

 昨日、双子やら先輩やらのことで、一睡もできずへろへろな状態だった。

 自分自身も、泣き疲れちゃった感じで、眼が痛い。

 そんなとき、昨日会ったばかりの少年と出会った。

「あなたは、カズヤさん…」

 それは、自分にもいる《相棒》と同じ存在のものだった。

「ライガさん」

 出会ってから会話するのは今日が初めてだ。彼は自分の《相棒》とは違い、すごく大人しく、人のことをよく考えていて、パートナーに向いている性格だった。

 けれど、和也は別に自分の《相棒》に不満は持っていない。

 むしろ感謝しているほうだ。

 だから雷牙の方がいい、なんて感情は一切持ってはいない。


「《10人の束縛者》の元へ行くんですか?」


 雷牙はじっと和也の眼を見て話してきた。その瞳にはあまり感情がこもっておらず、少し背筋が寒くなった。

 それでも和也は、こくんと頷いた。

 和也の反応を見た雷牙は、少し目を細めて冷たい表情を見せた。

「うまくいくと、いいですね」

「……え!?」

 何それ、と和也は言えなかった。

 彼の眼を見たとき、言おうと思ったことがすべて吹っ飛んでしまったから。


 雷牙の眼は、感情がなかった。

 でも透き通っていて、遠くまで見えるような眼を。


 先輩で生徒会長でもある涼は、また嘘臭い感じのへにゃっとした笑い顔で、和也に話しかける。

「カズヤ君は、まだ耳出しっぱなんだね」

 涼の頬には2本の引っ掻いたような印がついている。これは和也についているものと全く同じだ。しかし、和也は狼の耳が頭から出ているのだが、涼にはそれが出ていなかった。

 耳を出さないようにするには、少しだけだが集中力がいる。

 けれど激闘の中では、その集中力を保つのは至難の業だ。

 つまり涼は。

 ――耳を隠す余裕がある。


 それだけ強いってこと。


 和也は涼に向かって引きつった笑みを浮かべた。もちろん、自分の表情がこうなっていることも、和也は十分分かっている。

「え、えへへ…」

 震えた声で笑い声をあげる。


「主人公ですし」



 薄暗い森の中、和也たちは1時間ほど歩き続けた。

 全く束縛者が出てくる気配はなく、少々彼らは疲れがたまってきた。

 特に双子のエンブは、今すぐヤツを倒したくて苛立っている様子だった。眉間にしわを寄せて、必死に感情を抑えているようだった。

 和也は歩き続けて、意識がぼんやりとしてきた。

 昨日一睡もしていない。頭に浮かぶことは、疲れた、という言葉だけだった。


 そして、反応も遅れた。


 ごつ…っ


 頭に何か、硬いものが当たった。

 和也が痛みで意識をはっきりとさせた時には、ものが当たった額からは血が流れだしていた。そして足元には、拳より少し小さいぐらいの石が転がっていた。…血をつけて。

 そしてその瞬間、多くの石が飛んできた。

 一瞬にして、その場にいた全員は避け始めた。それでも、正確に石は飛んでくるためになかなか避けれず、体中にあざや擦り傷が出来始める。


 和也は高く高くジャンプをすると、ふと辺りを見回して叫んだ。

「先輩っ!!」

 四方八方から飛んでくる石。涼はもう逃げ場がない状態だった。

 石は速度を上げて飛んで来る。


 刹那。


 涼の瞳が変わったかと思うと、一瞬のうちに涼は石を避けて和也の元へと来ていた。

 彼はニコッと笑う。

 その眼は、先ほど雷牙が見せた目と、まったく同じだった。


「俺さ、(ひょう)なんだ」


 まるで猫の目のような瞳。

 和也はそれに、恐怖を抱いた。

 この眼に見られたくはない、と。


「カズヤ!!このままじゃキリがない、先に行け!」

 コウリンが和也の方を向いて叫ぶ。彼女は今、必死に石を避けていた。頬などには傷がついて、痛々しい。

 いや、と言おうとした時、『わかった』とジュンガが彼の言葉をさえぎった。

「おいジュンガ!!」

 置いて行けるわけないだろ!?


「行けよ、カズヤ」


 不意にコウリンが優しい声で名を呼んだ。

 彼女は動きを止めて、カズヤの眼を見て笑っていた。

 石が体に当たるのも、無視して。


「主人公だし」


 その途端、和也はがむしゃらに走りだした。

 背後で彼女の唸り声が聞こえたけれど、走った。

 走って、走って、走って。


 今、様々な感情で泣きだしそうだった。

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