10.キックオフとその夜7
「よし、それじゃ、1番目の奴らから、スタート! 」
入り口にいつの間に置いてあったのか、CDラジカセがあり、そこから大音量のボリュームで聞き覚えのある音楽が……M-1の入場の音楽だ。
そして、1年の2人が小走りに入ってきた。
「こんばんはー」
「こんばんはー」
2人が上手の方に立つと、歓声や拍手が巻き起こった。
「コント、野球!」
「……」
すぐに。
2人が入場した時に大きく沸いていた食堂は、一転、氷のように冷たい空気に変わってしまった。
イタイよ。トップバッター2人。2人のコントはイタかった。
それに、M-1て、漫才だったよね。
2人は、あんまりにもウケなかったので、最後はしどろもどろになり退場した。
「お、おまえら、せっかく温まってた空気を完全に冷ませてくれたな。
なんて、クーラー要らずなんだ!
がんばったけどな、よし、次は期待してるぞ」
さあ、次は誰だろう。弦巻先輩は、メモを見た。
「続きまして、エグザイルの皆さん、行ってみよ! 」
先輩の言葉とともに、ラジカセからは、『チューチュートレイン』がこれも大音量で、流れた。
そして、入り口に村中くんを先頭にあと2人が入ってきて、そこで、あのグルグルダンスを始めた。
みんな手拍子したり、声援を送ったり、歌ったり、今度は大盛り上がりだ。
村中くんがエグザイルを踊れるなんて、意外!3人は、踊りながら、上手の方へ軽快に移動していった。3人とも息が合っていて、しかも、うまい。ダンスをやってたことがあるのかな。
みんなも、ノリノリで歌っている。弦巻先輩なんて、立ち上がって一緒になって真似して踊りだした。それがすごく合ってなくて笑えた。風邪は、もう完全にいいみたい。
最後は、他の先輩も乱入して、ぐちゃぐちゃになって終わってしまったけど、いい感じに盛り上がってきた。
「おー、体中が筋トレでギシギシいってるから、きついな、踊るのは。
さあさあさあ! 盛り上がってきた所で、次に行ってみよ~か! 」
今度は2年生の先輩達の、ものまねだった。
2年の数学の先生のものまねに、あたしたち1年はポカーンだったけど、先輩方には大ウケだった。さらに、監督のものまねや、引退した3年の先輩のものまねも、とても似ていて、あたしも大笑いだった。
1週間、体はきつかったし、落ち込みそうにもなったけど、耐えたからこそみんなでこんなに楽しい時間を過ごせるんだと思う。同じ屋根の下で、励まし合って苦しいのを乗り越えたから、今日、より一層、 お腹の底から笑い合えるんだ。
「さあ、次はまた1年だ」
弦巻先輩は、メモを見て、渋い顔をした。
「何、またコントか。
おいおい、大丈夫か、せっかく盛り上がってきたんだから、頼むぜえ」
わあ、こんなこと言われちゃったら、プレッシャーだよね。
それにしても、出ないで済んで本当に良かった!!こんな大勢の前で何かするのなんて、絶対無理だもんっっっ。
「どーもー」
言って、入り口から拍手しながら小走りで入ってきた男子二人組の。
一人は、セーラー服に金の長い髪。
もう一人は、白のフリフリのキャミソールにピンクのスカート。赤いボブの髪。髪に花を刺している。
二人ともベッタベタにお化粧品を塗りたくって、付けまつげをしてて、気持ち悪~い。誰だかわかんない。