10.キックオフとその夜4
「ああ、みんな、風邪引いてたり、負傷してたりだからね。
あいつ、この合宿すごくがんばってるから、監督が、出してやりたいって思ったんだろうよ。
遠矢がどこまで出来るか見たいし、がんばってほしい」
「ありがとうございます! 」
「お、お礼? ……俺が風邪でダウンして良かったね……ああ自分で言ってて悲し過ぎる。しくしく」
弦巻先輩は、泣き真似をした。
「え、やだ、違いますよ! 先輩の体調はほんとに心配です。
あと、先輩が元気だったら、とっくに点が入っててもおかしくないから、残念ですよ! 」
「あれ、マジ? ありがとう。なんか元気出て来たなああっと。ここで1時間位寝てたら治りそう」
「ゲンキンな風邪よねー」
「……」
「ありがとうございますっていうのは、遠矢ががんばってることを、2年の先輩達や監督が見ていてくれたんだなあって思ったから言ったんですよ」
「ああ、あいつ、がんばってるよ。 監督もOBも、ちゃんと見てて、まだまだだけど、一生懸命な所を、高く評価してくれてる。
ただ、あいつ、スタミナが無いくせに、飛ばし過ぎるからな。いいところでもあるんだけど」
そうかも……。
でも、遠矢らしいっていったら遠矢らしい。
「本当は、フォワードに立たせて、俺からボールを回したいけどな」
攻撃的な遠矢には、フォワードが合っているかもしれない。
でも、そこは、せんぱいのポジション。
そして、光輝もフォワード志望だ。さらに、他の2年生もいる。レギュラー争いは激しくなりそうだ。
競い合って高め合って、チームを強くしていく。みんなお互いがライバルだ。
「二度と夜中まで遊ぶんじゃないわよ。もうああいうの、禁止だからね」
「へい」
さすがにしゅんとなって、先輩は頷いた。
「あずちゃん、そろそろ後半始まるから、こんな奴ほっといて、行こ」
「あたし、先輩に付いてますよ。真弓先輩は、戻って下さい」
しかし、腕を引いて立ち上がらされてしまった。
「平気だって、行こ」
あたしは、引っ張られながら、戻るハメになってしまった。でも、弦巻先輩を一人きりで置き去りにして、大丈夫かなあ。
「ああ、俺ってば、孤独を愛する男……」
光輝と遠矢は、二人で話していた。
「光輝、遠矢! 」
あたしは二人に駆け寄って行った。光輝は、まだ赤い顔をしていたけれど、元気は回復したようだった。
「梓! 後半は、遠矢も出るぞ」
「うん! 」
遠矢を見ると、無言で闘志を漲らせていた。遠矢もユニフォーム似合ってる!いつもより体格が良く見えた。屈伸したり、ジャンプしたりして、精神を統一させている。
「さっき、監督から呼ばれた時、へらへらしてたんだぜ。
ああいうの、天にも昇るような顔っていうんだろうな、見せたかったよ」
「二人とも、すごいよっ」
「ああ、俺も遠矢も、爪痕残すぜ! 」
「爪痕? 俺は、ゴールを残す! 」
右の拳を強く握り締めて、遠矢はそう言った。
「なんだよ、俺の方が遠矢より先にゴールするからな! 」
「その前に俺が決める! 」
再び、遠矢は、拳を握りしめ、力強くそう言った。
二人とも、気合い入ってるなあ。その調子だよ。
「よし、集まれ! 」
「はい! 」
せんぱいの凛とした呼び声に、二人が声を合わせて応え、駆け出した。みんなで円陣を組んだ。
監督から、一人一人に支持が飛ぶ。そして、せんぱいも。
「いいか、的場! 気温も上がってるから、後半はますます苦しくなってくると思うけど、耐えろよ。
動け」
「はい! 」
「そして、遠矢! 攻めろ。前に出ろ、萎縮するなよ。
二人とも、いつものお前達らしくやれ! 」
「はい! 」