6.苛烈2
遠矢は、壁に寄り掛かり、喘ぐような呼吸を繰り返しながら、その場にずるずるとしゃがみこんだ。
普段とはあきらかに様子が違っていた。
次から次に玉のような汗が噴き出し、流れて落ちていく。全身びっしょりで、目つきが異様だった。
あたしは急いでクーラーボックスを開いた。
さっと冷気が顔にかかる。
「大丈夫?」
冷えたおしぼりをつかみ取り、苦しそうな遠矢に手渡す。
遠矢は意識が朦朧としているのか、あたしの声に返ってくる言葉はなかった。
それでも、あたしの手からおしぼりを取り、真っ赤な顔を覆うように当てた。
遠矢の様子を見つつ、クーラーボックスから、ドリンクを取り出し、蓋を開けた。
「飲んだ方がいいよ」
遠矢は一度おしぼりを顔から外し、ペットボトルを受け取ると、口へ運んだ。手が震えている。ボトルの中のポカリの表面が、小刻みに波立った。
震えてうまくいかないようで、真弓先輩が手を添え、やっと口元へ辿り着く。飲みながらも、息がすごく苦しそう。
全身を流れる汗がおさまらない……。あたしと真弓先輩は、何枚も新しいおしぼりを出して、遠矢の汗を拭いた。
それでも流れる汗は止まらなかった。
「脱水かもしれない。体温調節ができにくくなってるかもしれないね。
体を冷やして遠矢くんの部屋で寝かせよう」
真弓先輩が、てきぱきと言って立ち上がった。
「くそ!! 」
落ち着いて来た頃、遠矢は、右腕で顔を隠して、そう言った。部屋はみんなの布団が敷いたままになっていた。
足がもつれそうになりながら、やっと、といった感じで遠矢はここまで歩いてきた。部屋へ戻ると、自分の掛け布団の上にどさっと倒れ込んだ。
その後、あたしが付いていることになり、真弓先輩は、様子が落ち着くのを見計らって、体育館へ戻っていった。
雨が、しとしとと落ちる音だけ。
さっきまでの熱気と騒々しさから離れてみると、時間の経つのはがなんだかやけに遅いような感じがした。
「梓……ごめんな。
脱水って、俺、みっともな」
「みっともなくなんか、ないよ」
遠矢は、汗がひいてくると、ゆっくり起き上がり、のろのろと布団の中に入り込んだ。
汗が冷たくなってきて、体が冷えないか心配だった。様子を見て着替えを勧めたほうがいいかもしれない。
遠矢は、今は右の腕で目の辺りを覆うように隠していた。半袖の袖口が顔を隠して、あたしから、表情は見えない。
遠矢って、体の線が細くて小さいの。
みんなより、スタミナが足りないのか、練習中、すごくつらそうにしている時があるんだよね。
中学の頃は、文化部だったから、体を鍛えたいってこともあってサッカー部に入ったって、前にちらっと聞いたことがある。
だから、前からやっていた人と同じようにいかないのはしょうがないと思う。でも、遠矢って、信じらんないくらい負けず嫌い! だから、今の状況が、悔しくて、悔しくてたまらないんだと思う。がんばりやだから。
その時、どたどたっと足音がして、光輝や村中くん達が入って来た。