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六人揃えばできない事なんてない!  作者: ジジ&ヂヂ
プロローグ
2/10

原点

天元と六人は久瀬財閥からの依頼を受けると返事をした後、リアムの運転する車で天元の道場へ向かっていた


「護衛が始まるまでに夏休みの宿題終わらせないとね…」


久瀬龍一曰く、護衛対象である孫が帰ってくるのは一ヶ月後、夏休みも半ばに差し掛かってだという


「そんなことよりよ、依頼を受けたのはいいが、実際のところ護衛として俺たちで実力は足りるのか?」


武の不安は最もである、なにせ世界トップクラスの企業を狙っている者と戦う事になるかもしれないのだ、相手も相当の手練れを準備していると考えていいだろう


「なら鍛えればいいじゃろうて」


「「「「え!」」」」


天元の一言で葵、愛、準、諒の空気が凍り付いた


「おじいちゃん…今……鍛えるって言った?」


自分の聞き間違えだろうという淡い希望を持ち、諒が尋ねる、三人も聞き間違えであってくれと言わんばかりの表情で天元の方を見ていた


「言ったわい!」


四人の表情は一気にドン底まで叩き落とされた様にみるみるうちに曇っていった

その横で柚と武は


「じじいの稽古か!久々にワクワクするな!」


と喜んでいた


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


六人がまだ小学校に上がる前のこと、この頃六人は天元に育てられ同じ家で過ごしていた

えい!やぁ!とう!はぁっ!

天元の自宅裏に構える道場、そこの庭が幼少期の六人の遊び場だった

えい!やぁ!とう!はぁっ!

最初に始めたのは誰だったか最早誰にも分からなかった、それは武術と呼べる様なものではなく、ただ遊び場から見える門下生の真似事でしかなかった

えい!やぁ!とう!はぁっ!

天元から武術を強制したことも、やりたいかと聞いたことすらなかった、しかし毎日の様に見ている門下生たちの鍛錬を、幼少期の好奇心旺盛な子供達が真似しだしたのは自然な事だったのかもしれない


「じーちゃん!おれたちにもぶじゅつをおしえて!」


子供達にそう言われた日の事を、天元は今だに夢に見る


「いいだろう、だが武術の修行は厳しいぞ?それでもやるのか?」


「「「「「「うん!」」」」」」


しかしこの時天元は、まぁ子供の言うことだ、少しやれば嫌になるかもしれないな、と考えていた

しかし、一ヶ月、二ヶ月たっても子供達は楽しそうに修行に励んでいた

半年が過ぎ、天元はそろそろ本格的に技を教えてもいいか、などと考える様になっていた


〜〜〜〜〜


ある日の事、子供達は珍しく河原に遊びに行っていた、子供だけでは危ないと門下生の一人が子守りを買って出てくれた。この事で天元は安心していた

しかし、天元は自分が付いて行かなかった事を後悔する事になる

そして、この日の事も、天元は今だに夢に見る


子供達が遊びに行ってから二時間ほどが経っただろうか、葵が一人で帰って来た、それも泣きながら


「おじ…おじぃちゃん……み゛ん゛な゛か゛ぁぁぁぁーーー」


泣くのを我慢していた様な葵だったが、天元の姿を見た途端に泣き崩れてしまった

天元は道場にいた門下生に葵を見ていてくれてと預けて河原へ駆け出していた


〜〜〜〜〜


天元が河原に着いた時目にしたのは、子供達を護ろうとする門下生とその門下生に殴りかかる数人の男達だった

天元は男達と門下生の間に割り込むと一瞬のうちに男達を制圧した

後から話を整理すると男達はただの不良などでは無く、隣町の道場の門下生であった。その道場は勝つためなら武道精神なんか糞食らえの悪い噂の絶えず、今回も天元の門下生を倒したと、箔を付けようとしたものであった

