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7. 使い魔と盗賊と保護者の訪問

「あ、おいっ」

 危ない、と忠告しようとしたデュークの努力は、無駄に終わってしまった。

 森に入ったとたん、喜び勇んで駆け出そうとしたハルキを引き止めようと、すかさず瑪瑙が足元にまとわりついたのだ。

「……足元にいるから、走ると危ないぞ、と言いたかったんだが……遅かったか」

「う~~~~……」

 頭からダイナミックに転んだハルキが、鼻を押さえて唸る。その横を、するりと瑪瑙がすり抜ける。

『危ないじゃないか、ひとりでさくさく行こうとしたら』

「どっちがっ。ヒトを転ばせようとする方が危ないでしょっ」

『オレのは、たまたま。偶然転んじゃったの。ハルキが、自分の前方不注意で』

「またそーゆー口答えするっ。どーしてあんたはいっつもそう……」

「はーいはい、そこまでね」

 慣れた様子で、ハルキと瑪瑙の口喧嘩に割り込んだヴァリエルは、手を差し伸べ、ひょいとハルキを立たせた。

 服についている埃などを払ってから、ハルキが素直にぺこりと頭を下げる。

「ごめんなさい」

「いいっていいって。ま、何が起こるか分からないから、一応気を付けておいたほうがいいな」

「はーい」

 元気だけは良く、ハルキは返事する。

 一連の騒動を呆然と見ていたリアーナは、ようやく気を取り直して言った。

「……では、行きましょうか」




 森の道は細い。そのため、自然と縦長に連なって歩くことになった。

 先頭は、瑪瑙とリアーナ。

 魔術に長けたエルフの村であるなら、周辺に罠を仕掛けるとするならやはり、物理的なものより、魔術的な罠だろう、ということでこうなったのである。

 魔術師としてかなりの魔力を有するリアーナは、瑪瑙との会話を成り立たせる事ができた。

 とりとめのない話はいつしか、瑪瑙のハルキに対する愚痴になっていく。

「それは大変ですね」

『そう? 分かってくれる? いやぁ、やっぱりねー』

 うんうん、と瑪瑙がうなずいた。

『ハルキったら、全然落ちつきないからさー。抑えるのも大変なんだよ』

「ではなぜ、あなたは彼女の傍らに常にあるのでしょう?」

 リアーナのストレートな言葉に、瑪瑙がうっ、と言葉に詰まった。

「私が見たところ、今の彼女にあなたを使い魔として扱うほどの知識があるとは思えません。恐らく、彼女の母親が娘のために契約を施したのでしょう。その母親は、今は彼女の側にはいません。契約を破棄しても、構わないはずですが」

『ま、まぁ……そうだけど……』

 とことこと歩きながら、瑪瑙は言葉を選んだ。

『でもさ……なんだかんだいって、結構才能ありそうだし……。すごい人と一緒にいるのも面白いけど、成長してくのを見るのも楽しいでしょ』

「彼女の事が好きなんですね」

 リアーナの言葉に、瑪瑙は照れたようにこっくりとうなずいた。




 なるほどね、とヴァリエルは内心密かに、納得した。

 昨日のデュークの疲れぶりも、確かに致し方ないことがはっきり分かる。

「あんまりよそ見してるとこけるよ」

「はーい……っ、うわわっ」

 言った側からつまずきそうになるハルキを、ヴァリエルがさっと手を出して支えた。ちなみにこれは本日4回目だったりする。

 そのとき、ハルキが何やら怪しく毒々しい、朱色のキノコを持っていることに気付いた。

「……で、その、手に持ってるのは?」

「あっ、これですか? さっきそこの木の根本に生えてたんです」

 ヴァリエルの質問に、嬉しそうにハルキが答える。

「食べれるかなーって思って。欲しいですか?」

「イヤ……というか、危なそうだから捨てておいで」

 ヴァリエルの言葉に、もったいない、と残念そうにしつつ、ハルキはそれを草むらの上に置く。

 気分が高揚しているせいか、もっと先へという思いが、ハルキの中にはある。

 だが、先頭のリアーナは、女性らしいゆったりとしたスピードで歩いていて、物足りず……けれど、追い越すのには、気が引ける。

 そんなわけで、ハルキの好奇心が周囲の向けられるのも仕方がない話である。

「へんなムシですねぇ……なんて種類でしょうかね?」

「ほら、立ち止まってないで。置いてかれるよ」

 突拍子もない行動を取るハルキのフォローは、結構大変である。

 だが、妹がいればこんなものかな、と思うヴァリエルにとって、ハルキの相手はそれなりに楽しい事でもあった。




 最後を歩いているデュークは、ふと眉をひそめた。先ほどから、妙な視線を感じているような気がするのだ。

 デュークは、他人の家に無断侵入したのと同じようなレベルで、密かに警戒していた。

 結界をといた事で、ノックをして玄関から入った事になるだろうが、「入って下さい」との許可を得たわけではない。

 そう思っていたのだ。

 それを裏付けるかのような、視線である。

 しかし、何をするでもなく、ただ視線は向けられるだけであった。

 つかず離れず。

 最初はさほど気にしなかったが、だんだん苛立たしくなってきた。

 前を歩くヴァリエルに、そっと耳打ちする。

「……気付いているか?」

「まあね。2人は気付いていないみたいだけど」

「いぶりだしてみようか?」

「……相手の場所も分からないのに、どうやってやるんだ?」

 もっともな疑問に、デュークはにっ、と笑った。

「こうするんだ」

 次の瞬間、殺気を込めた鋭い視線を、後方にやる。

 デュークの視線の先の枝がざわりと揺れ、ひとりの青年が姿を現した。そのまま、身軽に地上に降り立つ。

「……なんで場所が分かったんだ?」

「視線を逆にたどった」

「さすがってトコだな。気付かれたと知って、姿を見せる気になったみたいだ」

 ふうん、とヴァリエルが呟いた。

 エルフの青年は、手に弓を持ったまま、ぎりっとデュークたちを睨みつける。

「なにごとですか?」

「……誰?」

 リアーナとハルキが振り返る。

「誰とはこちらの言い分だ」

 青年は端から喧嘩腰である。

「人間たちよ、立ち去れ。でなければ怪我をする事になる」

 そういって、青年はきりり、と弓を構えた。

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