10.キックオフとその夜1
6日目。
練習試合が、キックオフとなった。
今日も、T運動公園。
試合にはスタメンで、光輝がせんぱいと共に、フォワードとして出場することとなった。
うちのチームは、4-4-2のシステムで、ミッドフィールダーとして、副将の弦巻先輩も出場している。
うちの学校の試合用ユニフォームは、青と黒の縦のストライプで、袖は黒。袖口には細くぐるっと一周青のラインが入っている。パンツは白で、両サイドに青のラインが縦に3本入っている。
そのユニフォームを着て、ピッチに立った光輝は、見違えるようだ。いつもより逞しく、眩しく、頼もしく見える。
厳しい表情を浮かべて、今はボールを追っ駆けていた。たった11人。その中に、先発で選ばれるなんて、本当にすごいよ。
そして。やっぱり、うん。せんぱいのユニフォーム姿、かっこいいなあ。こういう真剣な姿を、間近で見れて、とても幸せだけど、それ以上に、今日はハラハラしてしまう。どうか、勝てますように!!
相手チームの、青葉学園高等部は、黄色のユニフォームで、襟元に入った黒のラインが、脇へ向けて風が流れるように二本描かれているデザインだった。袖は黒く淵どりされている。パンツは黒。
弦巻先輩が、相手のこぼれ球を拾い、せんぱいに縦パスを出した。せんぱいは、攻めようとしたけれど、すぐに相手のチェックが入る。
せんぱいは、フェイントを使って左右に相手を振り、余裕で交わした。すごーい!上手ぅ!素敵!かっこいい!!
そしてせんぱいは、ボールを前に運ぼうとするけれど、また邪魔が入った。
もう、せんぱいの行く手を阻まないで。いっぱい活躍して欲しいよ。
そこでせんぱいは、素早く前線へボールを送った。そこにいるのは光輝で……。
「わっかりやすい」
しらっとした声が、横から声が飛んで来た。
あたしは、試合に集中してて気が付かなかったけど、村中くんが側で応援していたみたいだ。
「ん? 何が」
「今、一瞬、すっげえ嬉しそうな顔してたでしょ、それから、口を尖らせて」
「あっ、光輝! 」
チャンスだった。
上手くスペースを利用して、光輝は、ドリブルで走り出ようとした。がんばって、光輝!ゴール!ゴールぅ!!
これは、入る! そう思ったら。
無情にも、ホイッスルが鳴る。
オフサイドだった。
あ~あ、ザンネン。
「で、何だっけ? 」
あたしは、村中くんを見た。村中くんも、あたしを見た。
昨日、何を言いたかったのかな。
その時、こちらのサイドにボールが来たので、あたしは、はっとして、ボールの行方を目で追った。
そこに、せんぱいが走り込み、相手チームに渡る前にボールをカットする。せんぱいのパープルのスパイク、ナイキのヴェイパースーパーフライ3FGがピッチの土を撒き上げた。
真剣な眼差しと、一連の流れるような華麗なプレーが、素敵過ぎて、ドキドキした。そして、戦線がセンターサークルの近くへ移り、せんぱいも走って行った。
「で、何だっけ? 」
あたしは、改めて村中くんを見た。
じっとあたしを見る目が、自嘲気味に揺れている。そして、しばらくあたしを見て、何か、言おうとして、でも、結局「別に」と言って、面白くなさそうに目を反らした。
なんだろう村中くん? やっぱり、光輝も出てるもん、試合出たかったよね。
「大丈夫だよ、村中くん!
主将がね、遠矢に、人より努力することが大切だって言ってたよ。がんばろう。村中くん、負けちゃダメ」
「主将かあああ」