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ジジ・ザクシーズ

第2代皇帝の第4子で次女。



本当の妹のように可愛がっていたジジが結婚する。

その事実に戸惑う。ブリアナは先代の血を引く皇女であり、現皇帝の養女。

その血の価値だけで言えば、ブリアナの方が望まれるはずなのにも関わらず、ジジが先に結婚するということを、あの子はどう受け止めているのだろうか。

それとも、ブリアナよりもジジの方がこの国の道具として扱われることに抵抗がないということだろうか。

彼女は皇女としての教育よりも、武人としての教育を好んでいた。武人として生きていくと公言していた彼女が、婚姻を結ぶと聞いて驚いてしまった。



「式はジジの嫁ぎ先である隣国で行われる」



何を考えているのかわからない瞳が私を映している。

その瞳を見るたびに私が、どれほど無力なのかを思い知らされる。

ジジはこの国にとって、必要な人物なのになぜ手放そうとするのか。

同情に近い形で私を側に置く、彼を解放できればいいのに。

ジジの代わりに私が隣国に嫁げればいいのに。

白い結婚なのだから、この婚姻は無効に出来るはず。

それならば、私がこの国の父が建国したザクシーズ帝国の礎になろう。



「ベネディクト様、私との婚姻を無効にしてください。ジジの代わりに私が隣国へ参ります。彼女は、この国にとって大切な存在です。そんな彼女の代わりになれるとは思っておりませんが、私は初代皇帝である父の血筋に誇りを持っております。だからこそ、隣国も納得なされるでしょう」



決意をすれば、言葉があふれてくる。私は彼を解放しなくてはいけないのだ。

あの幼い日に口にした言葉で、彼を縛り、彼の安らぐ場すら与えることの出来ない出来損ないの皇太子妃の座から降りなければいけない。

合わさる視線が、徐々に険しいものに変化していく。

その瞳の鋭さに、彼が怒りを宿しているということに気づく。

私は彼の機嫌が悪くなるような琴線に触れてしまったようだ。だが、どの言葉が触れたかがわからない。

何も知らない飾りのような存在の私が、口を出していいような問題ではなかったようだ。

無理矢理手首を掴まれる。その痛みに顔を歪めれば「私のことがよほど嫌いなようだ。昔は、鬱陶しいほど付きまとっていたというのに。いまではあの頃とは逆だな。私の元から逃げられると思うな」と告げ荒々しく唇を奪われる。

酸素を求めて藻掻く私のことなどお構いなしで、荒々しく獰猛なその行為に背筋が冷える。

どうにか彼の唇を噛むことで強制的な離すことは出来たが、散々貪ったというのにも関わらずまた距離を詰めようとする彼がわからない。



「既に隣国には発言権などない。この国の属国と言う立場でしか国を残すことしか出来なかった無能たちだ。そのような国に、何故ティナを与えなければならない。その前に、おまえは私の妻だ。皇太子妃という自分の立場を忘れるな。何れ、国母となる存在なのだからな」



彼の見たこともない表情に、知らない一面をみた気がする。

戦場に赴く彼が見せる表情とは、このような表情なのだろうか。

冷たく射貫くその視線から逃れるように目を伏せることしか出来ずにいた。


やはり、私は何も知らないお飾りの皇太子妃なのだ。

誰もがそう囁きたくなるのがわかる。無知な自分をどうすることも出来ない自身に腹が立つ。

この感情を持ったところで、私に必要とされているものはこの血筋なのだ。




「お前は世界を知らなすぎる。だが、そのままでいい」



ベネディクト様の言う通りで、私は世界を知らない。

あの日に世界を閉ざしたのは、私自身だ。

何も知らない狭い世界で生きていこうと、まだ幼すぎる思考しかもたなかった私が決めたことだ。



「ティナは無知で無垢な可愛いままでいればいい」


「……」


「何故ならば、おまえは私の妃だからだ。何があろうと守ると、あの日あの方たちに誓ったのだからな」



そうは言ってくれるけれど、彼にとって私は庇護の対象であり守るべき血を引いた存在にすぎないのかもしれない。

ただ、私が死んでしまったら新しい妃を娶らなくてはいけないことが、面倒なだけなのか。

それだけのために、私を守ると言ってしまうのか。誓いなどと言葉を並べても、破ることなど簡単だ。神に誓った婚姻を無効にする者が多い中、誓いという言葉を重く捉えることも出来ない。

無力な無知な私を守って彼に、なんの得があるのだろう。



「…ありがとうございます」



何を述べればいいのかわからずに、感謝を伝えれば無言のまま部屋を出て行ってしまう。

話すことに飽きてしまったのだろう。

出て行った扉を見つめながら「もう、私を手放せばきっとあの人は楽になれるはずなのに。何故、手放してくれないのかしら。私はディックを解放したいだけなのに」あの人のいない部屋で呟くひとりごとは虚しい。

誰も聞いてない言葉なのだからいいのかもしれない。




その言葉を扉横の壁に寄りかかるようにしていた彼が、聞いているなど知らずに呟いてしまった。




ねえ、私はどうしていまでも彼のそばにいるのだろう。

もう、私の周りには微笑みかけてくれる人はいないのに。

何故、あの日に父や兄、弟と共に死ぬことができなかったのだろう。

離宮にいなければ、共に逝けたはずなのに。

そもそも、ベネディクト様と婚姻など結ばなければよかったのかもしれない。



「いっそのこと、私は消えてなくなってしまえばいいのに。この国にとって役に立たない私なんていないほうがいいのに」



叔父の后として再び皇妃の立場を手に入れた母が、私の元に訪れたことなどなかった。

父や兄がいた頃の母は優しかった。いつでも私たちの側にいてくれた。

優しく私たちを見守り、時に民に対しての思いやりについて話してくれた母はもういない。

いまでは、皇妃と皇太子妃という立場でしかない。

それに私はお飾りの皇太子妃だから、誰も私のことなど気にしないだろう。


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