普段天元は決して武術を私的に使うなと教えていた、武術とは自衛の為だと

しかし、門下生や孫として育ててきた子供達にも危害を加えられた事に黙ってはいられなかった

道場に門下生を呼び天元は頭を下げた

皆には申し訳ないがこの道場を畳もうと思う、これで皆は破門、そしてこれからワシがやる事を許して欲しいと




その日、二つの道場が看板を失った


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


久瀬財閥から帰ってくるなり天元は、道着に着替えて道場に集まる様に言った


「じじいが稽古つけてくれるなんて本当にいつぶりだ?」


「本気で、ってことなら一年ぶりぐらいじゃないかと思うゾ…」


「私着いていけるかな…」


女子更衣室は柚がを除き少し重たい空気が流れていた

一方男子更衣室ではと言うと


「久々に俺の成長した力じじいにみせてやるぜ!」


「僕は鈍ってるって怒られそうだな…」


「俺もだよ、諒…」


六人は幼少期から武術を始め、今でも鍛錬は欠かさない、がそこには個人差があった

兎に角武術を愛し、天元を超えるほど強くなろうと修行する柚と武、強くなりたいとは願うものの二人ほどストイックにはなれない葵、愛、準に諒

とは言うものの、天元流の名の下、四人ですら不良程度ならば軽くあしらえるレベルであった


〜〜〜〜〜


六人が道場へ行くと天元は既に着替えて待っていた


「やっと来たか、まずは一人ずつの実力を再確認じゃな、順番にかかって来い」


天元はそういうと構えをとった、武術を知らない者ですら威圧感を感じ、逃げ出す様な気を放ちながら


「おいおい、じじいの本気か?なら俺から行くぜ!」


そう言うと武は立ち上がり様に天元の鳩尾を狙った右の前蹴りを放つ


「うわ!武くんの蹴りまた速くなってない?」


愛の言う通り、武の蹴りは鍛え続けた結果、一般人では反応すら許さない速度まで磨き上げられていた が、武神はこれを左掌でいなしながら武の右側面を取り、そのまま左手刀を武の胸に打ち込んだ


