第14話 信じてるから
強制移動。
「聞いてません」
「聞かない方が悪いんだ」
「ふざけるな」
「お前がこっちが本職だ」
おれの『ドキドキ☆学園ライフ♪』を返せ!!
コウリンから辛い現実を教えられ、和也の眼尻にうっすらと涙が浮かぶ。しかし涙を流しても現実世界に戻ることは叶わない。
主将との激しい戦いが終わった後に、すぐさまこちらの世界へと送られてしまった和也。手には先ほどの戦いで役に立った、調理室に置いてある包丁が一本、目の前にはいつものように森が広がっており、そして森の入り口には――――。
『己の力だけで来い』
え〜〜〜〜〜っ……。
また力試しなのね…。
「これってどういうことなんだ?」
ジュンガが看板を見ながら呟くと、コウリンは「そのままだろ」とさらりと言い始めた。
「《相棒》を使わずに行け、ってことなんだろう。和也は狼の力は使えずに、生身の人間として進まなければならないんだよ」
「――それって、つまり……」
前にこんな思いになった時があった。武器も何も持たずに、ラスボスへと向かっていくような気分なような…、そんな恐怖。そんな無謀なことを、今やらなければならない……。幸いにも、武器は持っていた。…包丁一本だが。
これで向かっていくのは…、あまりにも無謀すぎる。
相手は《10人の束縛者》だから。
……でも、こんな状況でも行かなきゃならないんだろ?
“王道”だから。
「やっぱり来るな」
少年は持っていた長剣を地面に思いっきり突き刺した。ざくりと鈍い音がする。これが生身の人間におこなっていたらと思うと、自然と顔が青ざめるだろう。
「来いよ」
剣が煌めく。
「お前の力を――――」
どさっ。
大きな獣が血を流しながら倒れた。それの少し離れたところに、和也が血で汚れた顔を拭っていた。持っている包丁は血で汚れ、来ていた制服はいつものように、自分に血なのか返り血なのかが分からないほどに、汚れていた。
「もう22匹目……」
「まだ来るのかよ!いい加減本人が登場して来いよ!こんな風に弱らせてから戦うなんて汚ぇぞっ!」
ふらふらとしている和也の体を支えながら、ジュンガはただ怒鳴り声をあげる。しかしその声は森に響き渡るだけで何も起こらない。
「ちょっと、疲れてきたかも……」
疲れでか、和也は少し掠れた声でつぶやく。
その時、キィンと頭の中で何かがなり、眼の前に一人の少女が視えた。
『信じてるから』
そして消える。
きっとこれは頭の中で流れているのだろう。そして自分に向けられてはない。…おそらく、獣を操っている束縛者に向けられているものだろう。倒すたびに、この娘を見、どんどん鮮明になっていくから。
「ねぇ、あの子って誰」
ふと、声がした。男の声だがジュンガの声ではない。和也は声のする方を振り向く。足音を立て、どんどん少年が近ずいてくる。――持っている長剣を煌めかせて。
少年の頬には、束縛の印がついていた。
「やっと出たな…」
コウリンがにやりと笑う。ジュンガの眼に闘志が燃えた。
「操る時に感情がこもる。そうすると、あんたみたいな敏感な奴に見えてしまう。…心の内を」
少年と和也の眼が合う。その時、和也の背にぞっと寒気が走った。
足が震える。声が出ない。…怖い。その三つのコトに和也の体は縛られる。
「あんた、強い?」
その瞬間、和也は更に縛りつけられ――――。
目の前に刃が振られた。
一瞬の出来事だった。
彼はあっという間に和也の元へ近ずくと、鋭い目つきで和也を睨みながら剣を和也に向けて振った。カン、と乾いた音を鳴らして、和也の持っていた包丁は遠くへと吹っ飛び土に深々と刺さる。
和也は包丁を持っていた手を押さえながら尻もちをつく。それだけ彼の力が並みの力ではなかったからだ。
呻き声をあげている和也を、彼は冷たい目で上から見下ろして呟く。
「おれは、強くなる」
その瞬間、また頭の中でキン、と音がして……。
視界が真っ暗になった。