相棒
前半が少し違和感を感じるかもしれません。
視界が白黒だ。ぼやけても見える。それだけ俺の体は悲鳴をあげていた。
想像以上に敵はいた。ジェラがいた拠点よりも多かった。犬型の魔獣がおらず、全てただのオークだったのが唯一の救いだと思う。もし、臭いで俺の存在がばれていたらもう俺はこの世にいない。
ていうか、こいつらどんだけバカなんだよ。隣で潰れている仲間がいるのに、何も行動が変わる様子はない。
でも、俺ももう限界が近づいている。というよりは限界を越えていた。もう、敵の総数や倒した総数は確認もしてないし、してる余裕もない。
体重が三倍くらいに増えてるんじゃないかと感じる。妙に寒かったり暑かったりして、体調は最悪だ。
このまま続けて大丈夫なのか、不安になってきた。
また一匹潰した。
潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。潰す。……
もう俺が上空にいるかすら分からなくなった。多分、地面じゃないかな?足場もあるみたいだし。岩ももう持てない。手が痙攣している。全身が震えて仰向けに転がる。頼む。もう全てのオークは倒していてくれ。
歩くことすら出来なさそうだ。喋ることも出来ない。前の世界で、一度だけ経験したことのある金縛りにあってるようだ。そんなの比にならないが。
空を見ていたはずなのに、視界に影が映る。
あ……まだ残ってたのか。でももう、俺……
「おい!レオン!しっかりしろ!レオン!」
ん?喋った?人?
「待ってろ!今俺が片付けるからな。」
この声……ジョートか?何でここにいるんだ?あんなにボロボロだったじゃないか。
「お前一人が頑張ってるんだ。任せておけるかよ!俺にも手伝わせろよ。」
「でも……お前、怪我が……。」
白いはずの包帯は赤色に滲んでいた。
「レオンだって似たようなものじゃねーかよ。」
ジョートは……俺のために来てくれたのか……。こんな体を乗っ取った偽物のために……。
「お前がやってくれたお陰であと少しだ。残りは俺がする。」
視界が暗くなる。安心したからだろう。力が抜けた。頑張ってよかった。
目覚める。全身が筋肉痛みたいに痛い。日の高さを見てあまり時間が経ってないことを確認する。
体を何とか持ち上げる。意識がハッキリしてきたな。少し寝ただけで治ったが、またスキルを使ったら今度こそヤバイ。そんな感じがする。それだけ大変だったのだ。
「そうだ!ジョート!」
体に鞭を打ち、歩きだす。確かに俺の周りには多くのオークの死体が転がっていた。殆ど体の部位が潰れているので、俺が倒したやつらだろう。
「なんとか乗りきれたみたいだな。」
もう何処からも音は聞こえてこない。戦闘は何処でも行われていないようだ。
「一人で戻ったら、道に迷うだろうな。ジョートと一緒に戻ろう。」
そんな風に一人で呟きながら角を曲がったらそこには四体のオークと横たわっているジョートの姿があった。
「な!?」
ジョートの体の付近には血の池が出来ている。早く適切な処理をしないと手遅れになる。
そのためにはコイツらを!俺の"相棒"にこんな真似をしたんだ!出し惜しみはしない!
「"抜刀術"!」
2体倒すが、俺も倒れる。今日は倒れてばっかだ。
手放しそうになる意識を無理矢理押さえつけ、もう一度抜刀術を使おうとする。
「発動しない!?」
オークは残り2体いる。何故スキルが使えないのか原因は分からないがコイツらへの勝ち目は0だ。
オークがこちらににじりよりながら手のこん棒を振り上げる。
「ここで死んだら、誰が相棒を助けるんだよ!」
俺も一矢報いようと、オークに走りよる。
「よく言ったぜ……。レオン……。」
いつのまにか立ち上がっていたジョートが一匹を倒す。
驚いて振り向いたもう一匹を狙う。上から振りかぶって切りつけるが、肉に阻まれる。
「チッ!」
無理矢理オークの体から刀を引き抜く。あんまり傷はつかなかったが、刀から出た炎によってだいぶんダメージは与えられた。
「止めだ!」
首筋を狙い振り抜いた。頭が飛んでいく。
なんとか勝てた。本当に俺がスキル頼りだということがわかる。
「ジョート!待ってろ。今助けを呼んでくる!だから、頑張れ!」
もう身体中の全ての血液がでているんじゃないか?ってくらいには血が流れ出ていた。スピード勝負だ。絶対に間に合わせる。
「ま、待ってくれ。」
「話は後だ!今は一刻を争うんだよ!」
「もう……無理だ。」
カッと頭に血がのぼる。
「諦めてんじゃねーよ!まだ助かる!お前は気合いで生きるだけでいいんだよ!」
「俺の体のことは俺が一番知ってんだよ!」
……何でこんなにボロボロなのにそんなに大きな声が出せるんだよ……。
何でお前は記憶を失った俺のためにこんなにしてくれたんだよ……。
何で……
何で……
「何で俺はお前を助けられないんだよ……」
ジョートはこんなに俺を助けてくれたのに!俺はジョートに何もしてやれなかった!神からもらった力だってなんのやくにもたたない!俺は自分の力に自惚れていただけだったんだ。
「泣いてんじゃねーよ。俺はお前に助けてもらったさ。」
「俺は……何も……。」
「お前は……俺の一番守りたかったものを守ってくれた……。だからもういいさ。」
「ジョート……。」
目から涙がこぼれる。
「俺はな……。お前が記憶を失ったって聞いてショックだったよ。話してみるとやっぱり何処かシックリこないしな……。信じられないくらい急に強くなったりもしてたしな。もうレオンとは会えないかもしれない……そんな風にも思ったさ。でもな、お前はこんなにも皆を救おうとしてくれた。その姿は俺の知ってるレオンだったぜ。」
「俺は……もっとお前と仲良くなっていきたかった……。皆で笑いたかった……。」
「お前は……レオンだよ。やっぱりレオンだ。」
「……」
「もう……駄目だ。寒いぜ。本当に、死ぬときって少しずつ体が冷たくなっていくんだな。でも、最高に幸せだぜ……。」
「死ぬな!死なないでくれ!俺は……」
「じゃあな……"相棒"!」
そう言い残して彼は……。
ジョートは生を手放した。