「次は誰じゃ?」


武の方を見もせず五人に声をかける天元、武は崩れ落ち、そのまま立てなかった


「次は私だ!」


柚は天元の顔面へ得意技の連突きを放った

連突きは左正拳突きと右正拳突きのコンビネーションであり、片方を捌いたとしてももう片方を捌くのが至難の技である


「うっわ、なんだあの威力、本当に突きか?」


準が驚くのも無理はない、突きの速度が速く一度しか打ってない様にすら見え、威力に至ってはコンクリートブロックすら心許ない強度に感じるレベルであった

天元は武の放った前蹴りと同じ前蹴りで柚を一撃で沈めた

その後は諒と準、葵がそれぞれ沈められたが、柚や武と違い技すら出せなかったので割愛する


「さて、最後は愛じゃな」


愛がしっかりと構えをとったのを見てから、天元は右掌打を顎に向け放った


「……うそ…だろ」


見ていた五人は自分の目を疑い、刹那現実であると実感した

天元は宙を舞っていた


「じじいが投げられた…」


その言葉が言い終わる前に天元は空中で身を翻し、愛を投げ返していた


「さて、反省会じゃな」


そう言うと天元は一人一人に的確な指導を行っていった


「武、お前は蹴りの威力に頼り過ぎじゃ、だから捌かれた後に何もできずに終わる」


「柚、お前は攻撃に意識が向き過ぎじゃ、だから簡単にカウンターをもらう」


三人も指導は受けたがあまりにも基礎的な事であり割愛する


「最後に愛、お前は投げた後に気を抜き過ぎじゃ、投げた後の残心が無いんじゃ」


その後、天元の指導の元、それぞれ地獄の修行が行われた


〜〜〜〜〜


「今日はここまでじゃの、気をつけて帰るんじゃよ」


皆の修行を行っていたにもかかわらず、一切息の切れていない天元は先に帰ってしまった

六人は肩で息をしながら道場の掃除や着替えを済ませて外に出た

時計は10時を指していた


「もうこんな時間じゃねぇかよ!じじいやり過ぎたっての」


「そういえばさ、愛凄かったね、僕驚いたよ」


「そうだよー隠れて修行してたのかー?」


「私もびっくりしたゾ!」


「倒せなかったとはいえ投げたからなー、打撃ならじじいに掠らせるぐらい難しいぞ?」


愛は六人の中で投げ技に関しては一番の実力を持っていた、これは愛の性格にも一因があった


「ほら、打撃技は自分から攻撃するみたいで嫌だったからさ、私は子供の頃から投げ技しかやってこなかったから」


事実、六人が戦場に出れば最も戦果をあげるのは武か柚だろう、けれどいざ日常における戦闘に関しては愛が最も強いであろう


「一つの技を突き詰める…」


握った拳を見つめ、柚はそう呟き、自分達が武術家になれた日の事を思い出していた


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


天元が道場を畳んで数日後、子供達が天元に尋ねた


「おじいちゃん、もうぶじゅつはおしえてくれないの?」と


天元はあの日から考えていた、自分の為に武術を使用した自分には人に武術を教える事は出来ない、けれど今後子供達に何があるか分からない、せめて子供達には護身術程度には教えておくべきでは無いのかと


「すまんのぅ、おじいちゃんはしてはいけない事をしてしまったんじゃ、だからもう武術はできんよ」


そう伝えた時、子供達には理由は伝わっていなかっただろう、しかし「武術はできない」という部分は子供達に届いた様だった


「………」


子供達の今にも泣きそうな顔に天元は自分の未熟さを改めて痛感した


〜〜〜〜〜


天元が道場を畳み一年が過ぎた、道場を畳んでも依頼が止むことはなく、街の人の力になる日々が続いていた


「おじいちゃんこれ見て!」


満面の笑みを浮かべ子供達が天元に見せたのはまだまだ未熟さを残すものの紛れもなく武術の型であった


「おれはヒーローみたいになりたくてキックのれんしゅうしてたんだ!」


そう言いながら武の放つ蹴りは確かに天元が今まで教えていたもであった


「わたしはつきをれんしゅうしたんだ!」


誰よりも練習を重ねていたのだろう、柚の突きは六人の誰よりも高い練度であった

他の四人もそれぞれ技の稽古を続けていた様だった、天元はそれが何より嬉しかった、しかし子供達の技はこの一年独学の稽古であったため、中途半端になっており、このままでは危険であった

天元は喜びを秘め、子供達へ問い掛けた「なぜ武術を続けていたのか」と


「ぶじゅつをできなくなったおじいちゃんをまもりたいから」


子供達は天元が武術を出来なくなったなら自分達が代わりにやればいい、次は自分達がおじいちゃんを守るんだと決意をしていたのだろう


「そうか、ありがとう」


天元はこの時、子供達はこれからも武術を続けるだろうと考えていた、しかしこのままでは中途半端な技術を身につけて逆に危険である。ならば、武術家の最後の責任として、子供達には正しい技術を教えようと、そしてそれまでは子供達を守るためだけに現役でいると誓った


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「武、少し話がある」


稽古の翌日、柚は武を呼び出した


「昨日の事か、多分俺も同じ事を考えてたぜ」


柚と武は同じ考えに至っていた。稽古の量で言えば間違いなく他の四人より多いはずの自分達が、愛に遅れをとっていた理由についてと、これからの事だった


「一つの技を極める、事戦闘においては間違っていないのかもしれないな」


事実、戦闘において技の応酬になる事は少なく、余程実力が拮抗しない限り、大体の場合決め技一つで決着がつくだろう。


「あぁ、俺は蹴りが得意だぜ、だからと言って蹴りを極めるほど稽古したかと言えば違うよな」


これは武のせいでは無かった。天元は武技百般の異名を持つ程あらゆる技を駆使していた。そんな人の背中を追っていたのだ、色々な技術をバランスよく稽古していた事は自然な事であろう


「私もだよ、武はあの日のことを覚えているか?」


「じじいを守りたいと話した日か?」


「そうだよ」


あの日皆で話し合った、おじいちゃんを守ると


「あの日から得意技だけを我武者羅に稽古したよな、じじいに早く上手になった技を見せたくて」


「あぁそうだったな、あれが武術家としての始まりだったな」


武術家とは、武術を学んだ者でなく武術を大切なものを守る為に使える者である。これが昔から天元の口癖であった


「そうだ、あの日が私達の武術家としての原点だったんだ」


武術家としての原点、それは天元を守ると決めた事、そしてその為に鍛えた技だった


「だから原点に戻って一つの技を極めようって事だろ?」


「あぁ、その為にあの人の所へ行かないか?」


「わかってるよ、俺だってそう考えてたんだぜ?」


そう言って二人は立ち上がり、久瀬財閥へ向かった

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