9.ミラクル!!3
あたし達は、男子の先輩達の懐中電灯の明かりを頼りに、少し離れた所にある河原へ向かった。
おだやかな川面は、月明かりで銀色に反射し、輝いていた。
人家はなく、こんな場所、よく見つけたなと思う。
メンバーは、あたし達女子2人と、せんぱいと同じ部屋の弦巻先輩達5人。
「ぐっすり寝てたのに起こしちゃったね。ごめんね、内緒にするように言われててさー。1年のあずちゃんだけ、明日もすごい早起きだから、どうしようかとも思ったんだけどね」
真弓先輩は、すまなそうに言った。
あたしは首を振った。
全然そんなこと、なくて。少し寝たから、逆にスッキリ!
確かに1年は、先輩達より早起きして、体育館の掃除や、様々な用具の確認や準備やらがあるにはあった。
毎日めっちゃ早起きだから、明日はキツイかもしれないけど、そんなことを気にしてたら、楽しいこと全部逃しちゃう。体のつらさよりも、その方がもっとつらいもの。
気持ちが、わくわくでいっぱいになっていた。
赤や青、緑や黄色の花火に照らされる、先輩達。
無機質で幻想的な世界が、そこにあった。
新しい熱が次々に、生まれ。
そこからもうもうと煙が昇ってゆく。
川面に映った光は、夏祭りで川に流した、色とりどりの燈籠のよう。
たぶん、せんぱいと、同室の2年生の先輩達は、来る前にみんなでお酒を飲んでるんだと思う。
どこか気だるい雰囲気に、あたしも飲み込まれそうになる。
お酒のせい?
後輩が、あたししかいないから、リラックスしてるのかな?
それとも、旅館から抜け出した、つかの間の開放感のせいなのか。
どれか、なのか、全部、なのか。
花火の命は短くて、はかない。時々、ふっと真っ暗になる。
暗闇になると、つかの間、寂寥感が生まれた。
せんぱいは、少しはしゃいでいた。
その表情は、普段よりも子どもっぽくて、はじけるような華やかな笑顔が、闇に浮かび上がり揺れていた。
せんぱいの持つ花火が瞳に映りこみ、ちろちろと炎が灯る。妖しい光はくるくると色を変え続けて、あたしは、こっそりきれいなそれを見ていた。
あのコンビニへ。
「男一人じゃ寂しいだろうから、あずちゃんも行ってあげてー」
せんぱいは、じゃんけんに負けて飲み物を買い物に行くことになり、本気で悔しがっていたのに、真弓先輩の一言で、ぴたっと止まった。
「はい」
あたしは、うれしさがにじみ出ないよう返事をしながら、後について歩きだした。
少しの間、2人とも、黙って歩いた。家もあまりない場所なので、怖かったけど、懐中電灯と、月明かりのおかげもあり、夜道はわりとはっきり見えた。
今日は、またまた、見たことのないせんぱいの姿を見れて。
得をした気分。
心がほくほくだった。
「びっくりした? 」
河原から大分離れたころ、せんぱいは立ち止まって振り向いた。その顔は、どうだ、すごいだろって言ってる。
「びっくりした!! 」
ありがとうございます。
合宿も、最終日に向かって、いよいよラストスパートです☆☆☆