第24話 もうダメだよ
またまた久しぶりの投稿です。
もちろんグロイので注意です。
刃が向けられている。
何故かは分からないが、自分の目の前に。
そして、振り下ろされる。
――一瞬の出来事だ。
緑川涼は静かに言い放った。
「このままだと彼らは、死んじゃうよ?」
「…!?」
和也は涼の方を向いた。
正直言うと、彼の発言でみんなが追い詰められている気がする。ずっと前に、和也はジュンガに言葉で追い詰められてことがあった。それは彼なりに、和也の気持ちを言葉に出そうとした、優しさ。しかし、涼も場合、何かが違う気がしたのだ。
そしてもう1人、涼の方を見た者がいた。
「まさか……!?」
コウリン。彼女はふと、一ヶ月前に見た夢のことを思い出した。
双子が無残な姿で殺されている姿。血で汚れた少年。頬にある束縛の印。
すべてが、これからの展開と一致している気がした。
そんなことを考えているうちに、ランブは呻き声をあげながら、何もない真っ正面を睨んだ。
ずっと前に、今はもういない母からこう言われた。
「ずっと笑顔でいるのよ」
それを、ランブはずっと守ろうとした。
「うん、お母さん」
笑顔で彼は頷くと、大切な彼の方を向いて、また、太陽のように笑った。
「ね、エンブ…ぃ―――――――!」
なんて言ったのかは、聞き取れない。
分からない。
ふと、ランブの目の前にはエンブがいた。
エンブはにっこりと笑いながら、ポンとランブの頭に手を置いた。
そしてそのままの表情で――――。
「悔しかったら、殺ればいいじゃん」
ランブの両目が、大きく見開かれた。
そしてぐらぐらと揺れる。
彼の心も。
そんな彼を無視して、エンブは眼を閉じてゆっくりと言い続ける。
「同じようにぐちゃぐちゃにして、ボロボロにして、真っ赤にして」
一呼吸入れる。
ランブは真っ青になり、エンブはガラっと表情が変わったかと思うと、ランブでさえも恐れた、あの冷たい目へとなり、宙を睨んだ。
「何にも分かんないようにして、この世から消しちゃおうよ」
「――――――っ!!!!」
ジリ、とランブは後ずさりをした。止まりかけていた涙がまた、ボロボロと溢れ出て止まらない。肩、というか体全体ががたがたと震えだし、もう何も言えなかった。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
どんだけ憎くても、自分にはそんなことはできない。
そんなことをしたら、きっといろんな感情で潰されてしまう。
「待った!!」
和也が声を張り上げた。表情に余裕がなく、少し青い顔。相当先ほどの双子の様子が恐ろしくて、張り上げた声も震えていた。
彼はそんな感情を押し切って、震えた声で訴えかける。
「もっと楽な方法はないの?そんなことをしたって、君らは傷つくだけで…」
「もうダメだよ」
微笑んで和也の言葉を聴いていたエンブは、ふと無表情になって、言った。
「もう、我慢は出来ない。もう、あいつをめちゃくちゃにしなきゃ気がすまない。もう、ダメなんだよ」
またランブが泣きだす。彼も同じ気持ちなのだろう。しかし、恐怖心やその他の感情から逃げ出せず、今はただ、エンブの言葉に、うんともすんとも言えずにいるのだろう。
エンブはゆっくりと和也の方に体を向けると、歩きながら呟いた。
「だからさ」
和也の横を通り過ぎる。
「ごめん、カズヤの言うことは聞けない」
泣いている彼が、にいっと笑った気がした。
和也はただ、呆然としていた。
エンブはすたすたと歩いて行くと、部屋から出た。きっと、自分たちの部屋へと行ったのだろう。
今、彼の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
このままでいいわけがない。
ならばどうしたらいいのか。
……その時だ。
「兄弟愛だねぇ」
和也の体が、涼の一言でびくりと動く。それに気付いているのか、いないのか、涼はへにゃとした表情で続ける。
「狂った愛だけど、君はどう思う?キョウダイって」
パタンと、戸が閉まった。
エンブは戸を背もたれにして、ずるずるとしゃがみこんでいく。
「ついに、この時が」
本当はこのタイミングで、過去を見てほしくはなかったんだけれど。
でも、さすがにあいつも、これで見てくれるだろう。
ランブ。俺の愛しい弟。
彼は笑っていた。
彼は怒っていた。
彼は泣いていた。
そして、声を殺して嗚咽を漏らした。
「キョウダイは二種類なんです。愛するキョウダイと、愛さないキョウダイ。おれの場合は特殊で、どちらにも当てはまらないんですよ」
笑顔で笑う。
引きつっていない、綺麗で、自然な笑顔だ。
彼は心の底から、そう思っているのだろう。
「おれらは血のつながった、他人なんですよ」
『バカっ!!』
一ヶ月前に、和也は《相棒》からそう言われた。
頬を叩かれて、必死な表情で。
そんなことを思い出しながら、彼は部屋を出て、廊下を歩いて、自分の部屋へと向かっていた。
そこで、和也は彼を見つけた。
《相棒》を。
ジュンガは、苦笑していた。
そして、場違いなほど明るい声を出して和也へと言った。
「大丈夫だって!」
彼の優しさと、明るさと、眩しさに、涙がホロっと溢れた。
ジュンガは、和也の横へ行くと肩へと手を置いて、元気に言った。
――何時かの時、自分に言ったあいつのように。
「オレらなら、出来るだろ?」
もうダメだ。
涙が止まらないし、止める気にもならない。
和也は嗚咽を我慢することもできずに、その場にしゃがみこんで泣きだした。その体を、ジュンガは温かい眼差しで見つめながら、肩に手を置いた。
ジュンガが「な♪」と言えば、和也は「ぅん…っ」と呻くように声を出して頷いた。
そうだよな、おれらなら出来るさ。
…きっと。
双子を救って、六人目の束縛者も助けることが。
だって、最初にあいつに言ったのは、おれなんだから。
しかし。
すでに彼らは狂い始めていることに、和也は気付かなかった。
はい、とりあえずひと段落。
ここ最近、なかなか更新できないので、申し訳ありません。自分なりにも頑張っていますので、「もう読むのヤダ!」とか言わないでくださいっ!
ってか、見捨てないで><
ここからが物語の見せ場で、力が入るところなんで!
乞うご期待☆