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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラゲ上がりのかなこさんは勇者の仲間になったのだ

作者: 関村イムヤ

 かなこの趣味はホラーゲームである。

 とりわけ、派手なアクションのあるサバイバルホラーを好んでいる。


 小学生の頃からそういうゲームにどっぷり漬かっていたからか、かなこはグロテスクなものに極端な耐性がある。いや、もしかしたら元から耐性が備わっていたからこそホラーゲームが好きなのかもしれないが。

 お陰様で、かなこは今や事故車の回収・清掃業者となって、わりと良い給料を貰っている。


 さて。あくる日もかなこはその良い給料を、いつも通りに新作のホラーゲームへと突っ込んだ。

 彼女好みの、おどろおどろしいクリーチャーがうぞうぞと出てくる、設定があまり語られない系のサイコでアクション性の強いサバイバルホラーゲームである。

 プレイヤースキルを駆使してクリーチャー共をブチ殺し、悪辣な罠を華麗に回避し、グロテスクなボスからさくさくっと逃げ、或いはスタイリッシュな戦闘をキメて完全に圧倒する、そんなプレイが大好きなかなこは、ご機嫌でそのゲームをDLした。


 かなこはこの手のゲームに随分慣れ親しんでいたので、制作側のやりそうな事は何となく分かる。

 初回は一度も死なずにゲームクリアしたいなぁ、と、意気込みながらかなこはアパートの床に酒とつまみを用意した。

 しかし、かなこが煙草に火を付け、画面に表示されたNew Gameをポチッと選択した瞬間の事。

 テレビ画面が突然激しく発光したかと思うと──なんとかなこは、そのゲームの主人公・ジェイスになっていたのだった。


 決してゲームの操作スキルが高い訳ではない肉体派労働者かなこさんの、そこから唐突に始まったジェイスとしての悪夢の冒険が如何様なものであったのかは、一言で言い表す事が出来る。


 ずばり、さくさくプレイである。


 ホラーゲームの主人公というある意味最強のフィジカルを得てしまった操作者かなこの前には、動く肉塊もグロテスクな化物も即死トラップも追いかけてくる殺戮者も全て無残に散っていった。ド派手に血液脳髄臓物諸々を撒き散らして。

 ホラーゲームの世界観は常に無情であるが、その中を駆け巡る主人公と、それを操るプレイヤーの精神はさらに無情な存在なものなのだ。


 ヘリコプターも無事墜落したし、謎の手記も集め終えたし、アンデットになった元仲間もキッチリぶっ飛ばしたし、明らかにラスボスらしき化物にもかかと落としでフィニッシュをキメたし、黒幕に逃げられるという後味の悪いシーンも見たし。

 これでゲームはクリアの筈だ、現実に戻れるだろう──そんな考えを巡らせながらかなこ(ジェイス)が謎の廃墟となった精神病院の正面玄関を颯爽と潜り抜けた途端、青空の元ジェイスは眩い光に包まれた。

 それはかなこがジェイスとなってしまった時に見た、テレビ画面から発せられた光とよく似たものだった。

 なので、かなこはゲームクリアの快哉を叫んだ。やったぜ、ノーコンクリアだ!


 ──ところが、彼女が一瞬の後に見た物は、どこともしれぬ夜の森林と、目の前で燃え燻ぶる不気味な村という光景だった。


「もしかして……続編か!」


 ……かなこはあまり異常な事態を気にしないし、あれこれ考えない性格である。

 すかさず彼女は物陰にしゃがみ、すっかり愛銃となったグロック17を構えて周囲に動くもの(クリーチャー)が見当たらない事を確認すると、火の粉を被らないようにしながら町の中を探索し始めた。




 村の中には無残な死体が無数に転がっていた。かなこはそのうち、五体満足なものの頭部をその辺で拾ったバールのようなもので叩き潰して回った。

 死んだフリであとから後ろから襲われるのは御免だし、更なる脅威の化物として復活されるのはもっと御免だったからだ。

 ついでに死体を検分たのだが、どうやらこの村、獣のようなものに襲われたらしかった。村人らしき死体には、爪で引き裂かれたり、鋭い牙で噛み千切られたような傷痕が残されていたのだ。

 村は炎上しているし、襲った獣達は多分もうここには居ないだろう、とかなこは判断する。

 大体、獣型のクリーチャーの出現は中盤から後半だと相場が決まっているのだ。拳銃と有刺鉄線、バールのようなものだけで相手をするのは分が悪過ぎる。ショットガンとかマグナムとか無いとね、とかなこは小さく呟いた。


「まだ始まったばかりだし、出てきても人型のアンデットだけだろうな……」


 一応生存者を探してみたが、どうやら居ないらしかった。

 どうにもこの村ではまだ戦闘は無いらしい。チュートリアルか、とかなこは内心で納得した。


 その時である。かなこが今居る民家の入り口で、甲高い音がカラカラと鳴った。同時に驚いたような悲鳴が幾つか上がる。かなこが即席で仕掛けた鳴子を誰かが鳴らしたのだ。

 かなこは素早く退路を確認すると、銃を構え、慎重に音の出処へと近付いた。


「誰だ!」

「え……誰かいるのか!?」


 お互いに誰何する声が交差する。

 人だな、とかなこは確信し、銃口を下げて更にゆっくりとそちらに近付く。


「この村の人間か?」

「いや、違う。火事の村を見つけたから、生存者を探していただけだ」

「誰なの、あなた」


 逆光でよく見えないが、向こうの人数は三人程のようだ。少なくとも女と男が一人ずついる。

 かなこはここで、ピンときた。

 ……向こうにいる奴等のうちの誰かが、続編の主人公だ。いや、もしかしてチャプター毎に操作キャラが切り替わる形式になったのかもしれない。

 どちらにせよ、考えられる事は一つ。


「ジェイスはゲストで、隠しかDLキャラだな」


 え?と入り口の向こうから戸惑ったような声が聞こえる。

 かなこは全く気にしないまま、堂々と名乗りを上げた。


「俺はジェイスだ。先に聞いておきたいんだが、お前等はここが何処かわかるか?」


 ……尋ねた先から返ってきたのは何とも言えない沈黙であった。

 あれ、台詞の選択ミスったかな、とかなこは内心呟いた。


「ねぇ勇者、なんか怪しくない?」

「……大丈夫だろう」


 あれ、怪しまれてるヤバいかな、とかなこは内心焦り始めた。


「ジェイスさん、俺は光の勇者****です」

「なんだって?」

「光の勇者****です、ジェイスさん」


 かなこは耳の穴に小指の先を突っ込んでグリグリとほじった。

 なんだか耳の調子がおかしい。発音不可能な謎の音が聞こえたような気がする。もょもと、みたいな感じの。


「……なんだが良く分からんが、とりあえずこの村には他に生存者はいなさそうだぞ」

「そうですか……。くそっ魔王軍の奴ら!酷い真似を!」

「ええ……全員の頭部を潰して回るなんて!うっ、今思い出しても気持ち悪くなるわ……」


 えっ、とかなこは思わず声を上げそうになった。

 それ、やったの私です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 現地人の方々、よかったな。 ホラーはホラーでも某血を恐れたまえのコズミックホラーだったら、ぎゅんぎゅん啓蒙が上がって「Oh,Majestic(すごーい)!きみは勇者のフレンズなんだね!」なん…
[一言] 面白かった。 ところでかなこさんは男なのか?女なのか?
[一言] 続くとしたら、この先にどうなるのか、まっまく予想はつかないけど、スプラッターであることは確かですね!いいテンポで、面白かったです!
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