10.キックオフとその夜2
村中くんは、頭を抱え込んでしまった。
「それ、どういう反応?」
「何でもないよ。でもさ、ライバルが強力でも、負けないと思う?」
メガネの奥の村中くんの瞳が、探るように光った。きらーん。
「そうだよ、主将がいつも言ってるよ。腐っちゃダメだって」
「……主将がねえ」
村中くんは、きゅっと口を真横に引き結んだ。
試合は、相手ゴール前で、激しい攻防となっていた。光輝が、再び攻めのぼっている。
「光輝!」
攻める気持ちが光輝の全身から溢れていた。勇気あるプレーだった。相手からのチェックが厳しく、光輝は、弦巻先輩にボールをパスした。
いつの間にか、試合は進み、もうすぐ前半が終わろうとしていた。その間もチャンスがあって、せんぱいはシュートを3本打ったけれど、残念ながらまだゴールポストを揺らすことはなかった。
弦巻先輩は、なぜか今日は精彩を欠いていた。いつもなら、もっとフットワークが軽々としているのに、今日は、足取りが重い。
やはり、簡単にボールを奪われてしまった。大丈夫かな?
真弓先輩が近くに来た。
「あずちゃん、あのさ、弦巻どこか悪いのかもしれないからー、ハーフタイムになったら、声かけてみるよ」
「はい」
そうかもしれない。
いつも明るくて、チームのムードメーカー役の弦巻先輩らしくないプレーだった。
本当なら、弦巻先輩からのパスがもっとせんぱいに回っていてもおかしくないのに。
「あああ!!」
なんと、前半終了直前、相手チーム9番に1点入れられてしまった。
そして、そのまま0-1でホイッスルとなった。
青葉学園は、連携が上手だった。
ボールが渡ると、青葉学園は次々にパスで繋ぎ、あっさりとはボールを奪わせてくれない。一度ボールがいくと、手強いチームだった。
そして、鉄壁のガード。
ディフェンダー3人の内、2人は非常に背が高く、光輝も何度も阻まれていた。強敵。
でも、うちもけして負けてはいない。せんぱいはどんどん攻めているもの。もし前半、いつものように弦巻先輩からのパスが通っていたら、うちのペースになって優勢だったはずだもん。
あたしは、ポカリとタオルを一人に一人に配った。こっそり弦巻先輩の様子を見た。
何か真弓先輩と話していたけど、冷却スプレーを持って来たり、他の1年と、ポカリのおかわりを注いだりと慌ただしく、どうなったのかは分からなかった。
試合開始の頃は、そうでもなかったけれど、もうすぐ午前10時という今は、暑さで汗が次々噴き出してくる。
試合に出ているメンバーは、ぼたぼたと汗を流して、荒い呼吸を繰り返していた。
みんな、冷えたおしぼりを、首や頭に巻いたり、顔を拭いたりしている。日ごろから外で練習しているから、体はものすごく頑丈なので、今まで熱中症で倒れた部員はいないけど、それでもいつも心配だった。
遠矢が脱水症状になったし。
疲れも溜まってきているから。
大丈夫だといいけれど。
弦巻先輩も、もしかして。
幸い、朝は晴れていたけれど、試合が始まって30分もせずに曇が太陽を覆い隠してくれたお陰で、刺すような日差しからは免れていた。
それでも油断は禁物だけれど。
「あずちゃ~ん」
「はい!」
真弓先輩だった。