9.ミラクル!!2
あたしなんか、全然だ、せんぱいの方こそ。
主将になってから、初めての合宿で。
練習もきつそうだし、みんなのリーダーとして、気が抜けないだろうし、あのおっかない監督達とも様々なことを話し合ったり、決定したり。
絶対大変すぎる!!
力を緩めると、せんぱいは、やさしくあたしの腕をはずした。
「男だらけの中で、すごくがんばってるな。
小さい体であっちこっちと一生懸命に働いてくれてる。ありがとうな。
真弓もすっげー誉めてた」
「うそぉ」
お互い、小声の会話だった。
あたしは、胸に込み上げてくるものを感じ、ちょっと泣きそうになった。じんわり心が温かくなる。
「ほんとだよ。あずががんばってるから、俺も励まされてる」
せんぱいの囁く声が心地良い。
3年生のマネージャーが引退して、ずっと2人きりだったから。
あたしは、真弓先輩に、迷惑をかけたり、負担をかけたりしないように、必死だった。
大人っぽくて、頭もいいし、器用で、頼りになる。あたしにないものをたくさん持ってる真弓先輩を、とても尊敬していた。
誉めてくれたって聞いて、跳び上がりたいくらいにうれしかった。
それに、超忙しいのに、せんぱいも、気にかけてくれてたなんて……。
「がんばってるから、後でプレゼントあげる」
せんぱいは、謎めいた瞳であたしを見つめた。
「プレゼント? 」
「そう、後のお楽しみ」
あたしは、心の中で首を傾げた。
「誰かに見られない内に、部屋へ戻りなよ? 」
あたしは、頭をなでなでとされて。うれしくて、とてもいい気分になった。
なごり惜しかったけど。
頷いて、せんぱいから離れ、部屋へと歩き出した。口元がゆるんで、どうしようもなくて、両手を口角に当ててさすった。
さっきまで、心細くて気持ちが沈んで、どうしようもなかったっていうのに。ふふ。こんなにも元気が湧いてくるなんて。せんぱいの威力って、超絶☆
部屋へ入るまで、せんぱいはずうっと見届けてくれていた。
その少し、後。
電気を消して、布団に入ると急激に眠りに落ちたようだった。
しばらくした頃―――。
「あずちゃん、あずちゃん……」
あたしを揺り起こす真弓先輩の声で、目が覚めた。
「ごめんね、寝てるとこ」
あたしは、ぼーっとしながら、身体を起こした。
「今から、花火に行くんだけど」
「……は、なび? 」
あたしの頭は、まだうまく働かない。
「実は、監督達が今日、OBと飲みに行ってるのよ」
「出かけちゃったんですか」
「そう、それで、花火に行かないかって」
寝ぼけていた頭が、だんだんはっきりとしてきた。
「今日監督達が出かけるらしいってことは、おとといから知ってて、弓削達が計画したみたいなの」
せんぱいの名前が出たことで、あたしは完全に目が覚めた。
「眠かったら、無理しないでいいよ」
「行きますっ」
あたし達が部屋を出ると、せんぱいが待っていた。
「みんな、もう外だよ」
あたし達は辺りをはばかって、無言で頷き、音を立てないようにこっそりと階下へ向かった。こんな深夜に、旅館を脱け出すなんて!
スリル満点のシチュエーションに、興奮は徐々に高まっていった。これから何が起こるんだろう。わくわくする。
「裏口から出るぞ。開けっ放しになってる。
帰って来た時に監督達が閉めるってことで、旅館の人と話がついてるらしい。たぶん朝方まで帰ってこないはずだ」
あたし達はそれぞれ下駄箱から、シューズを取り出した。
その時、気付いた。
せんぱい?
目のふちが、ほんのりピンクに染まってる。
あ、この匂い……。もしかして。
少しだけ、お酒の香りがした。
あ~、悪いんだ!