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一章十話目、召喚から二十四、二十五日~心のままに進め〜おまけ

以前活動報告に載せた真壁鉄也視点の話です。


タイトル【ボスとグズ鉄】


百合注意。

 こんな状況、いつぶりだろう。


「ふ……うぅ……うたちゃ、うたちゃああぁ……」


 小さい子みたいに、遼が立ち尽くしてボロボロ泣いている。

 それをベッドに座った僕……じゃない、俺が見上げている。

 まるでいつかの時みたいで、ダメだな。ついつい言葉も昔に戻っちまう。

 変わるって決めてそこそこ経つ。気を付けないと。


「なんで……なんでよぅ……」


 流れる涙を拭うこともせず泣く遼に、思わずため息が出そうになる。

 俺より全然強いこいつが泣くのは、見ていて心臓に悪い。

 本当に、伽羅橋……いや、今は歌乃と呼べと大磯、こいつはレナか、慣れないな……


 とにかく歌乃は何をしたんだ。


 遼がこんなに泣くのはあいつ関連しかあり得ない。

 何故かって? そりゃあ……


「……歌ちゃん、歌ちゃん……」


 泣きじゃくってるこいつが、あいつのことを好きだからだ。


「とにかく、これで、拭きなよ」


 洗い立てのタオルっぽい布を渡す。

 遼はそれでごしごしと顔を拭きながら、涙声で文句を垂れる。


「……男のにおいがする……きもちわるい」

「それは、悪かったな」


 お前、急に暗い顔でミニ子先生に連れて来られた癖にその言いぐさはないんじゃないか。

 うまいこと言ってミニ子先生が尾根先生を連れ出してから、やっと聞いた泣き声以外がそれって。


「半分冗談よ。ありがとう」

「半分は、本気、なのか」


 泣き腫らした遼は笑う。痛々しい様子に、ついつい冗談でお茶を濁してしまう。


「それで、どうしたの?」

「あんたって、ほんと間が悪いわよね」


 泣き止んでいた遼の瞳に、じわっと水分が戻る。慌てて俺は謝る。


「ごめん」

「……まあ、良いわ。泣きながらになるかもしれないけど、聞きなさい」

「うん」


 遼から話を聞いて、俺は天井を見上げて目を右手で覆う。


 やってくれたな、伽羅橋。


 からは……歌乃が悪いわけじゃない。でも、文句の一つも言いたくなる。

 歌乃に目をかけてる王女様のとこでお泊まりだって? それを聞いて遼が荒れないわけがない。


 漢字一文字しか違わないんだ。「友愛」が「恋愛」に変わるきっかけなんて何か分からない。

 それをこいつは良く分かってる。

 だから焦るし、不安になる。


 それでなくても普段から聖川がつきまとう事態にピリピリしてるってのに、この異世界アミューズとやらに来てから何が起こった?

 歌乃がミニ子先生と知り合いで妙に仲がいい所を見せつけられた。理々安達と仲間意識が芽生えたことで歌乃が男と関わる時間が増えた。

 それにサフィール王女だけじゃない、歌乃は他の王族とだって気軽に話してる。

 そのトドメが今回の件だ。遼が感情を爆発させて泣くのも分からなくはない。

 遼の歌乃へのこじらせ具合は俺が一番良く知っている。


「ねぇ、遼」

「……何よ」

「いい加減、告白、すれば?」


 歌乃はもちろん敵も多い。未だにクラスの半分はあいつを毛嫌いしてるし、アミューズの奴らからも王族やアシエのおっさん達以外は受けが悪い。

 だけど聖川の謎のカリスマにかからなかった人間は、反対に歌乃の持つ何かに惹かれるんだ。それは言葉だったり行動だったり人によって違うんだろうけど、あいつの持つ何かに救われたり惹きつけられる人間はきっと俺達だけじゃない。

 だから、誰かに奪われる前にさっさと告白しないと。


「そんなこと出来るわけないでしょ」


 俺の提案を遼は鼻で笑う。偉そうな態度だけど、顔は泣きそうだ。

 俺にとっての遼は超人のような強さを持つ、女だけど兄貴分のような存在。だけど、恋愛面に関してだけはめちゃくちゃ弱くて、へたれで弱気で奥手だとも知っている。


「歌ちゃんが、私と同じだと思えない。

 だから、出来ない。こわくて、できない」


 そりゃそうだ。男の俺が女の子に告白するのだって断られたその後を想像して、めちゃくちゃ怖い。

 女同士ならなおさらなのは分かる。


 だけど今の歌乃は男に触れないけど、それがいつ覆るかなんて分からないんだし、遼みたいにあいつを恋愛として好きになる女が現れないとも限らない。

 人生なんてどうなるか分からないって、異世界に来るはめになって現実味が増したんだ。目の前で誰かと付き合う歌乃を見て泣くのは遼だってのに。


「あいつは、『目玉焼きに、何をかけても、自由』だって、言ってた、じゃないか」

「人が食べる分にはね」


 中学時代にしたやり取りを引き合いに出すと、遼は苦く笑う。

 ふと、笑いを引っ込め遼はため息を吐いた。そしてくしゃっと少し癖のある髪を掻く。


「臆病なのは分かってる。

 でも、この位置から抜け出すのは辛いの。

 歌ちゃんに一番近いこの場所を、手放したくないの」


 また、ぽたりぽたりと涙が床へ落ちていく。

 俺はそれをあの時みたいに見ているしかない。


 結局俺は、あの時のまま。

 何も変わってない。


「でも歌ちゃんは私達以外にも頼る人を見つけた。

 だから分かってる。この位置がどんどん狭くなることも。

 それが息苦しくなることも、この位置以上に行くのを抑えられなくなる日が来るかもしれないのも、分かってる。

 でも、今は怖い方が上。

 ……だから、鉄也。辛い時にはこうやって頼らせて。

 腐れ縁のアンタにだけは、何でも話せるから。

 いつも、ごめん。ありがとう」


 涙を流したままはにかむ遼に、俺は肩をすくめてみせる。


「俺は、お前の、子分、だから……お前の、望むように。

 そうだろ、『ボス』」


 笑ってみせると、遼は思い切り顔をしかめて返した。


「昔のあだ名で呼ばないでよ、『グズ鉄』」

「お前も、な」

「鉄也の癖に生意気」


 少し強めに胸を殴られる。

 だけど、痛くない。異世界に来てから現れたステータスのせいだけじゃない。

 昔、超人だと思っていた俺のヒーローは、少し前から俺より力のない女の子になってしまっていた。大きいと思っていた背中は随分小さくなってしまった。


 あの日、俺の前で今日のように泣いたこいつを見て、守りたいと思った。それは今でも変わっていない。

 どうしようもないことに傷つくこいつを見て、ただ幸せになって欲しいと願った。それはきっと俺には出来ないことで。

 俺はそれをするのが伽羅橋であればいいと祈った。二人で幸せになって欲しいと願った。


 遼の強さが、伽羅橋の強さが、俺には眩しいほどのあこがれで。

 こいつらの友人になれたことがとても誇らしくて。

 ふさわしくあれるよう、俺は心に獅子(つよさ)を欲した。

 こいつらを脅かす理不尽から守れるような、盾となる為に。

お読み頂きありがとうございました。

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