学校からの解放
さて、体育の授業をサボれた事がちょっとした幸福感?まぁ、「ラッキー」とでも言いたい。そんな感じだ。
あれから普通に、いつもの視線が若干冷たいような気もしたがいつも通りに授業を受けて、4時限目の社会も終わり、お弁当を食べている最中だ。
常日頃からアローンな僕は当然ただ黙々と食べる。
我が家お手製のキャラ弁当は箸が進む。けれど、元祖ループゲーの血にまみれたあの人を作るのはやめていただきたい。トラウマが蘇る。爪はがすアレは怖いよね。
…はぁ、こんな時友人が同じクラスならな、
独りぼっちは、寂しいもんな…いいよ。一緒にいてやるよ。
みたいな事を言ってくれるだろうか?
いや、言わないだろう。(反語)僕は彼らの友人その5くらいだろうし。ああ、そっか。彼らとも殆ど会えなくなるな。彼らにも言っておくべきか。今まで友人で居てくれたんだ。HBの鉛筆を更に付与魔法で固くして使えないレベルの物をあげよう。なら帰りにコンビニで買ってくか。
そんな感じで予定を決めていると声が掛かる。
「庇護君、ちょっといい?」
ああ、久しぶりに名字を呼ばれたな。
どうも、庇護です。三話目で初めて名前が出ました。ええ、なんでしょうね。三話目って。
そんな事はおいといて、
「いいけど。何か?」
既に弁当は片付け終えてる。
歯はまだ磨いてないけれど、そのぐらいの時間は残るだろう。ということで澤木さんに向き合う。
「これ、親に渡す資料。で、これが庇護君のパートナーパスなんだけど…登録してくれないかな?嫌ならいいけど。確かに似合わないかもしれないけどさ、」
「ちょいストップ」
親に渡す資料は分かるけど、パートナーパス?
パートナーってなんだろう。ああ、そういえばテレビの魔法学園特番で、連携を上達させるために2人1組のペアを作って…みたいなのがあったかな。強制なのか。
「おk、僕が向こうでパートナーになれる人は時期的にも社交性的にも無理だ。むしろこっちから土下座する勢いでお願いしたいところだよ。ありがとう。あと似合わないのは同感だね。君のスキルは僕のなんかよりかなり強いから。」
とても有難いね。澤木さんがいて助かったよ。ああ、妹はいるけど格が違いすぎるし何より先客がもういる。きっと向こうでは他人みたいに過ごすと思うね。
何より彼女の有意義な時間を邪魔してはいけない。
しかし澤木さん、謙遜しすぎじゃないか?意外といじめとかに影響されちゃう物なんだなぁ。自覚はなくても。
「それ程じゃないよ…で、でも!ありがとう!」
ッなんだこの笑顔は!?僕の脳が勝手にエフェクト付けるほど綺麗だと!?惚れてまうやろ!
…
いや、まだ平気みたいだ。
「おおぅ、それぐらいならお易い御用だよ。それよりさ、もうそろそろ行っていいかな?歯を磨きたいんだ。」
ただそのいじめられる程嫉妬される綺麗な笑顔に当てられ続けて平気かどうかと言ったらまた別だ。
「うん、引き止めてごめんなさいね。じゃあ、」
はぁ、思わぬ所に100万ドルの物はあったな。
お金じゃ買えない所がまたいい物なんだなぁ。
まさに守りたい、この笑顔って感じだったしなぁ。
…
はぁ、痛い痛い。最近脳内が痛くなってるよ。
割とガチで頭を覆えるほどの絆創膏が欲しくなってくるな。
「はぁ、アイスバケツチャレンジでもやろっかな。夏だし。丁度いいかもな。」
ーーー
場面は変わって我が家の食卓、ここに居るのは母と父、そして妹と僕だ。
「「「「いただきます。」」」」
皆今宵のおかずであるハンバーグを箸でうまく切ったり、そのまま口に入れたりしているわけだが。
ここで言うのが一番だろう。
「あのさ。僕、魔法学園行きたいんだけど、いい?」
「あら、いいわよ。」
え、軽くね。
「私は連絡もらってたし。松葉が行きたいならいいわよ。応援するわよ。」
まあ連絡入るよね。動じない母さん流石です。
そうそう、下の名前は松の葉で松葉だ。
そんな母さんとは対照的に、
「だっだぶやっべー!!んぐっ!
