プロローグ
ど素人作者の処女作です。
お付き合いお願いします。
ある道場の真ん中、畳に立てられた4本の鉄骨、その中心には道着を身にまとった老人が立っていた。老人とはいっても一目で只者ではないと感じるほど、気力と体力に満ちていた。俗に言う達人であろう。
「ふん!」
老人が気合を込めた右手刀を放つ。轟音と共に、目の前の鉄骨はくの時に折れ曲がった。
「チェストォ!」
振り向きざまに繰り出された右後ろ回し蹴り、それは後ろの鉄骨を頼りない飴細工の様に引き千切った。
「はっ!」
右足の着地とほぼ同時に放たれた左の前蹴りは触れることなく鉄骨を吹き飛ばす。
「せい!」
突如として最後の鉄骨に拳の跡が浮かび上がった。おそらく振り向きざまの右正拳だろう。老人は一つ気合のこもった息を大きく吐くと周りにいた観客へ一礼をした。顔を上げた老人は今目の前で技を見せた人間と同一人物なのかを疑うほどに、柔らかな雰囲気を身にまとっていた。
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「……ふぁぁあ、久々にじいちゃんの夢みたな」
青年は夢から醒めると大きく伸びをして目を擦り布団から起き上がる。
ゆったりと制服に着替え部屋を出て階段を降り洗面所へ向かう。
洗面所の扉を開けると先客がいた。
「おー準か。おはよーさん、悪いが俺も今来たとこなんだ、狭いが勘弁してくれ」
歯磨き粉を歯ブラシに絞りながらガタイのいい青年は少しスペースを空ける。
「猛がいると狭いんだよな…」
そう言いつつ、時間もあまり無いので横に並び歯を磨きはじめた。
「ほーひへはほー、はへひはは?」
「ははひへはい」
「ははふひほほ、ほへほひひほひはははは」
「二人ともおはよ、よくそれで会話できてるね。何話してるの?」
洗面所の入り口には小柄な青年が立っていた。猛は口をゆすいでから振り返り少年に激しく言葉をかける、自分の言い分をわかってくれと言わんばかりに。
「涼!聞いてくれよ、準に貸した俺様の秘蔵AV!まだ見てないとかぬかしやがったぞこいつ」
「仕方ねーだろ、猛の趣味は俺に合わん!なんだあの雑な入りは!俺は最初のインタビューを大事にする派なんだよ」
歯磨きを終わらせた準が反論した。
「俺様的にはまどろっこしいのは不要なんだよ!」
「猛には情緒ってのがわかってないらしいな」
「情緒で高ぶりが抑えられるか!なぁ、涼ならわかるだろ」
「ごめん猛、僕も必要派かな」
「なんでだよクソ!俺だけかよぉ」
大袈裟に泣き崩れるそぶりをする猛を横目に、涼と呼ばれた少年は歯を磨き始めた。
「はぁ、うちの男たちは朝からなんて話をしてるんだ、猛の声はリビングまで聞こえてたゾ...」
声の主は大きなため息つきながらやれやれといった顔をしていた。
「葵か、すまんな猛の馬鹿のせいで」
「いや、元凶は見てない準だろ?」
「男たち全員同罪だゾ...」
「えっ、僕もなの!?」
「そんなことよりももう女子全員揃ってるゾ、先戻ってるからこれ以上待たせないでほしいゾ」
三人は慌てて洗面を終わらすとリビングへ向かう。
リビングの扉を開けるとすでにテーブルに着いている葵。その横に座っている黒髪ロングの少女は三人を見るとにやにやしながら声をかけた。
「朝っぱらから健全な男子高校生してるじゃないかお前たち。ここまで聞こえてたぞ、猛がAVって叫んでるのがなぁ」
「うるせぇなぁ、そもそも準が見てな「はいそこまでー、この話はもう終わり!いいね、猛君。柚ちゃんも油そそがないの」
味噌汁を乗せたお盆を机の上に置きながらが二人の会話に割ってはいる。
「「はいはい」」
「じゃあ、朝ご飯にしよ。準備できてるよ」
ショートカットの少女は場を収め、朝食を配膳し自分も席に着く。
「「「「「「いただきまーす」」」」」」
声をそろえ6人は食事を始めた。
「今日の味噌汁の具はオクラなんだね、僕好きだな、これ」
「昨日おじいちゃんが持ってきてくれたんだ。おいしいならよかった」
「やっぱり飯作るのは愛が一番うまいよなぁ、昨日の猛が作った味噌汁なんてなぁ」
「準、てめえ俺の味噌汁がまずかったってのか?」
「控えめに言って人間のくいもんじゃないと思ったな」
