表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/56

第14話 信じてるから

 強制移動。

「聞いてません」

「聞かない方が悪いんだ」

「ふざけるな」

「お前がこっちが本職だ」


 おれの『ドキドキ☆学園ライフ♪』を返せ!!


 コウリンから辛い現実を教えられ、和也の眼尻にうっすらと涙が浮かぶ。しかし涙を流しても現実世界に戻ることは叶わない。

 主将との激しい戦いが終わった後に、すぐさまこちらの世界へと送られてしまった和也。手には先ほどの戦いで役に立った、調理室に置いてある包丁が一本、目の前にはいつものように森が広がっており、そして森の入り口には――――。


 『己の力だけで来い』


 え〜〜〜〜〜っ……。

 また力試しなのね…。

「これってどういうことなんだ?」

 ジュンガが看板を見ながら呟くと、コウリンは「そのままだろ」とさらりと言い始めた。

「《相棒》を使わずに行け、ってことなんだろう。和也は狼の力は使えずに、生身の人間として進まなければならないんだよ」

「――それって、つまり……」

 前にこんな思いになった時があった。武器も何も持たずに、ラスボスへと向かっていくような気分なような…、そんな恐怖。そんな無謀なことを、今やらなければならない……。幸いにも、武器は持っていた。…包丁一本だが。

 これで向かっていくのは…、あまりにも無謀すぎる。

 相手は《10人の束縛者》だから。

 ……でも、こんな状況でも行かなきゃならないんだろ?

 

 “王道”だから。


「やっぱり来るな」

 少年は持っていた長剣を地面に思いっきり突き刺した。ざくりと鈍い音がする。これが生身の人間におこなっていたらと思うと、自然と顔が青ざめるだろう。

「来いよ」

 剣が煌めく。


「お前の力を――――」


 どさっ。

 大きな獣が血を流しながら倒れた。それの少し離れたところに、和也が血で汚れた顔を拭っていた。持っている包丁は血で汚れ、来ていた制服はいつものように、自分に血なのか返り血なのかが分からないほどに、汚れていた。

「もう22匹目……」

「まだ来るのかよ!いい加減本人が登場して来いよ!こんな風に弱らせてから戦うなんて汚ぇぞっ!」

 ふらふらとしている和也の体を支えながら、ジュンガはただ怒鳴り声をあげる。しかしその声は森に響き渡るだけで何も起こらない。

「ちょっと、疲れてきたかも……」

 疲れでか、和也は少し掠れた声でつぶやく。

 その時、キィンと頭の中で何かがなり、眼の前に一人の少女が視えた。


『信じてるから』


 そして消える。

 きっとこれは頭の中で流れているのだろう。そして自分に向けられてはない。…おそらく、獣を操っている束縛者に向けられているものだろう。倒すたびに、この()を見、どんどん鮮明になっていくから。


「ねぇ、あの子って誰」


 ふと、声がした。男の声だがジュンガの声ではない。和也は声のする方を振り向く。足音を立て、どんどん少年が近ずいてくる。――持っている長剣を煌めかせて。

 少年の頬には、束縛の印がついていた。

「やっと出たな…」

 コウリンがにやりと笑う。ジュンガの眼に闘志が燃えた。


「操る時に感情がこもる。そうすると、あんたみたいな敏感な奴に見えてしまう。…心の内を」

 少年と和也の眼が合う。その時、和也の背にぞっと寒気が走った。

 足が震える。声が出ない。…怖い。その三つのコトに和也の体は縛られる。


「あんた、強い?」


 その瞬間、和也は更に縛りつけられ――――。

 目の前に刃が振られた。


 一瞬の出来事だった。

 彼はあっという間に和也の元へ近ずくと、鋭い目つきで和也を睨みながら剣を和也に向けて振った。カン、と乾いた音を鳴らして、和也の持っていた包丁は遠くへと吹っ飛び土に深々と刺さる。

 和也は包丁を持っていた手を押さえながら尻もちをつく。それだけ彼の力が並みの力ではなかったからだ。

 呻き声をあげている和也を、彼は冷たい目で上から見下ろして呟く。


「おれは、強くなる」


 その瞬間、また頭の中でキン、と音がして……。

 視界が真っ暗になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