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3.せんぱい5

 楽しい話をしていると、時間はあっという間に過ぎてゆく。


 1年は、ある程度時間を見て、2年生達の席を回り、麦茶やご飯をおかわりするか、聞きにいくよう言われている。


 1年が手分けして、のそのそと動き出すと、真弓先輩も、手際よく手伝ってくれた。ありがとうございます。何でもきびきび出来て、すごい!あたしもこうなりたい。


 男子は、あまり慣れてないんだろうな、ぎこちない。


 でも、こういう経験を一緒にできて、楽しいな。


 みんなの普段とは違った一面を見られ、とても嬉しかった。いつもと違った雰囲気の中で、一体感が湧いてくる気がした。みんなで囲む夕食は、おいしかった。


 この合宿が終わる頃には、今までと一味違ったあたし達になっていることだろう。


 せんぱいとは、今日、ずっと一緒だったし、これから1週間一緒にいられるし、1年のみんなの部活の時以外の知らなかった面もいろいろ発見出来きて新鮮な夜だった。





 一段落して。


 光輝達1年数人と、近くのコンビニに買い出しに行ってから、真弓先輩とお風呂に行った。


 あたし達はいいけど、男子は大変。光輝達は、まだお風呂に入れないみたい。監督、2年生、それから1年の順番なので。


 夕食や、ミーティングが遅くなると、1年は、睡眠時間が削られる。それが新入生のサダメらしい。


 歴代の先輩方も通って来た道だろうけど。





 お風呂から出たあたしは、玄関の外に、自販機があったのを思い出して、足を止めた。喉が渇いたな。


「先輩、あたし、ジュースを買ってから部屋に戻りますね」


 真弓先輩は、お風呂で十分温まってご満悦の顔で、

「先に部屋へ、行ってるね」

と、とんとん階段を上って行った。


 真弓先輩を見送って、あたしは、玄関に備え付けてあった旅館のつっかけサンダルをはいて、外へ出た。


 一歩外へ出ると、すうっと、風が抜けていった。


 大阪の、熱を持った湿気た夜の空気とは大違い。


 お風呂上がりじゃなかったら、ちょっと寒いくらいだった。


 虫が鳴いてる。高い音、低い音、リズムが溢れ、音の大合唱。


 知らない土地の夜の空間は、とても不思議なバランスで成り立っていた。ずいぶん遠くまで来ちゃったんだよねえ。


 あたしは自販機に、近付こうと数歩行って足を止めた。


 明るい自販機の光に、小さな虫が集まっている。ちょっとこわいかも……。でもその時に。



「……風呂?」


 玄関の方から聞こえたのは。

 大好きな大好きな、声で。

 

 あたしは、考えるよりもまず、勢いよく振り返っていた。


 白いジャージのズボンのポケットに、両手を入れて、フード付きのグレーのトップス姿のせんぱいが、少し身体を屈めるようにして、中からあたしの方を覗き込んでいた。


 とたんに、脈打つ鼓動を感じた。


「はい」


 あたしの返事の声は、少し上ずってしまって。


 不意打ちでの遭遇に、頭がぐるぐるしそうになる。



 せんぱいは、ちらっと辺りを見回して。

 それから、外へと下りて来て。あたしの方へ、ゆっくり近付いて来た。



 夜で。


 合宿先で。


 お風呂上がりで。


 普段と違うシチュエーションに、内心あたしは焦った……。

 見知らぬ土地の夏の暗闇。夜の臭いがそうさせるのか、お互い、お風呂上がりだからなのか。

 嬉しいような、怖いような、そして、二人きりの所を誰かに見られたらどうしようっていう、いつもの思考もやってきて。


 せんぱいは、まだ少し髪が濡れていて、色っぽく、そんなことにもときめいてしまう。


 せんぱいの瞳の、奥の奥には、悪いたくらみが、いつも隠れていそうに思える。一見、爽やかに見えるけど、絶対それだけじゃ、なく。


 そうあたしは、その危険すぎる瞳に吸い寄せられ……捕えられたのだ。



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