「おい、うまい飯の最中にあんなもん思い出させないでくれ、私はその記憶は封印したいんだ」
「あはは、僕もあれはちょっとね...」
「あれはまずかったゾ...」
「私もちょっと苦手だったかな...」
「おいおい、全員かよ!ひでぇなおい!だから昨日は飯もあんまり食わず慌てて学校行ったんだな畜生!」
「ちなみに猛は味噌汁に何入れてたの?」
「みんなに少しでもパワーをつけてほしくてな、プロテインを味噌の代わりにな」
「味噌汁ですらねぇ!」
「準、さっきから失礼な奴だな、出汁はしっかりとったし味噌味のプロテインだぞ。もう立派な味噌汁だろ」
「味噌味なんてあるんだ、知らなかったゾ」
そんな騒々しい朝の会話の中、リビングの扉が開き一人の老人が入ってきた。
「相変わらず朝から騒がしいのう、お前たちは」
「おーじじいか、朝から来るなんて珍しいな、私たちになんか用か?」
「ちょっと話が合ってのう。本当は昨日オクラ持ってきたときに話をしようと思っとたんじゃがな、愛しかおらんかったからの、こうして朝から足を運んだんじゃ」
「なんだよ、なら晩飯でも一緒に食いながら話せばよかったじゃねぇか」
「いや、昨日の夜は先約があっての。まあそんなことはどうでもええわい。とにかく話を聞け」
「ならさっさと用件言ってくれよー、私たちこれから学校だぞー」
「柚ちゃん、まだ時間は大丈夫だよ。おじいちゃんも朝ごはん食べる?」
「そうじゃの、もらおうかの。愛の作る飯はうまいからのぅ」
「で、話ってなんなの?おじいちゃん」
本題に入るまでが長くなりそうだと感じた涼が老人に声をかける。老人は椅子に腰かけると先ほどまでの柔らかな目つきとは対照的な鋭い目つきで6人に問いかけた。
「お前たち、久々に実践に出たくはないか?」
その一言で柚と猛の目つきが変った。うれしくてたまらないという目つきに。
「いいじゃないか!私はもちろんイエスだ!!」
「俺様ももちろん参加だぜ!」
二人は叫びながら立ち上がる。
「二人とも、気が高ぶるのはいいけど机から足はおろしてね。はい、おじいちゃんお味噌汁とごはんだよ。おかずはお弁当に入れちゃって少ないけどごめんね」
注意された二人は静かに机から足を下ろし椅子に座りなおす。
「ありがとうの、愛。ほかの4人はどうじゃ?」
老人は味噌汁をすすりながら問う。
「じいちゃん、とりあえず内容きかないと答えられないよ」
「そうだね、僕も内容聞いてからかな」
「そうじゃなぁ...」
そう言って老人はしばらく考え、数分の沈黙ののち口を開いた。
「よし、お前たち明日学校休みじゃろ?ちょっと付き合え。そこで詳しい話をしようかの」
その言葉を聞くや、すでに実践を楽しみしている猛と柚からは不満の声が上がる。
「えー結局話さねぇのかよ」
「もったいぶるなよー」
「ええい、うるさいのぅ。決まりじゃ決まり!4人もそれでいいじゃろ?」
老人はほかの4人に問う。4人の答えはイエスだった。
「僕は用事もないし、それでいいよ」
「私も土日は暇だよ」
「俺も暇だからそれで大丈夫だ」
「私もそれでいいゾ」
「なら明日6人で儂の家に来てくれ、頼んだぞ」
それだけ言うと老人は少し残っていた味噌汁を飲み干し、部屋から出ていった。
残された6人は朝食の続きを食べながら、老人言っていた実践について会話を始めた。
「なぁ、実践って何だと思う?」
「じじいのいう実践だろ?武術的な意味以外あるか?」
「そんなことは分かってる。俺が言いたいのはそうじゃないんだ」
そう言う準の言いたいことをわかっていたのは柚だけだった。
「私は準の言いたいことわかるぞ。あの武神 天元宗一郎が武術家の目をするほどの実践とは何かって事だろ?」
「そういう事だよ」
「つまり、今まで以上に熱い戦いが待ってるかもしれないってことだろ?俺様の血がたぎるぜ!」
「まぁ私としても熱い戦いを望んでるからワクワクしてるんだけどな!」
猛と柚が盛り上がる中、柚の言葉を聞き準の言いたいことを理解した残りの3人は同じことを考えていた。
(嫌な予感しかしない...)と。
読んでいただきありがとうございました。
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