6.苛烈1
5日目は。
朝から小雨が降っていて。
周りの風景は一変したよう。
山々には、ほのかに、もやがかかっている。まるで、無音の深遠な水墨画の世界。
練習は……。
早朝の一部練、そして午前の部である二部練、ともに体育館で行われ。
OBの先輩方による、『特訓』となった。厳しい檄が飛ぶ。
あちこちで、大きな声が飛ぶ。
激しい息遣い。
充満する、熱気。
何本も、ダッシュが続く。
「ファイト! 」
体育館の出入り口近くで、あたしはみんなの激闘を見守っていた。みんなの姿に、知らず知らずの内に、力んでいた。
右前方には、せんぱいの姿が見えた。
肩は、激しく上下していて。
荒々しい息遣いは、あたしのところまで息遣いが聞こえてきそうだった。
流れ落ちる汗。
横顔は、前を、鋭く睨みつけている。
次はせんぱい達の列、という時、一瞬口をきゅっとひき結んでから一歩前へ進み出た。
そして、合図と共に走り出す。
風のように、駆けて行く。
他の人よりワンテンポ早く向こうの木製の壁にぱっとタッチして、振り返りざま、すぐにまた勢いをつけて戻って来る。早い。
雨とはいっても、今日は蒸し暑い日だった。
さらに、みんなの興奮と熱気で館内はヒートアップしていた。
気合いがビシビシと、体育館を振動させるよう。1年も、先輩達も、声を出して、自分を、そしてお互いを鼓舞している。飛び交う声と声が、更にみんなを一体にする。
見ているあたしも、ぐっと体に力が入り、じわじわと汗をかいてきた。
せんぱいは、走り終わると、苦しそうに眉根を寄せて、浅い呼吸を何度も繰り返していた。
ぎりっと何かを睨んでいるような目も。
厳しい練習の時は、いつものこと。
爽やかで余裕があるようでいて、カッと熱い闘争心を剥き出しにする瞬間がある。
本気で自分と戦っている人の目だ。
睨みつけているのは、逃げ出したくなる自分の心かもしれない。
誰もが、何かで負けそうになる自分自身と、戦い続けて生きて日々を生きているから。
「遠矢、少し何か飲んでこい」
まだダッシュが続いていて、あたしは、みんなを見ていたんだけど。せんぱいが、急に大きな鋭い声をあげた。
遠矢は、離れた場所から名前を呼ばれ、びくっとしたようだけど、すなおに後ろに下がった。
真弓先輩も、あたしも、遠矢が顔や身体から、普通じゃなく汗を流しているので、気になって、ずっと様子を見ていた。滝のようにという形容がぴったりくる、尋常じゃない発汗だった。
遠矢はふらふらと、あたし達の方へ来た。