第12話 殺ろうぜ!?
「全然ページが埋まってねーーっ!!」
家の中に響き渡る絶叫、それは鈴原和也のものだった。現在、鈴原家は和也一人。しかもここは現実世界の家だ。
つまり和也は本の世界から帰ってきたのである。
双子からの例の話を聞いた後、特に何もしていないのに、数分経ったら勝手に移動したのである。帰ってきたときには、入学式が終わって帰ってきた状態…、つまり本の中へと行く時の時間のままだった。時間が止まっているのも、また一種の“王道”なのかもしれないが。
そんな展開に和也は頭を抱えていたが、特に頭を抱えたことは……。
ページが全く埋まっていないことだった。
真っ白だった本には文字が書かれていた。それもかなりのページ数だ。しかし真っ白なページはまだまだまだまだまだまだ…、あるのだ。これはそう簡単には埋まりそうにはなかった。 というか、見た目以上に本は分厚いらしい。
和也は一人でこれまでの出来事を読み返す。そこには自分の心境が書かれていて、カズヤはなんだか恥ずかしくなる。……しかし、ほかのキャラクターの心境は書かれていなかった。
正直、双子のことが知りたかったのだが、書いてあるのはセリフやらの外に出てる言葉ばかりで、内面のことは何一つ書いておらず、知ることはできなかった。もちろん、それは他のキャラクターもだ。
都合いいよなぁ。
なんて心の中でつぶやく。すると本にはその言葉が付き足されていく。和也はなんだか微妙な気分になったので本を閉じた。
その時、さっきまで本に当たっていた光が突然遮られて影になる。
まるで誰かが覗き込んでいるような……。
「ホント、都合いいよね〜」
男と女、二つの声が頭上からする。
と、同時に顔が青ざめていく和也。
神様、どうか違いますように違いますように違いますように!!!!
しかしそんな願いは叶わず、振り返った和也は絶句した。
そこには、先ほどまで一緒だった2人がいたのだから。
物語の中でしか会えないはずの、彼らが。
「なんでいんの!てかジュンガ透けてないし、都合良すぎでしょ!?」
「オレもそう思った!ていうか耳も出てないんだぜ〜♪」
そう。そこにいたのはジュンガとコウリン。しかも両方とも制服姿で。ジュンガは透けておらず、しかも耳まで消えていた。しかしコウリンの頬にあるマークらしきものは消えてはいなかった。
コウリンは呆然とする和也をからかうように笑って言う。
「今日からお前のイトコになる、鈴原紅燐と鈴原純牙だ。こっちでもよろしくな、和也?」
よろしく、なんて言えるわけないだろっ!!
「今すぐ帰れ―――っ!!」
もちろん帰れるわけがない。
次の日になった。
入学式が終わって、初めての登校。しかし和也の表情はものすごく暗いものだった。どうやらイトコとなった2人は前からいるという、あまりにも都合の良すぎる設定となっており、誰も「誰コレ」なんて言うことはないのだ。言うとしたら和也一人。
そんな“王道”展開で和也は現在、狂っちゃうわー状態なのである。
そんな和也の肩を叩く手があった。
「おはよ、和也」
和也は振り返る。しかし振り返らなくても分かった。こんな風に親しく接してくる人物はただ一人…、刻だけだったから。
眼が合えば刻は微笑む。そんな彼の態度が嬉しくて…、同時に辛い。
それはきっと昔色々あったからなのだろう。
もちろん刻は2人にもあいさつした。おんなじ笑みで。
しかし腹黒く見えるのはなぜだろう。
そしてあいさつし終わると和也の方をじっと見つめる。……ただ見つめる。そんな彼の態度に和也は妙に焦りだす。
――――そして彼は笑った。
「変わったね、和也」
「……え??」
眼を丸くする和也。そんな彼の反応を見て刻はくすくす笑う。
「まるで昔に戻ったみたい」
「――――え……」
和也の動きが、ぴたりと止まった。
刻はニコニコと嘘臭い笑顔で先に歩いて行く。
その後に二人がついていく。
和也はその場に立ち尽くしていた。
「…昔ねぇ」
「おはよ〜♪」
教室に入ってきて声をかけてきたのは亜矢と裕里だった。亜矢はいつものようニコニコしており、裕里はすすす、と和也に寄る。
「ねぇ、見て。新しい同人誌描いたの。それも刻×和!」
刻×和。つまり刻攻めの…、である。裕里の持っている本は、とにかく凄い表紙であった。そこには自分と刻がいる…、それだけで、和也はぶっ倒れそうだった。
裕里は時々こうやって同人誌を描く。それが全年齢なのかR指定なのかは場合によって違うが(ちなみに今回はR18)。そしてそれを学校で売りさばき…。かなり売れるって言うのが憎たらしい。まぁ、かなり上手なので仕方がないが。
「色々と、また上手くなってるな」
って刻読んじゃってるし―――!!
まぁいつものことだけど。
刻はちゃんと描いてもらったものは読んでいる。わざわざ「どう?」と見せてくれるのだから読まないと失礼だ、なんて本人は言っているが、和也は一生そんなことは出来なさそうだ。
刻の精神力、恐るべし!!
「あ、そうだ。和也君」
「え…?」
「純×和もあるよ?」
「何ぃ!?」
ハモったのは言うまでもない。
腐女子め……っ!!ってか見せんでいいから。
授業が終わり帰る時間になった時、刻は和也にあることを伝えた。
「剣道部が、いきなりお前を誘ってるぜ。どうやらお前の運動神経の良さを知っていたらしい。でも、もしやらないのなら、主将と戦ってもらうってさ」
めちゃくちゃだろ。
刻はそう言うと頑張れ、と一言残して帰っていった。そして残ったのは和也と純牙と、裕里の同人誌を呼んでいる紅燐だけとなった。
そんな3人は武道所へと移動した。けれど紅燐はいつの間にか姿を消していた。
勝負は防具なしの一本勝負。しかし和也は剣道なんかかじったぐらいで、全くやったことなんてなかった。そんなバカみたいな条件の中和也はため息をつく。
…なんで主将はこんなことを…。
主将は中学の時にちょっとだけお世話になったことのある知り合いだった。すっごく温厚そうな人で、こんなめちゃくちゃなことはしない人だと思っていたのだか……。
そこで、主将が現れ、和也はその姿を見た瞬間に文句を言いだした。
「主将!なんでこんなことを…っ!?」
和也の言葉が止まった。
主将のやろうとしていることはめちゃくちゃだ。
しかし、主将の持っているものもめちゃくちゃだった。
銀色にきらめき、そして鋭い刃。
「……なんで…っ!?」
まるで、いや、これは……。
本物の、剣。