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第21話 俺の愛しい弟

「……っ、あぁ…」

 か細い声がランブの口から発せられる。体が小刻みに震えだし見開かれた眼からは涙が溢れ出す。

 どうしよう。

 どうしよう。

「どうし、よう」

 ――どうしよう。

「怒らせた怒らせた怒らせた怒らせた怒らせた怒らせた怒らせた怒らせた怒らせた怒らせた怒らせた」

 怒らせた。

 見捨てられた。

 一人だ。

 戻ってこない。


 独り、だ。


「カズ、ヤ?」

「…!?」

 和也は息をのんだ。

 彼は狂った眼をしていた。

 この表情は、まるで……。

『敵討ちをしない?』

 エンブと、一緒だ。

「どうしよう!怒らせたから、もうおれのところにエンブは戻って……!!」

 どうしたら帰ってきてくれる?

 何が悪いのかわかんないよ。

 何をしたのかわかんないよ。

 嫌だ、帰ってきてよ。

 戻ってきてよ。


「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 独りにしないでよ、エンブ!!


 愛しい、俺の弟。

 いい加減に現実を見てくれ。

 偶然あった過去に惑わされるな。

 お前が怯えている原因は、あいつでしょ?

 お前は、見たんだろ……?

「あっはは…、はははっ。…っはははははは」

 ねぇ、ランブ?

「愛しい、俺の弟……」


 あの時、お前じゃなくて俺だったらよかったのに。


 一歩ずつ、歩み寄ってくる。

 血の水溜まりを踏み、血で汚れた剣を煌めかせ、ゆっくりと。

 来ないで。

 やだ、来ないで!!

 来るな来るな来るな来るな来るな!!

「嫌だぁぁぁぁぁっ!!」

「ランブ!」

 ふと、ランブは我に返った。…先ほどまでのは夢だったのか、それとも…?とにかく今は、和也が目の前にいたのを見て落ち着いた。しかし、落ち着くと同時に自分を叱咤する。

 和也の優しさに、頼ってしまった。

 やってはいけないと決めていたはずなのに、やっぱり彼を目の前にするとどうしても甘えたくなる。

 それは決して、してはいけないこと。

「カズヤ、おれ……」

「いいんだからね。頼って!」

 シン、と部屋中が静まった。ランブは眼を丸くして和也を見つめる。

「頼っていいんだよ、頼ってくれ!じゃないと分かんないんだよ、自分がどうしたらいいのか……」

 ホロっと涙が零れる。

 もうなんて言ったらいいのか分からない。

 今は彼の優しさが嬉しくて、切なくて。

 辛くて……。

 気がつくと、ランブは和也の体へと顔を押し付け、声をあげながら泣き始めていた。和也はそれを優しい目で見つめながら、ただ黙っていた。


 本当は、おれが甘えてるんだよ。

 自分のやることが分からないからって、君たちに頼ってる。

 弱いんだよ、おれはさ。

 君らみたいなこと、出来ないんだよ……。


 彼は今、独りだ……。


 ランブ、お前は乗り越えなきゃいけないんだ。

 乗り越えなきゃ、父さんも母さんも安心できないんだから。

 それだけの強さ、お前は持っているだろ。

 だから乗り越えて、そして――――。


 ふと、足元が崩れた。

 そのまま体が宙に浮く。

 そして、落ちていく。

 長く感じたが、ほんの一瞬のことだった。


 ガサガサガサガサガサガサガサガサガサ…。

 ―――がつ、んっ!

本当に今さらですが、エンブとランブは双子ですが、エンブの方がほんの少し早く生まれたので、エンブの方がお兄ちゃんになります。

ランブはエンブのことを『お兄ちゃん』と思っているのに、なぜ呼んであげないんでしょうね?

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