第20話 嫌いだ
ここからグロシーンが出てきます!
いまさら言うのもなんですが、苦手な人はお戻りください。
――バタンっ!!
「ランブ!!!!」
彼は勢いよく家のドアを開けた。開けた瞬間に漂う鉄の臭いに、思わず彼はくらりとよろめく。しかし彼は家へ土足で上がりこむと、真っ赤な廊下を歩いてリビングへと向かった。
そして、そこで見た。
「――!?」
彼は眼を見開く。
血だらけの二つの体。…正確には、二つの体がバラバラになっているのだが。腕に足に首に胴。そこから血はだくだくと溢れ出し、止まる気配はない。体内の血が全て流れきるまで止まらないのだろうか。
もう、ヒトとも分からない状態。
彼と、彼の大切な人の…両親は。
……彼の大切な人は、ナイフを向けられていた。
恐怖で震える瞳と体、さっきまで行われていた惨劇のせいでついた返り血、真っ青な顔。…すべての原因は、ナイフを突き付けている一人の少年のせい。
歳は自分たちより少し上らへんなのだろうか。震える少年以上に赤く染まっている体に、何も映ってないような冷たい瞳。そして頬には鎖の印がついていた。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
彼はわなわなと震えだし、狂気に満ちた目ですべての原因を睨みつけた。
……許さない。
お前を絶対に、許さない。
死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!!
「貴様ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
人殺しには、死刑を。
雪が降っている。
窓から外を見ればすべてが真っ白で、和也はそんなシンプルな世界が好きだった。…雪が好き、というわけではないが。けれど、こんな真っ白な世界を見てると心を落ち着けることが出来た。静かな世界……。
――最近、自分の感情を抑えることが出来なくなってきた。
抑えるって、決めたのに。
自分の感情を相手に伝えると、相手が傷付いてしまうのに。
どんどん、自分が言うことを聞かなくなってきた気がする……。
「レッツ、雪遊びーっ!!」
和也はびくりと反応した。いきなりのジュンガの声。あいつは落ち着くということが出来ないのだろうか、このKYめ。
声の方を向けば、コウリンがジュンガに「いけ、犬」と命令しており、ジュンガは「わん」なんて返事をしながら、外へと駆け出して行くところだった。…変なの。そう言えば、童謡に『い〜ぬはよろこび、に〜わかけまわり♪』なんて歌詞があったなぁ〜。
じゃぁ、猫は?
「さて、私は寝るとするか。…おこたで」
ごそごそとコウリンは、こたつの中へと入りこんでいった。
お前かっ!!
ランブは不機嫌な表情だった。布団の中にもぐりこんだまま、そこから一切出ようとしなかった。
「おい、ランブ…」
エンブが呼びかけても、ランブは彼の方を見、首を横に振るぐらいで、それ以上のことをしようとしない。
「出ろ!」
「嫌だっ!!」
ギュッと布団の端を持ちランブは声を張り上げた。
エンブは一瞬無表情になったかと思うと、「ランブ」と優しい声音で名前を呼んだ。恐る恐るランブはエンブの方を見た…。
……ランブは、息をのんだ。
エンブはにっこりと笑っていた。でも笑う前に一瞬、ランブが最も恐れている冷たい眼をしたのだ。エンブは何も気にしていないかのように、「出ろ」と言い、笑う。そんな彼の姿にランブの背筋は凍りついた。
「わか、った…」
「うん」
そのままの笑顔でエンブは頷いた。そしてランブに背を向ける…。
――だから雪は嫌いだ。
「おはよ、カズヤ」
エンブの声だ。声がしたかと思ったらすぐにドアが開き、エンブとランブが入ってきた。和也はあいさつを返す。
あいさつをした後、和也はふと異変に気づいた。
「ランブ、顔色悪くないか…?」
突然自分の名前を呼ばれて、ランブの表情が一瞬にして強張った。そんな彼を気にせずにエンブは笑いながら和也に言う。
「ランブは、雪が嫌いなんだよ」
…………どくん。
ランブの胸が、大きく高鳴る。
そして急に、恐怖が襲いかかってきた。
「お、おれ…は……」
血が見える。
叫び声が聞こえる。
血が見える。
刃が見える。
……自分は…………。
そうだ。
自分は…。
「昔幼いころにさ、雪に埋もれて死にかけたことがあるんだよね。エンブが血相変えて捜しまわるぐらい大変で、それから雪がトラウマになっちゃってさ、我ながら情けないけど、本当にダメっぽくって…」
「ああ、なるほどねぇ〜」
ランブの言葉を聞いて、和也はふ〜んと頷く。
そんな2人の姿を、遠い眼をしてエンブは見つめていた。
そう。
そんなに、お前は現実を見たくないのか。
「いい加減にしろっ!!!!」
動きが止まった。
一瞬にして、ランブの顔が青ざめていく。
彼はまた、ランブの恐れる眼をしていた。…今度は一瞬ではないが。
数秒この状態が続くと、エンブは何も言わずにこの部屋から出て行った。一度もランブの方を見ずに、静かに。
きっとこの宿からも出ていっただろう。
ランブは訳が分からない、とでも言うような顔をしてその場に崩れ落ちた。
――だから、嫌いだ。




