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天井を透き通る

作者: 稲樹

見知らぬ天井が、僕の視界を埋め尽くす。

暗い暗い、壁があるのか分からなくなるほどまでの暗闇の部屋。

ナース服のようなものを着ている女性が、ドアを開けて入ってきた。どこにでもいそうな美女。

「あなたの体が、今までに体感したことのないようなまでの体温に達するまでは、私がお話し相手になります。」と、マニュアルに載ってそうな微笑みで話しかけてくる。確かに言われてみれば身体が冷えている感じだ。

目を下にやると、肌は真っ青な青ざめた色をしていて、まるで水風呂から出たてのようだ。人間がそんな状態で部屋で隔離されていているにも関わらず。彼女はそれでも微笑みを絶やさかった。


数分経った今、ようやく視界がはっきりして、壁とドアの区別がついてきた。そしてさっきまで壁と思っていた左右の壁は、鏡で出来ていたことに気付いた。

そこには合わせ鏡特有の、どこまでも続く部屋の光景が目に見え、私は酷い吐き気に見舞われた。

私は縛られていた。SF映画にでも出てきそうな腕輪のようなもので、手首に足首、首にまで付けられていて、まるで身動きが取れなかった。

そんな時、ナースがいる事を再度認識すると、安心したのか、ふとナースを居座らせるとは良い考えだなと思った。試しに話しかけてみることにしたが、何かがおかしい。

ここはどこなのか、お前は何なのかと聞くと何も返答がないのに、今日はいい天気だねなんて言ってみると「そうですね。」と返ってきた。どちらかと言うとこの質問の方がおかしな質問だと言うのに。

他にも、唐揚げって美味しいよねとか、目玉焼きには何をかける派?など無難な質問をしてみたが、「私はどちらも食べたことがありませんので」バカにされている気分だった。

呆れた。その一言に尽きる。僕はしばらく目をつぶって深呼吸をした。そして左右の鏡を見て、これは割れるのかと思いつつ見つめていると、大きな見落としをしていた。僕ではない、他人だ。つまりは鏡ではなくガラスで出来ていて向こう側の部屋を覗けるのだ。


ガラスの向こうには、僕と同じように寝たきりで束縛され、チューブで血液を吸われ続けている光景が…血液?と言うことは僕もチューブで血を吸われていると言うことになる。まさか死ぬまで吸い続けるつもりなのか。

ナースに尋ねると、「それは、これからの人類の為に有効活用されるのです」と初めてまともな返事を返してきた。だが全く理解出来ない。これからの人類?有効活用?なんだ、それじゃあまるで血を吸うだけ吸って干からびたら捨てるような言い方だ…。いや、本当にそうなのかもしれない、最近社会では大きな出来事が多い。過激派の宗教国家、国の団体離脱、世界中での大地震、殺人現場の生放送行為、世界中でテロが多発、第三次世界大戦の疑惑。人類をリセットするなら、今がベストなタイミングなのかもしれない。

だがこれからとはどう言う意味だ、僕たち一般人はいらないと言うことか。僕には全く想像がつきそうにない。

ガラスの向こう側の部屋には、また奥にも部屋がある。最初に鏡だと間違えた理由は、そのせいで部屋の中の鏡の中に部屋が、そのまた中にも部屋が。と永遠と続いていたからだ。こんな気持ち悪い壁はもう見たくない。僕にはただ、真っ暗な天井を見つめながら、ナースと会話のような何かを繰り返すことしか出来なかった。


私は初めてナースに頼みごとをした。

殺すなら、楽に殺してくれないか。そう言うと、「それは出来ません。」の一点張りだった。

左右に見える部屋には、この部屋と一緒でナースが居合わせていた。だがただのナースではなかった。

全ての部屋のナースは、それぞれ全く同じ顔、同じ体、同じ微笑みをしていた。僕は背筋が凍った、一刻も早く、この状況からどうにかして逃げ出したかった。だがそんな事は出来るはずもなく、またも天井を見上げることしか出来なく、私は眠った。


目が覚めた、またもや同じく暗い暗い天井だ。だが前と少し違う。腕輪らしきものは外されているが、ここは部屋ではなかった、まるで箱の中に入れられているようだ。段々と息が苦しくなって…意識も遠のいてきた。苦しい。息が出来ない。なぜ急にこんな所に。

僕はここから出ようと足掻いたが、目の前に近づいた天井は、僕に苦しみの土を降らせたのだった。


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