第10話 彼の力
彼女はご機嫌斜めのようです。
「会いたい、会いたい、つか、何いきなり消えてんだよボケナス。周りの奴らは「今日も笑顔で学校行きましたよ〜」とかふざけたこと言って…。行ってないっつーのに…ったく」
ずいぶんと朝早くから、ミサトはベットの上に座りながらぶつぶつと呟いていた。最初は可憐に「会いたいわ…」的な感じだったのに、そのうちイライラしてきて口調が悪くなっていき…今に至る。
すると、隣から物音がしてきた。
――――確か、隣は双子ちゃんのお部屋よね…?
不審に思いつつも、ミサトは恐る恐る部屋の扉へと近ずいていく。
そして、耳を扉へくっつけた。
「――本当なのかよ、言えって」
「痛いって、本当だから…っ!」
どさり。
「――――え……?」
もしかして、もしかしなくてもこの展開は…?
一瞬でミサトの顔が青ざめる。そして思いっきり扉を開けた。
「何してるのよ―――っ!!」
「!?」
開けた瞬間、その場にいた者全員の顔がこわばった。
双子はベットの上で、エンブがランブを押し倒した状態で寝ころんでいた。ミサトはそんな彼らの姿に驚き、双子は突然の来客に驚く。
わなわなと、ミサトの体が震えだし――――。
「ホモだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そのまま走り去った。
取り残された双子は顔を見合わせた。
「え?これってまずいんじゃないの…?勘違いされてない?」
ランブの言葉に、ゆっくりとうなずくエンブ。そして深くため息。
「問い詰めてたらバランス崩して倒れこんじゃっただけ、なんだけどなぁ……」
「あ、そうだよ。おれ何ともないからね。束縛者見たぐらいでビビらないよ」
少し怒った表情でエンブを見るランブ。それを見てさすがに納得したのか、エンブは苦笑しながら「はいはい」と頷いた。そうすると、エンブはニコリと笑って満足そうにした。
そして、その表情もまま、小さな声で呟いた。
「1人だけ、例外だけどね」
和也たちはミサトの部屋へと集まっていた。ミサトから『あの人』について話を聞くためだ。
ミサトは少し、暗い表情で話し始めた。『あの人』について話す+先ほどの双子の姿を見てしまったため、テンションがガタ落ち状態なのである。
「『あの人』って言うのは、あたしの彼氏、ユウトのことなの。いつも本ばかり読んでいたんだけど、とある本を読んでからずっとその本のことばかり考えていて…。そして、ある時消えたの」
それを聞き、コウリンは納得したように頷いた。
「《10人の束縛者》になった、だな?」
「…私がなったんだから、そうだと思う」
ミサトはそう言うと、一息置いてまた話し始めた。
「彼はきっと地の力を操るわ。その力なら……」
ギュッと、彼女は眼と閉じる。
そして、ゆっくりと続きの言葉を言った。
「――――その力なら、どんなことでもすることができるの」
その言葉に、和也とジュンガは素早く反応する。
「どんなことも、って…!」
「それって!!」
「人も殺せる」
これまで黙っていた双子が、ハモリながら言った。
「しない!ユウトは決してそんなことはしないわよ!」
ほぼ叫び声で、ミサトは双子に向かってどなる。そんな3人の姿を、和也とジュンガはただ呆然と見る。コウリンは少し辛そうな表情で目をそらしていた。
和也は双子の眼をじっと見ていた。
2人とも、眉間にしわを寄せてただ黙っていた。誰をも眼を合わそうとせずに。
――――何か、何かあるんだ。
この双子には、束縛者について何かがあったんだ。
それが何かなんて、知るわけないけど。
和也が難しい顔をしながら考え、部屋の雰囲気が気まずいものに変わってきたときに。
それは起きた。
最初は小さな異変で、誰も気付くことはなかった。しかし、ふとコウリンが顔をあげて叫んだ。
「強い力が来る!」
どんっ。
どんどんどんどんどんどんどんっ。
がたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがた。
地面が、揺れ始めた。しかし周りの物は倒れて来ないのはなぜか。
「……彼の、力?」
だから、周りの物は倒れてこないの?
「やっぱり、ユウトは変わってないんだ!だから、話せばこんなことやめてくれるんだよね!?」
ミサトは少しだけ、目を輝かせた。
和也はその反対だった。幸い、今はリンカたち美男女家族は買い物に出かけていてこちらにはいないので、そっちの方は大丈夫だ。
少しずつ、揺れが収まってくる。そうすると、ジュンガは獣らしく素早く動き出した。
「きっと玄関から出たって無駄だから、こっから出るぞ!」
こっからとは、窓のことだった。ジュンガは言い終わると同時に窓に手をかけた――――。
「!?」
窓からは出れなかった。
岩が窓に張り付いていて、出ることができなかったから。
『やすらぎの家』に、彼らは閉じ込められてしまった。
――――ユウト、変わってしまったの…?