11.永遠普遍3
隣のひとは、規則正しい呼吸を繰り返している。
無防備に。
あたしはこの合宿で、せんぱいのいろんな姿を見たなあ。今は、無事に終わってほっとしてるのかな。
本当に飽きないひとだ。
自分の中で、前より、せんぱいの存在感が大きくなったことを知る。
あ。
いつの間にか。吹田まで来た。
エキスポランドだ!
太陽の塔だ!
見なれた懐かしい風景に心が躍る。知らず知らずのうちに、気持ちが張り詰めていたんだな。緊張が、解けた。
そしてうれしさも込み上げてくる。
このモニュメントを見たのは、ものすごおくはるか昔のことだったような気がする。たった1週間前のこととは思えないよ。ただいま、大阪!
見慣れた風景。やっぱり、地元が一番ほっとする。
あたしは隣に目をやった。
相変わらずの無邪気な寝顔と、規則正しい呼吸の繰り返しに。
早く着いてほしいような、着いてほしくないような……。
あたし達ふたりの距離も、確実に近くなった。
そう思う。
バスは、途中でみんなを降ろしながら学校に向かった。
あたしは、救急箱の片付けなどがあり、最後まで残った。
……本当に、長い道のりだった。あたしは、部室で一人、荷物を整理していた。体はすごく疲れているのに、気持ちは充実している。元気だった。
せみの声が、じりじりと暑さを強調している。ブラスバンド部が楽器の個人練習をしている音と相まって、活気に満ちていた。
ふいに、部室のドアが開く。
「あず!」
驚き顔のせんぱいが入ってきた。
「まだ、残ってたのか?」
せんぱいは、室内に入ってきてドアを後ろ手に閉めた。
「片付けだけ、やっておこうと思って」
「疲れてるだろ、今日は無理するなよ」
いろんな楽器が近く遠く鳴り響く、中。
扇風機が首を振るたび、蒸し暑い部室内に涼しい風を運んでくれている。
「そういえば、村中、どうだった? 」
「村中君?」
あ、そうだ。初日の夜だったかな。気をつけろって言われたっけ。自己完結、メガネきらーん。の村中君。
「どうって言われても……。そうだ、光輝と遠矢が試合に出てるのを見て、すごい燃えてたよ」
「そうだな、負けたくないよなあの二人には。他には」
「他? 」
他と言われても、めがねが光ってたくらいしか……。
「なんだ、そりゃ。あいつ、そうか、それも気の毒過ぎるな」
ひとり言のようにせんぱいは言った。
部室で二人きりのあたしとせんぱいは。そうするのが当然のように、見つめあった。
愛おしそうに、あたしを見つめるせんぱい。やさしい、やさしい瞳。あたしに近付いてくる。あ、まずい。
「ストップ、ストップ! 真弓先輩が来るから」
「真弓?」
せんぱいが立ち止まった。憮然とした表情になった。
「うん、そう」
「ふーん……」
おもむろに携帯を取り出して、何やらかちゃかちゃ打ち出した。
「よし」
誰かにメールを送ったみたい。
「真弓には、あずといるから邪魔するなって送った」
「えええ! 」
あたしは、すっとんきょうな声を上げた。
「気付かない? とっくにばれてるって」
なんで、だって、どうして! 真弓先輩に知られてたなんて! え? いつから? それってまずいよね。
あたしが、口をぱくぱくさせていると。
せんぱいは、愉快そうにくすくす笑った。
「花火の時、俺がじゃんけんに負けたろ、気をきかせてあずも一緒にって言ってくれたんだよ。
本当、鈍いな」
「だって、でも! ああっ、鈍いって言った! 失礼だよ」
あたしは、むっとしてるのに、せんぱいは、ますますおかしそうに笑っている。真剣に、話してるのに。
「もう、もう! 」
「ごめん、ごめん」
「また、2回ごめん、って言った」
「ごめん、ごめ……っあ」
せんぱいは、口を覆った。そして弾けるようにまた笑いだした。
あたしはというと、口をへの字に曲げて、思いっきりつん、と横を向いた。何よ、何よ。
「あ、すっごい変な顔になってる」
「昔から、こんな顔です! 」
あたしは、むうっとしてるのに。
「どんな顔してても、あずは、本当に、かわいいなあ」
妙に感心したように、そして、やたらとしっとりした声で、せんぱいは言った。
読んでくださってありがとうございます。
いよいよ明日で最後です(*^_^*)