闇に蠢く者
深夜の街灯に大小様々な虫が飛び交い夏の夜を感じさせている。
私は終電を逃し、徒歩で一時間かけて自宅へと向かっている途中であった。仕事終わりに歩く羽目になろうとは。これだから残業は嫌いなんだ……。
―――カッ カッ カッ ザッ
甲高い私のヒールの足音に混ざり、靴の裏に挟まった小石が地面と擦れる音が聞こえた。
「…………?」
私は立ち止まり静かに後ろを振り向いたが、聞こえてくるのは古い街灯の点滅する音と蛾の羽音だけであった。
私は再び歩き始め帰ってからの事を考える。きっと家族はもう寝静まっているだろう。両親に祖父、そして私の四人暮らし。
祖母に先立たれた祖父は急激に弱々しくなり、痴呆が進んでしまったようで母の介護無しでは外出も出来なくなってしまった。それでも私が帰ってくると子どもの頃から変わらずに、棚からお菓子を取り出して「食べるかい?」と聞いてくるのだ。私はそんな祖父が大好きだ。
けれど最近病気で入院しているので、私は早く元気な祖父を一日でも早く見れると良いな、と思っていた……。
―――カッ カッ ザッ カッ ザッ
私はピタリと立ち止まる。すると足音もピタリと止まる。私は怖くなり歩調を早めた。
――カッカッカッ ザッザッザッ
それでも確実に不気味な足音は私の後ろを着いて来ている。私は走り出し小道を素早く何回も曲がり、足音の主を振り解こうとした!
―――カカカカ カッ カッ カッ……
幾多にも曲がり角を曲がり、息が上がった肩を激しく上下させながら手を膝へと当て後ろを振り返った……そして誰も居ない夜道を見てホッと胸を撫で下ろした。
静かに玄関の扉を開け、忍び足で玄関の敷居を跨ぐ。靴を揃えて玄関の隅へ置くと、ふと乱雑に脱ぎ捨てられている祖父の靴が目に留まる。
(おじいちゃんったら……)
私が祖父の靴を掴むと、ぬるりと妙な暖かさが指先へと伝わった。私はハッとして靴を落としてしまった。
コロリと落ちてひっくり返った靴の裏には小石が挟まっており、私は嫌な悪寒に背筋がゾクゾクと凍えた。
―――ピタ ピタ ピタ
「おかえり……お菓子……食べるかい?」
私は暫く振り返る事が出来なかった…………
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