妹、その名を…
おかしい。兄はおかしい。
悪性の証、この力で毎晩、そう毎晩その身に余る力を抜いている筈なのに、其処にあるのが当然とでもいうように、力が戻り、生まれている。イオンやダークマターみたいな、そうなるはず、そうならなければならない。というこの世の必然性、概念的な力によって侵される兄は私が、偽りの家族である私が、認めてもらった私が守らなくては、普通の人間ならもうそろそろ耐え切れなくなる。崩れ始めてしまう。勇者が勇者であるために、劇的な死を、若きうちの死を、魔王が魔王であるために、無念の死を、償いの死を。そんなシナリオが始まる。証という呪い。権利ではなく義務になる前に、はがさなければ、悪性が悪性であるために、残酷な死を、一途な死を。本来スキルを奪うということは人の身には余る行為。限られた条件、そしてその代償、あって当然。しかしそれさえ通せばこの力は強い。悪、どんな悪なのかは決められていない。だから、悪魔の一つ、夢魔になってその毒を奪い取るも、堕天使の力を行使してその身に近づくゴミを消し去るも自由だ。条件は簡単。接触していること。悪性の力を以て寝室に忍び込んでも、精神世界へ入り込んでも接触だ。ただ、代償はなんであろうか、見当はつく。おそらく寿命や生に属するエネルギー。つまり使えば使うだけ死が近づく。しかし、あの時に私は死んでいる。死んでいるものに死などない。いや、常に死に続けているため変わらない。なんと使い勝手の良い力か。なんと身勝手な力か。こんなものがあってよかった。私の使命を全うするには必要だ。庇護 紅葉、私が私であるために、悪があなたの妹であるために、偽りを持ち続けるために。
「ああ、お兄ちゃん。私が全部、守ってあげる。」
ああ、笑みがこぼれる。なんて甘美な感覚であろうか、夢魔の体というのはなんでこんなにも依存性が高いのか。今日も長く熱く快楽の口付けが行われている。