なっなんだってー!!」
汚い。口にハンバーグ入れたまま喋んないで、飛び散ってるよ。ああ、汚い。ギリギリ何言ったかわかったからわざわざ飲み込んで言い直さなくていいって。
「お父さん初耳だぞ!それにしても流石我が子供達だな!二人共魔法学園に行くってなると嬉しいぞ。ただの普通な学校じゃなくて、」
「はぁ、お父さん。あんまりそういう差別的な事は言わないでよ、一応そこに友人がいるんだから。」
彼らはいい人達なのになんで神様は二つ目の物を与えなかったのだろうか。天は二物を与えず、いや与えろよ。なんなら僕のを渡してもいいぐらいなのに。
「そうそう、なんで急に転校が決まったの?」
と母がいう。
「ああ、えーっと、お偉いさんの子のスペースを開けるためって言うのが一つ目であと強いらしいカウンターっていうスキル覚えたのが二つ目かな。あと、なんかスキルが消えたり増えたりするのを調べろって。」
「ふーん、そう。」
…その二言で済まされちゃうんですね。まあ、大丈夫でしょ。母さんが何も言わない時はだいたい大丈夫だったから。
ーーー
そんなわけで翌朝いつの日からかのいつもと同じ動作をして家を出る。
いつもってどれ位の過去からの事をいつもって言うのか?なんていうまたまたどうでもいい事を考えてコンビニに寄る。
何の為に?鉛筆を買うためだよ。昨日の帰りは忘れてたからね。
そしてアスファルトの通学路を歩きながらポケットの中で付与魔法を使い、かなりの硬さにする。そこら辺の石レベルなら簡単に出来る…と思う。
ありったけの魔力で硬くした。鉛筆削りをこれに使えば刃はどうなるだろうか。
ま、記念品を削るような奴には丁度いい罰だろう。
なんて考える。
通る車や歩いている人以外は殆ど変わらない道だった。
いやぁ、明日から来ないとなると何となく学校に入る感覚も感慨深い…か?
いつも通りな昇降口だな。こんな日にラブレターなんぞ入っていれば面白いけど…当然有りもしないな。
だって誰も知らないし、昨日の書類を貰うところを見てた奴も居なさそうだ。もしあったとしてもこっちから願い下げだ。
ここにいる人で惹かれる人は一部を除いていないから。
教室に到着。澤木さんを目に入れながらいつもの如く支度をし、流れてきた校内放送を聞く。
『2年5組の澤木凛華さん、庇護松葉君、校長室に来てください。繰り返します。…』
教室は若干ざわつく。ああ、こういうノイズは大っ嫌いだ。
「…なんかやらかしたのかな〜。もしかしてやってたり?」
「ギャハハ!ウケる!お似合いじゃん!」
本当にうるさいな。まだ僕はチェリーだよ。
なんて口走りつつ、澤木さんにちょっと遅れながら教室を出る。
澤木さんのストーカーのように気配を殺して少し後ろを歩いてみる。
魔力感知のアラームが鳴る。なんでだよ!
その音にびっくりした彼女は可愛い悲鳴をあげてこっちを見る。
「何をしていたのですか。隠密のスキルが増えてましたけど。」
「すいませんでした。何となく、ストーカーごっこしてみようかな。と。可愛い悲鳴が聞けて大満足です。」
おうふっグーで殴られたっ、恥ずかしがってる彼女も結構、可愛いな。
「はぁ、行きますよ。」
「あ、はい。」
さてさて、今度は気配を消すことなく普通に横を歩いて校長室に到着。
あれ、なぜカウンターが動かなかったんだろ?
まさか消えてたりしてないよね。ははは、
澤木さんがノックとかしてくれたので名前だけ言って校長室内部へ、
「おはよう、じゃあ、用件は分かってると思うけど、これがバッジと書類だね。向こうでも頑張ってください。スキルを磨くのもいいけれど友達もしっかり作ること。応援してますからね。」
少し若い感じの校長がバッジとちょっと分厚目のファイルを渡してくる。
どうやらこのバッジを付けると魔法学園生の仲間入りするらしい。
「「少しの間でしたが、ありがとうございました。」」
校長室を出る。
透明なファイルが透けて見えるのはバッジの付け方だった。
どうやら左肩のところに付けるらしい。
澤木さんはもう付けている。早いな。
同じようにやろうとするけど、できない。むずいぞ。
こんな所で不器用さが目立つとは、
「ほら、ちょっと貸して、…これでよし。」
「かたじけない。」
「いいのよ。パートナーなんだし。」
いや、もう、あれだわ。信仰するしかないな。
「ああ、女神様!」
「あんま悪ふざけがすぎると解約するわよ。」
「ごめん。」
その後普通に授業とかが進んで、昼休み、我が数少ない友人達のところへ。
「やあやあ、僕は転校するから友情の証としてね、この鉛筆をあげよう。」
最初は何言ってんだこいつみたいになってたけどバッジを見せたら理解したみたいで、「向こうでも頑張れよ。」とか言ってくれたよ。
あれ、目から涙が、
「おいおい、泣くなよ。」
「うう、ごめん。ありがとな。ぐすっ」
そんな時、ポケットから眼薬が落ちる。
「っ…やっぱお前はお前だな!別に引っ越すわけじゃないんだろ。また遊ぼうぜ!」
「ははは、おっそうだな。僕たち、ズッ友だよ!」
「丁重にお断りさせていただきます。」
「「ははははは!」」
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あの後普通に日程が進み、帰宅した。
学校からの開放感、ぱない。
やったぜ。
「ただいまー。」
まずは自室へ。ベッドに転がり回る。
ウェーイ!あのf*ckingschoolに行かなくていいとかもうマジでリアルガチで楽しくなってきた。
「今日は外食だから着替えときなさい!」
リビングから声が聞こえる。
「了解!」
そんなこんなで僕の日常は変わっていく。